- Date: Thu 02 08 2018
- Category: 国内作家 木々高太郎
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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木々高太郎『三面鏡の恐怖』(河出文庫)
木々高太郎の『三面鏡の恐怖』を読む。不定期ながらも着々と刊行が進んでいるKAWADEノスタルジック〈探偵・怪奇・幻想シリーズ〉の一冊である。
こんな話。病気で亡くした妻の母親、妹と三人で暮らす電気製品会社の社長・真山十吉。日本の将来を変える事業を夢見る彼は、以前の恋人・嘉代子の妹と名乗る女性・伊都子の訪問を受ける。十吉はかつて政略結婚のために嘉代子を捨て、そのため捨て鉢になった彼女は好きでもない男と結婚し、その後病死してしまったのである。しかし、伊都子は十吉を激しく責めるでもなく、別れたあとも姉が愛し続けた男の気持ちを確かめにきたようでもあった。
やがて十吉は姉と瓜二つの顔を持つ妹・伊都子を愛し、結婚する。だが、そこへ嘉代子に先立たれた弁護士の平原が現れ、十吉に接近する……。

帯に景気のいい推薦文が踊っているので、読む前は逆に不安なところもあったのだが、予想したよりは楽しめた。
ストーリーはいたって地味なのだが、要所々々で胡散臭いエピソードを放り込んでくるのがいい。重吉と伊都子の結婚(この結婚がまたとりわけ胡散臭い感じではあるのだが、意外にさらっと流している不思議)、平原の登場、そして新たな重要人物の登場と、いい意味で小骨を喉に引っかけるようなエピソードというか(笑)。そんなあれこれが前半で展開され、同時に登場人物の思惑が錯綜して、疑惑とサスペンスが高まっていくのがいいのである。
事件の発生を遅らせたせいで終盤はややバタバタしているけれども、それなりにハッタリやどんでん返しも効いているし、プロットの勝利といえるだろう。
ただ、著者自身はどの辺りを狙っているのかいまひとつ釈然とはしない。冒頭にある作者の言葉では相変わらず文学云々みたいなことも書いているのである。まあ、実際に読んだ限りでは本格とサスペンスの中間ぐらいのところか。映画原作というのも頷ける話である。
ちなみにこの「冒頭にある作者の言葉」だが、それ以外にも気になることが書いてある。
ここで著者は、本作が「心理的多元描写」というものにチャレンジしたと宣言しているのだが、これは要するに三人称ではあるが、各人の心理描写もやりますよというもの。
ただ、叙述トリックでもあるまいし、正直なぜ、それをミステリでやるのか意味がわからない。これはかなり上手くやらないと、むしろ説明過多になったりアンフェアになったりする弊害があるし、何より人物描写としては拙くみえてしまう。
まあ、それをあえて宣言してやるところが、探偵小説芸術論を唱えた木々らしいといえば木々らしいのだが。
あと注目すべき点としては、全編を通して描かれる登場人物たちの姿がある。戦後間もない頃、価値観が大きく変動した時代のなかにあって、著者は登場人物を大きく旧世代・新世代・中間世代というふうに分け、それぞれの行動や考え方をストーリーに落とし込んでいる。
いつの時代にも当てはまるといえば当てはまるのかもしれないが、著者が同世代や若い性代に対して感じているところが素直に表れていて興味深かった。ああ、もしかするとそれをやりたかったから、「心理的多元描写」なんてものを持ち込んだのかもしれないな。
こんな話。病気で亡くした妻の母親、妹と三人で暮らす電気製品会社の社長・真山十吉。日本の将来を変える事業を夢見る彼は、以前の恋人・嘉代子の妹と名乗る女性・伊都子の訪問を受ける。十吉はかつて政略結婚のために嘉代子を捨て、そのため捨て鉢になった彼女は好きでもない男と結婚し、その後病死してしまったのである。しかし、伊都子は十吉を激しく責めるでもなく、別れたあとも姉が愛し続けた男の気持ちを確かめにきたようでもあった。
やがて十吉は姉と瓜二つの顔を持つ妹・伊都子を愛し、結婚する。だが、そこへ嘉代子に先立たれた弁護士の平原が現れ、十吉に接近する……。

帯に景気のいい推薦文が踊っているので、読む前は逆に不安なところもあったのだが、予想したよりは楽しめた。
ストーリーはいたって地味なのだが、要所々々で胡散臭いエピソードを放り込んでくるのがいい。重吉と伊都子の結婚(この結婚がまたとりわけ胡散臭い感じではあるのだが、意外にさらっと流している不思議)、平原の登場、そして新たな重要人物の登場と、いい意味で小骨を喉に引っかけるようなエピソードというか(笑)。そんなあれこれが前半で展開され、同時に登場人物の思惑が錯綜して、疑惑とサスペンスが高まっていくのがいいのである。
事件の発生を遅らせたせいで終盤はややバタバタしているけれども、それなりにハッタリやどんでん返しも効いているし、プロットの勝利といえるだろう。
ただ、著者自身はどの辺りを狙っているのかいまひとつ釈然とはしない。冒頭にある作者の言葉では相変わらず文学云々みたいなことも書いているのである。まあ、実際に読んだ限りでは本格とサスペンスの中間ぐらいのところか。映画原作というのも頷ける話である。
ちなみにこの「冒頭にある作者の言葉」だが、それ以外にも気になることが書いてある。
ここで著者は、本作が「心理的多元描写」というものにチャレンジしたと宣言しているのだが、これは要するに三人称ではあるが、各人の心理描写もやりますよというもの。
ただ、叙述トリックでもあるまいし、正直なぜ、それをミステリでやるのか意味がわからない。これはかなり上手くやらないと、むしろ説明過多になったりアンフェアになったりする弊害があるし、何より人物描写としては拙くみえてしまう。
まあ、それをあえて宣言してやるところが、探偵小説芸術論を唱えた木々らしいといえば木々らしいのだが。
あと注目すべき点としては、全編を通して描かれる登場人物たちの姿がある。戦後間もない頃、価値観が大きく変動した時代のなかにあって、著者は登場人物を大きく旧世代・新世代・中間世代というふうに分け、それぞれの行動や考え方をストーリーに落とし込んでいる。
いつの時代にも当てはまるといえば当てはまるのかもしれないが、著者が同世代や若い性代に対して感じているところが素直に表れていて興味深かった。ああ、もしかするとそれをやりたかったから、「心理的多元描写」なんてものを持ち込んだのかもしれないな。
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