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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


多岐川恭『変人島風物詩』(桃源社)

 久しぶりの多岐川恭作品である。ものは『変人島風物詩』。
 奇妙なタイトルがややあざとさを感じさせるが、中身もあざとさ満載の一作であった。まずはストーリーから。

 瀬戸内海に浮かぶ小さな孤島・米島。周囲約三キロほどしかなく、生活に必要な最低限の施設しかないその島に、六人の変人が住んでいた。強欲だが弱いものには過剰に世話を焼く地主、不気味な絵を描く洋画家、弾けなくなったピアニスト、執筆しなくなった小説家、元博徒、病弱な少年。
 そんな島であるとき銃声が起こり、強欲な地主が死体となって発見される。果たしてこれは自殺か事故か殺人か。小説家のもとで文章修行をしながら雑用をこなしている“私”は、駐在所の近藤巡査に協力して捜査に乗り出すが……。

 変人島風物詩

 テクニカルな作品の多い著者が真っ向から本格ミステリに挑んだ作品。
 一種の孤島ものというべきか、限定された条件での連続殺人を扱い、密室トリックにフーダニット、さらには登場人物たちの推理合戦など、ミステリにおけるゲーム性を全面的に打ち出している。密室トリックはまあこんなものかというレベルだけれど(苦笑)、容疑者がごく数人という状況のなか、巧みに伏線も織り込んだうえ、きちんと回収もなされている。

 読んでみると実にまっとうなミステリではあるのだが、面白いのは逆に何かあるのではと感じさせるその仕掛け。まあ、著者本人が意識してやっているのかどうかはわからないのだけれど、たとえば導入部の“私”の語りなどは実に胡散臭くて、それが逆にひねくれた読者の裏をかいているというか。登場人物の愛憎関係も人数の割には多すぎるのもなんだかわざとらしい。

 本作は普通に本格ミステリとして読んでもいいのだが、そういうミステリがもっている胡散臭さ=娯楽性を楽しむ作品といってもいいのかもしれない。傑作というには憚られるが、味付けもユーモラスでなかなか楽しい一冊でありました。

なお、管理人は桃源社版で読んだが、手軽に読めるのは創元推理文庫版。ただ、ネットをみると創元推理文庫版も現在は品切れ中のようで、古本であれば入手可能だ。

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Comments

Edit

satoshiさん

いつもながら、リアルタイムでこのあたりの本を読んでおられるのはすごいですね。昭和五十年代あたりだと、私は多岐川恭の価値どころか、その存在すら気にしていなかった頃だと思います。
その当時から知っていれば、今頃蒐集に苦労することもなかったのですが(苦笑)。

Posted at 23:36 on 04 23, 2018  by sugata

Edit

私も同作は桃源社版で読みました。入手したのは昭和50年代前半だったので、同社のシリーズも比較的古書店には出回っていた時代です。同シリーズでは戸板「第三の演出者」なんかもありましたね。
「異郷の帆」は読んでいましたが、当時多岐川氏はあまり本格ミステリ系の作家のイメージがありませんでした。でも、孤島ものっぽいタイトルだったので手にしたと思います。なかなか本格風味があって楽しく読んだことを覚えています。

Posted at 18:16 on 04 23, 2018  by satoshi

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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