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 本日の読了本は論創海外ミステリからS・A・ステーマンの『盗まれた指』。
 ステーマンの新刊を読めるというのがまず嬉しい。フランス・ミステリでは数少ない本格の書き手で(といっても厳密にはベルギー出身だが)、本格黄金時代にはけっこうな人気を集めたようで、その著作数も少なくない。
 ただ、いかんせん我が国での人気はさっぱり。『六死人』や『殺人者は21番地に住む』、『ウェンズ氏の切り札』などが訳出されたが、せいぜい十年に一冊ペース、本当に思いだしたようにしか翻訳はされていない。まあ、これまでの作品の出来を考えると、正直これは致し方ないところなのだが、久々の新刊で少しは巻き返しなるのだろうか。

 こんな話。
 幼い頃に両親を亡くした娘クレールは会社を解雇され、失意のどん底にいた。ところが伯父アンリ・ド・シャンクレイが住むトランブル城に招待され、ともに暮らすことになる。ただ、伯父と家政婦レイモン夫人の確執をはじめ、何やら水面下では不穏な空気が流れている。
 そんなとき、クレールは自動車事故を目撃し、その車を運転していた青年アルマンタンと恋に落ちる。気持ちが上向いたかと思いきや、城内では殺人事件がダブルで発生し……という一席。

 盗まれた指

 全体的にはゴシック・ロマン風の物語。帯には"ゴシック・サスペンス恋愛ミステリ"と謳ってあるが、ヒロイン・クレールがトランブル城で密かに進行している陰謀に巻き込まれるなか、恋人候補との出会いがあり、そうこうしているうちに不可解な殺人事件発生と、まあ、確かに間違ってはいない。
 だが、これはあくまで前半部分の話。中盤以降は探偵役の警官が登場し、普通に本格ミステリ的進行となるのだが、個人的にはむしろその方が助かる。なにしろメインとなる殺人事件では、異なる毒で殺害された死体が二つ、しかも一人は指を切り取られているという、なかなか魅力的な導入なのである。これをゴシック・サスペンス恋愛ミステリで進められてはあまりにもったいないではないか。

 だが、ステーマンの作品全般にいえるのだが、着想はいいのだけれど、それを支えるトリックやプロットがいまひとつ。作風的にはクリスティとの類似性が解説で書かれているけれど、その処理や使い方はクリスティに比べるとだいぶ落ちる。
 たとえば被害者の一人は指が失われているわけで、読者としてはその不可解な状況の理由が知りたいわけだ。その理由が明らかになったとき、犯人の姿もまた自然に浮かび上がる、これぐらいは期待したいところなのだけれど、いざ蓋を開けると、盗まれた指の秘密はかなり期待外れだ。

 とはいえ、それぐらいならまだ許せる範囲。より大きな問題は、そもそもステーマンがあまり小説が上手くないことだろう。ストーリー展開や会話に不自然なところがあったり、雑な描写をしたり、それらが気になってなかなか物語を楽しむところまでいかないのである。
 これは具体的に説明するのが難しいけれど、たとえばヒロインたるクレールの言動はとりわけきつい。使用人の重大な話を立ち聞きして、その疑惑をストレートに本人に問いただす。事故現場で青年に迫られてあっというまに恋に落ちる。特に理由がないにもかかわらず警察官には嘘をついたり重要な事実を教えなかったりする。性格付けが基本的にぶれているというか、ここまで気分の赴くままにやられては捜査する警官も災難である。
 このほか警官も雑というか弱気というか、きちんとした捜査を進める感じがなく、伯父にしても家政婦にしても、けっこうあけすけに秘密をしゃべったりして、なんというかミステリに必要な緻密さみたいなものがほぼ感じられないのだ。

 まあ、メインのネタ自体は悪くないのだけれど、それこそクリスティーがまとめていたらもう少し読み物として面白くなったのではないだろうか。
 著作は多いので当時はそれなりに人気があったのだろうが、ううむ、当時どういう評価をされていたのか気になるところだ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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