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魔子鬼一『屍島のイブ』(盛林堂ミステリアス文庫)
魔子鬼一の作品集『死島のイブ』を読む。西荻窪の古書店・盛林堂書房さんのレーベル「盛林堂ミステリアス文庫」から昨年に出されたもので、長編「怪盗六つ星」のほか短編七作を収録している。ちなみにこれが第一巻で、続く第二巻も発売済みである。
盛林堂ミステリアス文庫は商業出版として難しいものを拾遺的に出してくれているが、今回は論創ミステリ叢書並みのボリューム感である。
「死島のイブ」
「変質の街」
「猟奇園殺人事件」
「田虫男娼殺し」
「三人の妻を持つ屍体」
「山吹・はだかにて死す」
「深夜の目撃者」
「怪盗六つ星」

魔子鬼一は戦後間もない頃、1950年代を中心に作品を発表したが、今では忘れられた作家である。
その名前を意識したのは若狭邦男氏の『探偵作家追跡』であったと思うが、その後、光文社文庫のアンソロジー『「宝石」一九五〇 牟家殺人事件』で初めて長編「牟家殺人事件」を読むことができた。ただ、そのときの印象は決してよくはない。本格探偵小説の体ではあるが、肝心の出来がいまひとつであった。
本書も読める嬉しさは大いにあったが、やはり心配なのは中身である。
というわけで感想だが、これはなんと言っていいのか(苦笑)。
とにかく超B級感というか、ドライブ感が凄まじい。だいたいが“魔子鬼一”というペンネームからして怪しさ満点なわけだが、見事にそのイメージどおりの作品ばかりである。
一応は本格志向というか、不可能興味や謎解きを中心に据えた作品は少なくない。しかし、その味つけがほぼほぼエログロ風味。しかもストーリー自体はサスペンスを強調したスピーディーなものという、このジャンルのごたまぜ感(笑)。本格と変格の融合といえば聞こえはいいが、残念ながら本格としてはあまりに雑、いや小説としても雑だろう。攻めている感じはあって個人的に嫌いな作風ではないのだけれど、もう少し書いたものを推敲して、完成度を高める努力はしてほしかったというのが正直なところだ(笑)。
以下、作品ごとに感想など。
本格志向とは書いたが、表題作の「屍島のイブ」だけは例外で純粋なスリラー。主人公の信一は漂着した孤島で一人の老人と出会う。彼によると、この島は世界中の漂流死体が流れ着く島だという。老人はその流れ着いた死体を食って生きながらえていたのだ。恐ろしくなった信一は老人の元から逃げるが、今度は一人の女性と出会い……。
これが本書中のピカイチ。へたに謎解き興味など盛り込まず、そのセンス一本で勝負しているのがよい。この異様な雰囲気だけはなかなか他所で味わえないだろう。
「変質の街」は覗き見趣味のある青年の奇妙な体験談。人妻が自害した場面を目撃するが、翌日、彼女はなぜか生きていて……というもの。トリックというほどのトリックではないし、そもそもそのトリックを構成する事実に無理がある。ただ、真相が明かされるまでのサスペンスや雰囲気には味があって捨てるには惜しい作品。
乱歩へのオマージュとして書かれたという「猟奇園殺人事件」。「屋根裏の散歩者」を持ち出したり、著者としてはけっこう気合が入っていたのだろうが……ううん、残念ながら これは本書中でもかなり落ちる方。
「田虫男娼殺し」はタイトルがあまりといえばあまりなのだが、実は物語の導入と結末を見事に言い表している(苦笑)。内容には無理があるけれども、男娼が殺される謎はまずまず引き込まれる。
「三人の妻を持つ屍体」はまさにタイトルどおりの設定であり、その設定からして無理があるうえに発端もなんだかなぁという感じ。登場人物の言動が著者の都合だけで行われているため、不自然この上ない。
主人公が秘密映画上映会に誘われ、そこでストリップをやっている義姉を偶然目撃し……というのが「山吹・はだかにて死す」。乱歩の作品のような導入は興味深いが、その後のご都合主義に疲れてしまうし、主人公と義姉のやりとりも釈然としない。
「深夜の目撃者」は医師の老夫婦のもとへ現れたヤクザ者を治療するところから幕をあける。そのヤクザ者が実は記憶喪失の復員した息子らしいのだが……という一席。エログロ風味は珍しく少ないが、設定がちょっと変わっているのでけっこう楽しく読める。
本書中、唯一の長編「怪盗六つ星」は、アルセーヌ・ルパンを意識したかのような義賊を扱った作品。ただ、怪盗側から描いた冒険ものというわけではなく、主人公はあくまで警察側。しかも基本的にはトリックや謎解きも満載した本格ものである。
こんな話。怪盗六つ星という義賊を追う警察は、青柳刑事の活躍もあり、ついに六つ星を追い詰める。だが、六つ星のいる部屋へ踏み込んだ警官たちは、そこで六つ星の死体を発見する。自害か、それとも他殺なのか。疑惑が残る中、次々と事件関係者が殺害されてゆく……。
ストーリーはかなり意表を突く形で展開し、サスペンスも相まってなかなか読ませる。ただ、ほぼ重要人物が死んでしまって、それでも捻りを効かせたいせいか、ラストはけっこう無理矢理である。残念ながらそれらの無理を成立させるほどのトリック、伏線なども弱く、完成度は低い。
六つ星の設定や狙いは面白いので、もう少し手直しすればけっこうな作品になったのではないだろうか。
盛林堂ミステリアス文庫は商業出版として難しいものを拾遺的に出してくれているが、今回は論創ミステリ叢書並みのボリューム感である。
「死島のイブ」
「変質の街」
「猟奇園殺人事件」
「田虫男娼殺し」
「三人の妻を持つ屍体」
「山吹・はだかにて死す」
「深夜の目撃者」
「怪盗六つ星」

魔子鬼一は戦後間もない頃、1950年代を中心に作品を発表したが、今では忘れられた作家である。
その名前を意識したのは若狭邦男氏の『探偵作家追跡』であったと思うが、その後、光文社文庫のアンソロジー『「宝石」一九五〇 牟家殺人事件』で初めて長編「牟家殺人事件」を読むことができた。ただ、そのときの印象は決してよくはない。本格探偵小説の体ではあるが、肝心の出来がいまひとつであった。
本書も読める嬉しさは大いにあったが、やはり心配なのは中身である。
というわけで感想だが、これはなんと言っていいのか(苦笑)。
とにかく超B級感というか、ドライブ感が凄まじい。だいたいが“魔子鬼一”というペンネームからして怪しさ満点なわけだが、見事にそのイメージどおりの作品ばかりである。
一応は本格志向というか、不可能興味や謎解きを中心に据えた作品は少なくない。しかし、その味つけがほぼほぼエログロ風味。しかもストーリー自体はサスペンスを強調したスピーディーなものという、このジャンルのごたまぜ感(笑)。本格と変格の融合といえば聞こえはいいが、残念ながら本格としてはあまりに雑、いや小説としても雑だろう。攻めている感じはあって個人的に嫌いな作風ではないのだけれど、もう少し書いたものを推敲して、完成度を高める努力はしてほしかったというのが正直なところだ(笑)。
以下、作品ごとに感想など。
本格志向とは書いたが、表題作の「屍島のイブ」だけは例外で純粋なスリラー。主人公の信一は漂着した孤島で一人の老人と出会う。彼によると、この島は世界中の漂流死体が流れ着く島だという。老人はその流れ着いた死体を食って生きながらえていたのだ。恐ろしくなった信一は老人の元から逃げるが、今度は一人の女性と出会い……。
これが本書中のピカイチ。へたに謎解き興味など盛り込まず、そのセンス一本で勝負しているのがよい。この異様な雰囲気だけはなかなか他所で味わえないだろう。
「変質の街」は覗き見趣味のある青年の奇妙な体験談。人妻が自害した場面を目撃するが、翌日、彼女はなぜか生きていて……というもの。トリックというほどのトリックではないし、そもそもそのトリックを構成する事実に無理がある。ただ、真相が明かされるまでのサスペンスや雰囲気には味があって捨てるには惜しい作品。
乱歩へのオマージュとして書かれたという「猟奇園殺人事件」。「屋根裏の散歩者」を持ち出したり、著者としてはけっこう気合が入っていたのだろうが……ううん、残念ながら これは本書中でもかなり落ちる方。
「田虫男娼殺し」はタイトルがあまりといえばあまりなのだが、実は物語の導入と結末を見事に言い表している(苦笑)。内容には無理があるけれども、男娼が殺される謎はまずまず引き込まれる。
「三人の妻を持つ屍体」はまさにタイトルどおりの設定であり、その設定からして無理があるうえに発端もなんだかなぁという感じ。登場人物の言動が著者の都合だけで行われているため、不自然この上ない。
主人公が秘密映画上映会に誘われ、そこでストリップをやっている義姉を偶然目撃し……というのが「山吹・はだかにて死す」。乱歩の作品のような導入は興味深いが、その後のご都合主義に疲れてしまうし、主人公と義姉のやりとりも釈然としない。
「深夜の目撃者」は医師の老夫婦のもとへ現れたヤクザ者を治療するところから幕をあける。そのヤクザ者が実は記憶喪失の復員した息子らしいのだが……という一席。エログロ風味は珍しく少ないが、設定がちょっと変わっているのでけっこう楽しく読める。
本書中、唯一の長編「怪盗六つ星」は、アルセーヌ・ルパンを意識したかのような義賊を扱った作品。ただ、怪盗側から描いた冒険ものというわけではなく、主人公はあくまで警察側。しかも基本的にはトリックや謎解きも満載した本格ものである。
こんな話。怪盗六つ星という義賊を追う警察は、青柳刑事の活躍もあり、ついに六つ星を追い詰める。だが、六つ星のいる部屋へ踏み込んだ警官たちは、そこで六つ星の死体を発見する。自害か、それとも他殺なのか。疑惑が残る中、次々と事件関係者が殺害されてゆく……。
ストーリーはかなり意表を突く形で展開し、サスペンスも相まってなかなか読ませる。ただ、ほぼ重要人物が死んでしまって、それでも捻りを効かせたいせいか、ラストはけっこう無理矢理である。残念ながらそれらの無理を成立させるほどのトリック、伏線なども弱く、完成度は低い。
六つ星の設定や狙いは面白いので、もう少し手直しすればけっこうな作品になったのではないだろうか。
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