- Date: Sat 12 05 2018
- Category: 海外作家 ウォーレス(エドガー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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エドガー・ウォーレス『J・G・リーダー氏の心』(論創海外ミステリ)
論創海外ミステリでぼちぼち翻訳が続けられているエドガー・ウォーレスの諸作品。二十世紀前半に活躍したエンタメ系ベストセラー作家なので、さすがにその内容が陳腐化していると思いきや、これがいま読んでもけっこうな面白さで、実は密かに新刊を楽しみにしている作家である。
本日の読了本はそのエドガー・ウォーレスの短編集、『J・G・リーダー氏の心』。あの〈クイーンの定員〉にも採られている短編集である。まずは収録作。
The Poetical Policeman「詩的な警官」
The Treasure Hunt「宝さがし」
The Troupe「一味」
The Stealer of Marble「大理石泥棒」
Sheer Melodrama「究極のメロドラマ」
The Green Mamba「緑の毒ヘビ」
The Strange Case「珍しいケース」
The Investors「投資家たち」

おおー、ウォーレスはやはり面白い。傑作とか歴史に残る名作とかいうのとは違うけれども、本作も十分に楽しめる一冊だ。
主人公の探偵役はJ・G・リーダー氏。山高帽に鼻眼鏡、髭面に黒いフロックコートという地味な見た目、おまけに話をしても遠慮がちで控えめの、なんとも冴えないアラフィフ独身男だ。
ところが実はロンドンの公訴局長官事務所に勤務する凄腕捜査官。犯罪者たちがその凡庸な外見に騙され油断しているところを、リーダー氏は得意の読心術によって真相を見抜き、ロンドンの平和を守っているというわけである。
まあ、これは設定の勝利だろう。風采のあがらない男が実はキレッキレの頭脳を披露するというギャップの爽快感。いってみれば「刑事コロンボ」みたいなキャラクターである。いや、頭だけではなく度胸もあるし、いざとなれば暴力沙汰も厭わないところなどはコロンボ以上か。そんなリーダー氏が犯罪者をいかにしてやっつけるかが見どころであり、これは人気が出ない方がおかしい。
コロンボといえば、もうひとつ共通点がある。リーダー氏は読心術によって、つまり犯罪者の気持ちや考えを理解することで事件の真相に辿りつくわけだが、注目したいのは読心術よりもむしろ捜査における“気づき”の部分。例えば「こんな寒い時期に川縁に家を借りるのはおかしい」とか、「花でいっぱいの花壇の中で、一本だけバラが枯れているのはなぜ?」とか、そういう気づきから推理を展開していくところもまたコロンボ的なのである。
まあ、謎解きという観点ではユルいところもあって、むしろ冒険小説的な性格が強いところもあるのだが、だからこそ作品ごとのムラも少なく楽しく読めるのかもしれない。マンネリを防ぐためか、アクセントとしてうら若き女性とのロマンスもあったりして、その展開も含めてシリーズの行方が気になるところだ。
長編、短篇どちらもまだ残っているので、このレベルならもう少し紹介を続けてもよいのでは。>論創社さん
本日の読了本はそのエドガー・ウォーレスの短編集、『J・G・リーダー氏の心』。あの〈クイーンの定員〉にも採られている短編集である。まずは収録作。
The Poetical Policeman「詩的な警官」
The Treasure Hunt「宝さがし」
The Troupe「一味」
The Stealer of Marble「大理石泥棒」
Sheer Melodrama「究極のメロドラマ」
The Green Mamba「緑の毒ヘビ」
The Strange Case「珍しいケース」
The Investors「投資家たち」

おおー、ウォーレスはやはり面白い。傑作とか歴史に残る名作とかいうのとは違うけれども、本作も十分に楽しめる一冊だ。
主人公の探偵役はJ・G・リーダー氏。山高帽に鼻眼鏡、髭面に黒いフロックコートという地味な見た目、おまけに話をしても遠慮がちで控えめの、なんとも冴えないアラフィフ独身男だ。
ところが実はロンドンの公訴局長官事務所に勤務する凄腕捜査官。犯罪者たちがその凡庸な外見に騙され油断しているところを、リーダー氏は得意の読心術によって真相を見抜き、ロンドンの平和を守っているというわけである。
まあ、これは設定の勝利だろう。風采のあがらない男が実はキレッキレの頭脳を披露するというギャップの爽快感。いってみれば「刑事コロンボ」みたいなキャラクターである。いや、頭だけではなく度胸もあるし、いざとなれば暴力沙汰も厭わないところなどはコロンボ以上か。そんなリーダー氏が犯罪者をいかにしてやっつけるかが見どころであり、これは人気が出ない方がおかしい。
コロンボといえば、もうひとつ共通点がある。リーダー氏は読心術によって、つまり犯罪者の気持ちや考えを理解することで事件の真相に辿りつくわけだが、注目したいのは読心術よりもむしろ捜査における“気づき”の部分。例えば「こんな寒い時期に川縁に家を借りるのはおかしい」とか、「花でいっぱいの花壇の中で、一本だけバラが枯れているのはなぜ?」とか、そういう気づきから推理を展開していくところもまたコロンボ的なのである。
まあ、謎解きという観点ではユルいところもあって、むしろ冒険小説的な性格が強いところもあるのだが、だからこそ作品ごとのムラも少なく楽しく読めるのかもしれない。マンネリを防ぐためか、アクセントとしてうら若き女性とのロマンスもあったりして、その展開も含めてシリーズの行方が気になるところだ。
長編、短篇どちらもまだ残っているので、このレベルならもう少し紹介を続けてもよいのでは。>論創社さん
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そう、単純に能ある鷹は爪を隠すだけではなく、ブラックな部分が深さを感じさせますね。大人向けのいいドラマになりそうです。
ウォーレスは作品の概要だけ聞くと、ただの大衆娯楽作家なんですが、他にはない要素(アイディア)を必ず盛り込んでくるなど、いざ読んでみるとその工夫とセンスにいつも驚かされます。