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ロス・マクドナルド『死体置場で会おう』(ハヤカワミステリ)
ロス・マクドナルドの『死体置場で会おう』を読む。アーチャーものはひと休みして、今回はノンシリーズ作品。
『暗いトンネル』等、初期の非アーチャーもの四冊はけっこう昔に読んだのだが、まあロスマクとはいえ習作的にみなされることも多く、やはりそこまで満足できるものではなかった。しかし、本作は1953年の刊行。『象牙色の嘲笑 』と『犠牲者は誰だ』の間に書かれたものであり、それなりに期待はできそうだ。
まずはストーリー。
パシフィック・ポイント市に住む富豪エイベル・ジョンスンの息子ジャミイが誘拐された。犯人と目されたのは、その朝ジャミイと一緒に車ででかけた運転手のフレッド・マイナーである。脅迫状を読んだエイベルは警察に届けることを拒み、身代金を自ら渡す手はずを整えようとする。
一方、フレッドの妻エミイは地方監察官ハワード・クロスの事務所に出き、誘拐事件を伝えるとともに夫の無実を訴えた。ハワードはその日の朝にフレッドとジャミイに会っていたこともあり、この事件に不可解なものを感じるが……。

もともとシリアスな作品、文学を目指していたロス・マクドナルドだが、初期の作品はあくまで生活のために書いた娯楽作品。だがアーチャーものを書いていく中で、ハードボイルドの可能性に目覚め、後期の文学的な作風につながっていく。
本作はそんなロス・マクの過渡期的な雰囲気が感じられる。比較的落ち着いたストーリーで登場人物の描き方も深い。
特に本作の場合、結婚というテーマが幾重にも描かれているのが大きな特徴である。探偵役、事件関係者、被害者、加害者と、すべての者たちに対して夫婦(もしくは恋人)のドラマがあり、それらを対比させつつ、最終的にある種の希望を感じさせるのが嬉しいし、珍しいといえば珍しい。
ちなみにその点こそが、本作でアーチャーを起用しなかった大きな理由でもあると思われる。
ただ、そういった部分だけでなく、本作はミステリとしてもかなりの面白さである。ロスマクは本格ファンからも人気のある珍しいハードボイルド作家だが、それはもちろん謎解きや意外性がハイレベルであるからに他ならない。
本作では誘拐事件がベースになっているのだが、以前に起こったある交通事故が大きなカギを握っている。このつながり、交通事故の本当の意味を掴むというのがストーリーの柱になっているのだが、中盤ではその流れが単調になってしまうという欠点はあるものの、真相は完全にこちらの読みの上手をいく。
途中までは、さすがのロスマクもノンシリーズではやはり本領発揮とはいかなかったかと思っていたのだが、まあ、自分の読みの浅いことよ(苦笑)。しかも真相がまた本作のテーマをしっかりと感じさせるもので、これはもしかするとロスマク前期のベストといってもいいのかもしれない。
文庫化もされずノンシリーズということもあって知名度の低い本作だが、これは意外な傑作。古書価もそれほどではないので、ご縁があったらぜひどうぞ。
『暗いトンネル』等、初期の非アーチャーもの四冊はけっこう昔に読んだのだが、まあロスマクとはいえ習作的にみなされることも多く、やはりそこまで満足できるものではなかった。しかし、本作は1953年の刊行。『象牙色の嘲笑 』と『犠牲者は誰だ』の間に書かれたものであり、それなりに期待はできそうだ。
まずはストーリー。
パシフィック・ポイント市に住む富豪エイベル・ジョンスンの息子ジャミイが誘拐された。犯人と目されたのは、その朝ジャミイと一緒に車ででかけた運転手のフレッド・マイナーである。脅迫状を読んだエイベルは警察に届けることを拒み、身代金を自ら渡す手はずを整えようとする。
一方、フレッドの妻エミイは地方監察官ハワード・クロスの事務所に出き、誘拐事件を伝えるとともに夫の無実を訴えた。ハワードはその日の朝にフレッドとジャミイに会っていたこともあり、この事件に不可解なものを感じるが……。

もともとシリアスな作品、文学を目指していたロス・マクドナルドだが、初期の作品はあくまで生活のために書いた娯楽作品。だがアーチャーものを書いていく中で、ハードボイルドの可能性に目覚め、後期の文学的な作風につながっていく。
本作はそんなロス・マクの過渡期的な雰囲気が感じられる。比較的落ち着いたストーリーで登場人物の描き方も深い。
特に本作の場合、結婚というテーマが幾重にも描かれているのが大きな特徴である。探偵役、事件関係者、被害者、加害者と、すべての者たちに対して夫婦(もしくは恋人)のドラマがあり、それらを対比させつつ、最終的にある種の希望を感じさせるのが嬉しいし、珍しいといえば珍しい。
ちなみにその点こそが、本作でアーチャーを起用しなかった大きな理由でもあると思われる。
ただ、そういった部分だけでなく、本作はミステリとしてもかなりの面白さである。ロスマクは本格ファンからも人気のある珍しいハードボイルド作家だが、それはもちろん謎解きや意外性がハイレベルであるからに他ならない。
本作では誘拐事件がベースになっているのだが、以前に起こったある交通事故が大きなカギを握っている。このつながり、交通事故の本当の意味を掴むというのがストーリーの柱になっているのだが、中盤ではその流れが単調になってしまうという欠点はあるものの、真相は完全にこちらの読みの上手をいく。
途中までは、さすがのロスマクもノンシリーズではやはり本領発揮とはいかなかったかと思っていたのだが、まあ、自分の読みの浅いことよ(苦笑)。しかも真相がまた本作のテーマをしっかりと感じさせるもので、これはもしかするとロスマク前期のベストといってもいいのかもしれない。
文庫化もされずノンシリーズということもあって知名度の低い本作だが、これは意外な傑作。古書価もそれほどではないので、ご縁があったらぜひどうぞ。
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