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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ロス・マクドナルド『兇悪の浜』(創元推理文庫)

 ロス・マクドナルドの『兇悪の浜』を読む。アーチャーものの長編としては六番目の作品にあたる。まずはストーリーから。

 カリフォルニア州のマリブにある高級スイミングクラブ。その支配人バセットに呼ばれた私立探偵アーチャーは、門前で警備員と揉めているジョージという青年と出会う。その場を収めたアーチャーがバセットに面会すると、彼はいま巻き込まれているトラブルについて話し出した。
 かつてこのクラブに勤めていたヘスターという女性がいた。彼女を娘のように愛し面倒もみていたバセットだったが、へスターは悪い仲間と付き合い、その後姿を消してしまう。ところが彼女には夫がおり、その夫はバセットが妻の失踪に関係あるのではと思い、脅迫まがいの電話をかけていたのだ。そして、その夫こそ先ほど警備員と揉めていた青年ジョージだったのである。
 そのとき、再びクラブに押し込んできたジョージ。アーチャーとバセットはなんとか彼を落ち着かせ、最終的にはバセットの費用でアーチャーがジョージのためにへスターを捜索することで合意する。だが、へスター失踪の裏には二年前にクラブで起こったある殺人事件が関係している線が濃厚となり、調査に暗雲が立ち込める……。

 兇悪の浜

 ロス・マクドナルドの作風は、アーチャーものの第八作『ギャルトン事件』あたりから深みのあるものに転換したいったというのが定説だが、そうはいっても本作だってアーチャーものの六作目。多少の変化は感じられるかと思ったのだが、いや、その予想は見事に裏切られた。
 むしろ初期作品でもかなり荒っぽい内容の事件であり、おまけに作品の質自体も粗っぽい。プロットが単調な割りには人の出入りが多く、特に終盤のストーリー展開は焦点を定めて突き進んでいくイメージがなく、もうひとつ盛り上がりに欠けてしまう。

 とはいえ惚れた弱みか(笑)、前半のジョージとの奇妙な友情ともいうべき関係性は面白いし、また、終盤、事件に巻き込まれた女性との会話が妙にカウンセリング的なところなど、気に入っている部分も少なくない。本作は本作で楽しく読めた。
 また、主要な事件関係者のほとんどが闇を抱えており、それが暴力や人間不信を生み、悲劇の火種となっているところは毎度のことながら効果的だ。事件解決によって必ずしもハッピーとはならないのだが、何かしら心に沁みてくるものがあるのがロス・マクドナルド作品のいいところである。

 まとめ。後期の傑作群はもちろん、『象牙色の嘲笑』や『犠牲者は誰だ』といった初期の代表格と肩を並べるのも難しい感じだが、それでも初期ロスマクの魅力はそこかしこに感じられ、ハードボイルド好きなら読んでおいて損はない。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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