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 ロス・マクドナルドのリュウ・アーチャーものの五作目『犠牲者は誰だ』を読む。まずはストーリー。

 ロスへの帰り道、私立探偵リュウ・アーチャーは道路脇の側溝で膝をついている血まみれの男を発見する。近くモーテルへ運び込んだが、まもなく男は息をひきとってしまう。男の名はトニイ。地元のトラック運送展で働くメキシコ人の若者で、モーテルの主人・ケリガンとも知り合いだったが、その態度は決して温かいものではなかった。それどころかモーテルの主人は妻とも不仲のようであり、事件を担当する保安官のチャーチとも折り合いが悪いようだった。
 やがてアーチャーは、トニイが積み荷のウイスキー数万ドル分を奪われたこと、その依頼主がケリガンだったこと、トニイがつきまとっていた女性アンが失踪していること、アンがトニイの勤務先の社長の娘だったことを知り、これが単なる強盗事件ではないと考える……。

 犠牲者は誰だ

 シリーズ当初はフィリップ・マーロウに影響を受けたような能動的な展開のアーチャーものだったが、四作目『象牙色の嘲笑』ではけっこうアクションも抑えめで、いよいよ後期作品に近くなってきたかと思ったのだが、まだそれは気が早かったようだ(苦笑)。
 本作はまたもや前のめり気味のアーチャーに出会え、むしろここまでの作品ではもっとも激しいアクションを披露し、殴ったり殴られたりと忙しい。しかもアーチャー自身のロマンスや若かりし日の思い出も盛り込まれるというサービスぶり。事件の発端もいつもなら失踪人捜索の依頼というパターンが多いけれども、本作ではアーチャーが被害者を発見するという導入なのも珍しい。

 もちろんそれだけの物語ではなく、やはり特筆すべきは、アメリカの抱える闇にのまれて苦悩する人々のドラマだ。とりわけモーテル経営者の家族、アンの暮らしていた運送会社の家族、保安官の家族という3つの家族は印象深い。嘘で塗り固められ、複雑に絡み合う人間模様の裏には、そうならざるを得なかった事情がある。その運命を甘んじて受ける人もあり、変えようともがく人もいる。その軋轢が悲しい事件を引き起こす。
 そんな人々に翻弄され、ときにはトラックに轢き殺されそうになっても真実を求めるアーチャーは、まさにアメリカの正義を象徴する存在でもあるのだろう。

 そして、これまた忘れてならないのが、ミステリとしてのインパクトがきちんと備わっていること。信用できない人間ばかりという状況のなかで、なかなか意外なラストなどは期待しにくいのだが、このハードルを超えていくのがロス・マクドナルドの偉いところである。しかも例によってかなり苦目の真相であり、爽快感などとは程遠いラストにしばらくは胸が詰まるほどだ。

 ということで本作も十分に楽しめた。やや味わいは異なるが『象牙色の嘲笑』と並んで初期の代表作といってもいい一作である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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