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 多岐川恭の『私の愛した悪党』を読む。まずはストーリーから。

 昭和十四年のこと、ある人気作家・佐川の生後まもない女の子が誘拐されるという事件が起こる。身代金の受け渡しに失敗し、警察の捜査もむなしく犯人は誘拐した赤ん坊とともにその行方をくらませた。
 それから二十年、感動の再会を果たした佐川夫妻と娘の姿があった。彼女は無事に生きていたのだ。だが、彼らの会話の様子にはちょっと不思議なところがあった。親子はこれが二十年ぶりの再会だというのに、なぜか顔見知りのような雰囲気なのである。いったい再会の裏には、どんな出来事があったのか……。

 私の愛した悪党

 本作は著者四作目の長編でユーモアミステリに挑戦している。
 もちろん多岐川恭のことなので、ただのユーモアミステリで終わるはずもなく、構成に趣向を凝らしつつ、大きな二つの謎を提示してストーリーを引っ張っていくのがミソ。

 まずはその構成に驚かされる。本書はまずプロローグとして、未解決に終わった誘拐事件の顛末を紹介するのだが、その直後にいきなりエピローグをぶちこんでくる。
 しかもその内容というのが、誘拐事件が無事に解決したことを祝う集まりで、作家の家に帰ってきた娘、そして娘の友人たちも集まっての大団円というもの。
 先に結末を見せることで物語のポイントを誘導しているというか、続く本編の興味につなげようとするのが大きな狙いなのだろう。また、ユーモアミステリという性質上、ハッピーエンドを強調して安心して読んでもらいたいという著者の気持ちがあったのかもしれない。

 そしておもむろに幕をあける本編。
 こちらは下町の中華料理屋と下宿が一緒になった「珍来荘」を舞台に、店主の娘・ノユリを語り手として、下宿で起こった殺人事件を描く。こちらも殺人事件だけでは終わらせず、エピローグで示された“誘拐された娘は果たして誰か?”という興味でも展開してゆく。

 というように趣向を凝らした一作ではあるのだが、ぶっちゃけミステリとしては残念ながらいまひとつ。殺人事件もそれほど意外性があるわけではないし、娘探しに至ってはあまりにミエミエすぎて、多岐川恭にしては残念な出来である。
 まあ、そうはいっても本書の場合、殺人事件で彩りを添えてはいるが、キャラクターの面白さやほのぼのとしたドラマを楽しみほうが優先だろう。ミステリとして低調とかいうのは野暮な気もする。
 実際、トータルでは楽しく読めており、特に下宿人で画家の万代さんが繰り広げるケチな詐欺の手口の数々は面白かった。多岐川恭流の新喜劇、そんな一作である。

 なお、管理人は講談社の書下し長編推理小説シリーズで読んだが、講談社文庫版、さらには創元推理文庫版の『変人島風物誌』(表題作品とのカップリング)もある。どれも絶版で古書でしか入手はできないが、文庫だったらどれも比較的安価のようだ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





涼さん

ドタバタありながらもハッピーエンドという予定調和の世界ですね。記事でも書きましたが、なんかこう吉本新喜劇を見ているような感じでした(笑)。
【2018/05/29 00:03】 URL | sugata #-[ 編集]

面白かったです、って月並みな感想ですね。
女性三人の年齢が自分の少し上というのも、親しみが持てました。
【2018/05/28 08:51】 URL | #LkZag.iM[ 編集]















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