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ロス・マクドナルド『わが名はアーチャー』(ハヤカワミステリ)
ロス・マクドナルド読破計画の六冊目は初の短編集『わが名はアーチャー』。まずは収録作から。
Gone Girl (The Imaginary Blonde「逃げた女」
The Suicide (The Beat-Up Sister)「自殺した女」
Guilt-Edged Blonde「罪になやむ女」
The Sinister Habit (The Guilty Ones)「不吉な女」
Wild Goose Chase「雲をつかむような女」
The Bearded Lady (Murder Is a Public Matter)「ひげのある女」
Find the Woman「女を探せ」

“女”というキーワードで統一された各短編だが、原題はごらんのようにほとんど関係なく、これは邦訳時の企画である。
全体の印象としては、初期長篇をそのまま短くしたような雰囲気か。すなわち事件に前のめり気味で血の気も多いアーチャー。アクションシーンも多いのだが、それでいてシンプルなストーリーに終わらせるのではなく、事件の背景には意外に複雑な真相が待っている。
本国での刊行は『犠牲者は誰だ』の翌年となる1954年。それまでに書かれた短編を集めたものなので、まあ雰囲気が似ていて当然ではあるのだが。
さすがに長篇と比べると、深さという部分では物足りないが、それでもこのクオリティは同時代の他のハードボイルド作家よりは一枚も二枚も上である。
以下は各作品の感想を簡単に。
まずは巻頭の「逃げた女」。アーチャーが泊まったモーテルで女の悲鳴が聞こえ、駆けつけたアーチャーの足下には、血だまりが……というストーリー。モーテルの関係者たちへの不信感からアーチャーは事件に興味をもつが、真相にはなんとも言えぬ物悲しさが漂う。
「自殺した女」は、アーチャーが列車内で若い女性と知り合いになるところから幕を開ける。彼女は連絡のとれない姉のことを心配しているのだが……。歪んだ動機、哀れを誘うラストが強い印象を残す。
訳ありの男に短期間のボディガードを頼まれる物語が「罪になやむ女」。アーチャーを迎えにきた依頼人の義弟とともに依頼人の家へ向かうが、依頼人はすでに亡くなっていた。導入は悪くないが、いかんせんボリュームが小さく、著者の持ち味が十分に発揮されているとはいいがたい。
「不吉な女」の依頼人は女子高を経営する男。その学校で教頭を勤める自分の妹が、美術教師と一緒にいなくなったという。
これまた導入がいかにもロスマクっぽいのだけれど、登場人物の言動が全体的にふらふらしており、消化不良というか納得できないまま読み終える感じ。
「雲をつかむような女」は、謎の女から、ある事件の裁判を傍聴してほしいという奇妙な依頼で幕を開ける。法廷ミステリの味わいもあり、本格ミステリの趣向もあるという異色作。長編にしても面白かったかも。
ロス・マクドナルドには珍しく、美術界を舞台にした作品が「ひげのある女」。本書の中ではもっとも長い作品だが、やはりこれぐらいボリュームがないと、ロス・マクドナルドの良さが伝わらないような気がする。
もっとも異色作なのが、ラストの「女を探せ」。軍隊から復員してきたばかりのアーチャーが、失踪した娘の捜索を母親から依頼される。犯行の動機に関わる闇、そして殺害方法が予想の斜め上をいっており、これは本格ファンにもオススメかも。
EQMM第一回短編コンテストに入賞した作品でもあり、ロスマクが雑誌にあわせてそういう路線を狙った可能性は高いだろう。ちなみに入賞したときの作品は、主人公がアーチャーではなく、後に書き直されたらしい。
Gone Girl (The Imaginary Blonde「逃げた女」
The Suicide (The Beat-Up Sister)「自殺した女」
Guilt-Edged Blonde「罪になやむ女」
The Sinister Habit (The Guilty Ones)「不吉な女」
Wild Goose Chase「雲をつかむような女」
The Bearded Lady (Murder Is a Public Matter)「ひげのある女」
Find the Woman「女を探せ」

“女”というキーワードで統一された各短編だが、原題はごらんのようにほとんど関係なく、これは邦訳時の企画である。
全体の印象としては、初期長篇をそのまま短くしたような雰囲気か。すなわち事件に前のめり気味で血の気も多いアーチャー。アクションシーンも多いのだが、それでいてシンプルなストーリーに終わらせるのではなく、事件の背景には意外に複雑な真相が待っている。
本国での刊行は『犠牲者は誰だ』の翌年となる1954年。それまでに書かれた短編を集めたものなので、まあ雰囲気が似ていて当然ではあるのだが。
さすがに長篇と比べると、深さという部分では物足りないが、それでもこのクオリティは同時代の他のハードボイルド作家よりは一枚も二枚も上である。
以下は各作品の感想を簡単に。
まずは巻頭の「逃げた女」。アーチャーが泊まったモーテルで女の悲鳴が聞こえ、駆けつけたアーチャーの足下には、血だまりが……というストーリー。モーテルの関係者たちへの不信感からアーチャーは事件に興味をもつが、真相にはなんとも言えぬ物悲しさが漂う。
「自殺した女」は、アーチャーが列車内で若い女性と知り合いになるところから幕を開ける。彼女は連絡のとれない姉のことを心配しているのだが……。歪んだ動機、哀れを誘うラストが強い印象を残す。
訳ありの男に短期間のボディガードを頼まれる物語が「罪になやむ女」。アーチャーを迎えにきた依頼人の義弟とともに依頼人の家へ向かうが、依頼人はすでに亡くなっていた。導入は悪くないが、いかんせんボリュームが小さく、著者の持ち味が十分に発揮されているとはいいがたい。
「不吉な女」の依頼人は女子高を経営する男。その学校で教頭を勤める自分の妹が、美術教師と一緒にいなくなったという。
これまた導入がいかにもロスマクっぽいのだけれど、登場人物の言動が全体的にふらふらしており、消化不良というか納得できないまま読み終える感じ。
「雲をつかむような女」は、謎の女から、ある事件の裁判を傍聴してほしいという奇妙な依頼で幕を開ける。法廷ミステリの味わいもあり、本格ミステリの趣向もあるという異色作。長編にしても面白かったかも。
ロス・マクドナルドには珍しく、美術界を舞台にした作品が「ひげのある女」。本書の中ではもっとも長い作品だが、やはりこれぐらいボリュームがないと、ロス・マクドナルドの良さが伝わらないような気がする。
もっとも異色作なのが、ラストの「女を探せ」。軍隊から復員してきたばかりのアーチャーが、失踪した娘の捜索を母親から依頼される。犯行の動機に関わる闇、そして殺害方法が予想の斜め上をいっており、これは本格ファンにもオススメかも。
EQMM第一回短編コンテストに入賞した作品でもあり、ロスマクが雑誌にあわせてそういう路線を狙った可能性は高いだろう。ちなみに入賞したときの作品は、主人公がアーチャーではなく、後に書き直されたらしい。
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