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結城昌治『軍旗はためく下に』(中公文庫)
結城昌治の『軍旗はためく下に』を読む。1970年、第六十三回の直木賞を受賞した戦記ものの連作短編集である。ちなみに本作はまったくミステリではないので念のため。
敗戦後、二十年以上が過ぎ、ある戦友会では当時の思い出を集めた回想録を作ろうという話が持ち上がった。ただし将校や下士官の手柄話だけでは部隊や戦争のごく一面しか伝わらない。編集委員は軍法会議で処分された戦友の話も載せようと、関係者に話を聞いてまわる……というような設定で、本書では以下のような五人のエピソードが順番に語られてゆく。
「敵前逃亡・弄敵」
「従軍免脱」
「司令官逃避」
「敵前党与逃亡」
「上官殺害」

五作に共通するのは、主人公たちが陸軍刑法の裁きのもと、既に遠い異国で処刑されているということ。また、刑を受けた理由は決して本人の責だけにあるのではない。もちろん表面的には軍規に背いているのだが、根本的な原因は戦争という極限状態の恐ろしさである。戦争によって人は狂い、その狂った人間によって動かされる組織が理不尽を生み、新たな恐怖を招くのである。
本作はそんな狂った組織と人々の知られざる真実を明らかにしようとする一冊。
むろんフィクションだし、誇張もあるだろうが、これらを扇情的に語るのではなく、むしろ昔話のように淡々と語っていくことで、より現実感をもって迫ってくる。登場人物たちもいわゆる反戦小説のように正面切った反戦を謳うのではなく、むしろ小狡い男や小心者だったりするわけで、そういう普通の冴えない男たちがふとしたはずみで罪を問われ、処刑されていく姿はなんとも辛い。
そして、戦争の痛ましさはもちろんだが、戦争のような極限状態以外でも、私たちは時の法律や組織について、その在り方を常に認識しておかなければならないのだと強く感じた次第である。
この手の戦記ものは決して少なくないが、結城昌治の語りはやはり頭ひとつ抜けている印象で、文句なしの傑作。
ちなみに深作欣二監督によって映画化もされているが、そちらも傑作とのことなのでいずれ観ておきたいところだ。
敗戦後、二十年以上が過ぎ、ある戦友会では当時の思い出を集めた回想録を作ろうという話が持ち上がった。ただし将校や下士官の手柄話だけでは部隊や戦争のごく一面しか伝わらない。編集委員は軍法会議で処分された戦友の話も載せようと、関係者に話を聞いてまわる……というような設定で、本書では以下のような五人のエピソードが順番に語られてゆく。
「敵前逃亡・弄敵」
「従軍免脱」
「司令官逃避」
「敵前党与逃亡」
「上官殺害」

五作に共通するのは、主人公たちが陸軍刑法の裁きのもと、既に遠い異国で処刑されているということ。また、刑を受けた理由は決して本人の責だけにあるのではない。もちろん表面的には軍規に背いているのだが、根本的な原因は戦争という極限状態の恐ろしさである。戦争によって人は狂い、その狂った人間によって動かされる組織が理不尽を生み、新たな恐怖を招くのである。
本作はそんな狂った組織と人々の知られざる真実を明らかにしようとする一冊。
むろんフィクションだし、誇張もあるだろうが、これらを扇情的に語るのではなく、むしろ昔話のように淡々と語っていくことで、より現実感をもって迫ってくる。登場人物たちもいわゆる反戦小説のように正面切った反戦を謳うのではなく、むしろ小狡い男や小心者だったりするわけで、そういう普通の冴えない男たちがふとしたはずみで罪を問われ、処刑されていく姿はなんとも辛い。
そして、戦争の痛ましさはもちろんだが、戦争のような極限状態以外でも、私たちは時の法律や組織について、その在り方を常に認識しておかなければならないのだと強く感じた次第である。
この手の戦記ものは決して少なくないが、結城昌治の語りはやはり頭ひとつ抜けている印象で、文句なしの傑作。
ちなみに深作欣二監督によって映画化もされているが、そちらも傑作とのことなのでいずれ観ておきたいところだ。
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