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 先日に続き、またまた多岐川恭。本日は創元推理文庫版で『静かな教授』とカップリングされている『人でなしの遍歴』。『静かな教授』はちょっと変わったタイプの倒叙であったが、本作もまた少々ひねった設定のサスペンスとなっている。

 こんな話。出版社を営む篠原喬一郎は何者かによって命を狙われていた。このひと月の間に、三度も殺されかけたのだ。体調が悪く、家族とも不仲の状態が続いていたこともあり、篠原は殺すならさっさと殺してくれと思うようにまでなっていた。
 しかし、理由もわからぬまま殺されるのはスッキリしない。せめてその相手だけは知っておきたい。幸か不幸か、これまで非道な人生を送ってきた篠原だけに、思い当たる容疑者は山ほどいる。篠原は犯人を確かめるべく、その容疑者のもとへ巡礼の訪問を続けることにしたが……。

 人でなしの遍歴

 まあ、変なストーリーである。これまで散々悪事を働いてきた親父が、自分を殺そうとする可能性のある容疑者たちのもとを訪れ、その真偽を確かめる。容疑者は全部で六人おり、もちろん今でも篠原のことを恨んでいる。今でも殺したやりたいと告げる。それでも彼らには、いま守るべき生活があり、これからの人生もある。恨んではいるが自分はやってないとも話す。
 篠原はそんな容疑者の中から犯人を見つけ出そうとするが、正直、犯行は大したものではないし、犯人当ての興味も薄い。謎がどうこうというより、篠原が贖罪の行脚によって、どのように精神的に変わっていくかというのが興味の中心である。

 ただ、そもそも発端から主人公が生きる気力を失っているので、そこまで酷い男に思えず、“人でなしの遍歴”が切実に伝わってこないのが残念。その空気はラストまで変わらず、変にさわやかなイメージで締めくくられてしまう。まあ、それが奇妙な味といえないこともないので、おそらくこの味こそ著者の狙ったところなのだろうが。
 とはいえ個人的には、なんじゃこりゃ(苦笑)という感じで。真相も含め、これまで読んできた多岐川作品のなかでは落ちるほうか。主人公の改心がもう少し丁寧に描かれていれば、それこそ奇妙な味の傑作になった気もするが、残念ながらそこまでには至っていない。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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