- Date: Tue 21 08 2018
- Category: 評論・エッセイ 中相作
- Community: テーマ "評論集" ジャンル "本・雑誌"
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中相作『乱歩謎解きクロニクル』(言視舎)
江戸川乱歩研究家として知られる中相作氏の評論『乱歩謎解きクロニクル』を読む。氏の成果はサイト「名張人外境ブログ」でも読むことができるが、意外なことに評論の類が個人名義で出るのは初めてではないだろうか。知る人ぞ知る乱歩関連の書誌や資料などをまとめた『乱歩文献データブック』、『江戸川乱歩執筆年譜』、『江戸川乱歩著書目録』などはあるが、本書のような通常の商業出版としての意味で。

「涙香、「新青年」、乱歩」
第一章 「新青年」という舞台
第二章 絵探しと探偵小説
第三章 黒岩涙香に始まる
「江戸川乱歩の不思議な犯罪」
「「陰獣」から「双生児」ができる話」
「野心を託した大探偵小説」
「乱歩と三島 女賊への恋」
「「鬼火」因縁話」
「猟奇の果て 遊戯の終わり」
「ポーと乱歩 奇譚の水脈」
目次はこんな感じ。もっともボリュームがあるのが三章立ての「涙香、「新青年」、乱歩」となり、これはミステリー文学資料館が開催した「「『新青年』の作家たち」において行われた著者の講演をもとにしたもの。ほかは関連書籍等で掲載された解説などを収録している。
面白いのはやはりまとまった分量のある「涙香、「新青年」、乱歩」の項だろう。“絵探し”というキーワードを用いて、乱歩の創作に対する興味、嗜好をあらためて紐解き、そこから乱歩自身が提唱した探偵小説の定義に踏み込んでいく。
「探偵小説とは、主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く経路の面白さを主眼とする文学である」
著者はここで、“謎”ではなく、“秘密”という言葉を用いられていることに着目する。似て非なるこの二つの語、その意味するところは何なのか。著者はそこから再び“絵探し”に戻り、乱歩が定義した探偵小説と“絵探し”との関係を解説する。
ご存じのとおり、乱歩自身は自らの定義に則った探偵小説をほとんど書いていない。多くは“絵探し”の物語であり、個人的な嗜好もそこに集約されている。その“絵探し”と構造的には真逆の“探偵小説”、このふたつに乱歩はどう折り合いをつけていったのか。最終的にはそれらが乱歩の自伝や少年ものに対する位置付けに帰結するという考察がなかなか興味深く、面白かった。
というわけで乱歩ファンならもちろん買い。十分満足できる一冊だろう。
なお、内容に比して本書の装丁や題名がちとライトすぎるのはどうなんだろう。てっきり中身も軽い蘊蓄本やエッセイ的なものを想像してしまうので、それはそれで売りやすい面もあるのだろうが、もう少しかっちりした形のほうが本書には相応しい気がするなぁ。

「涙香、「新青年」、乱歩」
第一章 「新青年」という舞台
第二章 絵探しと探偵小説
第三章 黒岩涙香に始まる
「江戸川乱歩の不思議な犯罪」
「「陰獣」から「双生児」ができる話」
「野心を託した大探偵小説」
「乱歩と三島 女賊への恋」
「「鬼火」因縁話」
「猟奇の果て 遊戯の終わり」
「ポーと乱歩 奇譚の水脈」
目次はこんな感じ。もっともボリュームがあるのが三章立ての「涙香、「新青年」、乱歩」となり、これはミステリー文学資料館が開催した「「『新青年』の作家たち」において行われた著者の講演をもとにしたもの。ほかは関連書籍等で掲載された解説などを収録している。
面白いのはやはりまとまった分量のある「涙香、「新青年」、乱歩」の項だろう。“絵探し”というキーワードを用いて、乱歩の創作に対する興味、嗜好をあらためて紐解き、そこから乱歩自身が提唱した探偵小説の定義に踏み込んでいく。
「探偵小説とは、主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く経路の面白さを主眼とする文学である」
著者はここで、“謎”ではなく、“秘密”という言葉を用いられていることに着目する。似て非なるこの二つの語、その意味するところは何なのか。著者はそこから再び“絵探し”に戻り、乱歩が定義した探偵小説と“絵探し”との関係を解説する。
ご存じのとおり、乱歩自身は自らの定義に則った探偵小説をほとんど書いていない。多くは“絵探し”の物語であり、個人的な嗜好もそこに集約されている。その“絵探し”と構造的には真逆の“探偵小説”、このふたつに乱歩はどう折り合いをつけていったのか。最終的にはそれらが乱歩の自伝や少年ものに対する位置付けに帰結するという考察がなかなか興味深く、面白かった。
というわけで乱歩ファンならもちろん買い。十分満足できる一冊だろう。
なお、内容に比して本書の装丁や題名がちとライトすぎるのはどうなんだろう。てっきり中身も軽い蘊蓄本やエッセイ的なものを想像してしまうので、それはそれで売りやすい面もあるのだろうが、もう少しかっちりした形のほうが本書には相応しい気がするなぁ。