- Date: Sun 09 09 2018
- Category: 評論・エッセイ 松井和翠
- Community: テーマ "評論集" ジャンル "本・雑誌"
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松井和翠/編『推理小説批評大全総解説』
このところ同人誌や私家版のミステリや関連書を買うことがずいぶん増えてきた。別に積極的に同人活動に注目しているわけではないのだが、単純に面白そうな内容のものが多く出るようになったということ。また、以前ならその周辺の関係者しか存在を知らなかったものが、ネットのおかげでより多くの人の目に触れるようになったということが大きいだろう。
少しTwitterでもつぶやいたのだけれど、正直、本の作りなどは稚拙なものが多い。もちろん商業出版のようにかける費用が違うわけだから当たり前っちゃ当たり前なのだが、別に費用の問題だけではなく、活字の組み方がきついものは辛い。同人誌を出すような人ならみな基本的には本好きだと思うのだが、なぜ自分で作るとこんな読みにくい文字を選んだり、行間や版面を気にしなくなるのだろう。そういうのは普通の出版物を見れば簡単に参考にできるのにね。
とはいえ、そこを気にさえしなければ、内容自体はなかなか頑張っているものが多い。商業ベースでは出せないようなマニアックな企画が平気でばんばん出てくるので、何といってもそこが最大の魅力だろう。
ミステリ関係の私家版、同人誌で圧倒的にすごいのはやはり西荻窪にある古書店、盛林堂さんが出している盛林堂ミステリアス文庫だろうが、これはもうプロやセミプロがたくさん絡んでいるし別格だろう。ただ、そうはいっても結局は私家版ならではの濃い企画ばかりで、普通に商業ベースで出せるような内容かというと絶対にそんなことはないはずだ(苦笑)。
翻訳ものでは老舗のROMや湘南探偵倶楽部、最近ではヒラヤマ探偵文庫も要注目。これらは装丁などはあくまで同人誌の雰囲気だけれども、その内容は盛林堂に勝るとも劣らないヘビーなものばかり。こちらで出た後に商業出版されるものも多く要注目である。これは翻訳物中心ということも関係あるのだろうか。
個人では評論関係に面白いものが多い。上に紹介したものはなんといっても小説の復刻中心なので、同人だろうが私家版だろうが内容はそこそこ信頼できる部分があるし、事前の情報も集めやすい。
ところが評論系はアマチュアの個人研究がメインなのでまさに玉石混交。このジャンルで最近もっとも注目されたのが浅木原忍氏の『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド』だろうか。同人誌でありながら本格ミステリ大賞評論・研究部門を受賞し、その後に論創社から増補改訂版が商業出版された。
これに匹敵、いや、抜いたかもと思わせたのが、本日読んだ松井和翠氏による『推理小説批評大全総解説』である。

本作は日本探偵小説の数ある評論から七十篇をセレクトして解説したもの。黒岩涙香から有栖川有栖に至るまで扱う作家・評論家も幅広いが、興味深いのは文学におけるミステリというテーマを軸にして評論を選んでいるところだろう。つまり創作論やトリック等の技術論にスポットを当てるのではなく、ミステリの意義や文学としての可能性、まさにミステリという芸術について論じた評論をピックアップしているのである。
なかには、なぜこの評論を選んだのか解せないものもあるし、著者にはもう一歩思い切った解説がほしかったところだが、このセレクトだけでもかなりの重労働だし、相当な読書と勉強のうえに成り立っている仕事であることは確か。そこまで望むのは贅沢というものだろう。とにかく力作というほかはない。
少しTwitterでもつぶやいたのだけれど、正直、本の作りなどは稚拙なものが多い。もちろん商業出版のようにかける費用が違うわけだから当たり前っちゃ当たり前なのだが、別に費用の問題だけではなく、活字の組み方がきついものは辛い。同人誌を出すような人ならみな基本的には本好きだと思うのだが、なぜ自分で作るとこんな読みにくい文字を選んだり、行間や版面を気にしなくなるのだろう。そういうのは普通の出版物を見れば簡単に参考にできるのにね。
とはいえ、そこを気にさえしなければ、内容自体はなかなか頑張っているものが多い。商業ベースでは出せないようなマニアックな企画が平気でばんばん出てくるので、何といってもそこが最大の魅力だろう。
ミステリ関係の私家版、同人誌で圧倒的にすごいのはやはり西荻窪にある古書店、盛林堂さんが出している盛林堂ミステリアス文庫だろうが、これはもうプロやセミプロがたくさん絡んでいるし別格だろう。ただ、そうはいっても結局は私家版ならではの濃い企画ばかりで、普通に商業ベースで出せるような内容かというと絶対にそんなことはないはずだ(苦笑)。
翻訳ものでは老舗のROMや湘南探偵倶楽部、最近ではヒラヤマ探偵文庫も要注目。これらは装丁などはあくまで同人誌の雰囲気だけれども、その内容は盛林堂に勝るとも劣らないヘビーなものばかり。こちらで出た後に商業出版されるものも多く要注目である。これは翻訳物中心ということも関係あるのだろうか。
個人では評論関係に面白いものが多い。上に紹介したものはなんといっても小説の復刻中心なので、同人だろうが私家版だろうが内容はそこそこ信頼できる部分があるし、事前の情報も集めやすい。
ところが評論系はアマチュアの個人研究がメインなのでまさに玉石混交。このジャンルで最近もっとも注目されたのが浅木原忍氏の『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド』だろうか。同人誌でありながら本格ミステリ大賞評論・研究部門を受賞し、その後に論創社から増補改訂版が商業出版された。
これに匹敵、いや、抜いたかもと思わせたのが、本日読んだ松井和翠氏による『推理小説批評大全総解説』である。

本作は日本探偵小説の数ある評論から七十篇をセレクトして解説したもの。黒岩涙香から有栖川有栖に至るまで扱う作家・評論家も幅広いが、興味深いのは文学におけるミステリというテーマを軸にして評論を選んでいるところだろう。つまり創作論やトリック等の技術論にスポットを当てるのではなく、ミステリの意義や文学としての可能性、まさにミステリという芸術について論じた評論をピックアップしているのである。
なかには、なぜこの評論を選んだのか解せないものもあるし、著者にはもう一歩思い切った解説がほしかったところだが、このセレクトだけでもかなりの重労働だし、相当な読書と勉強のうえに成り立っている仕事であることは確か。そこまで望むのは贅沢というものだろう。とにかく力作というほかはない。
おっと、これは手厳しいご意見ですね。
とはいえプロならいざ知らず、同人誌にそこまで水準の高さを求めるのはいかがなものでしょうか。「お金をとっている以上はプロだろうが素人だろうが……」という考え方もあるでしょうが、同人誌は通常、著者が編集者も業務(ここでは印刷や製本の管理担当という意味で使ってます)も兼ねるわけで、逆にプロだとそういう人は普通いません。そこまで望むのはさすがに酷な話かと。
また、内容についてもそれこそ同人誌なので、読み手の好みを押し付けるのはあまり感心しません。もちろん建設的な批評や感想はありだと思うのですが、趣味で出している同人誌に対してそこまでいう必要があるのかなという気持ちはあります。
嫌なら買わない、無視する、これでよいのではないでしょうか。
買われた以上はDS星人さんも内容について興味があったと思うのですが、大事なのはそこです。木魚庵さんにしても松井和翠さんにしても、通常の商業出版ではなかなか出せないものを(ご自分の趣味とはいえ)、けっこうな労力を使って作っている。そういう熱量をまずは評価したいですし、だからみなさん温かい目で見ているんだと思いますよ。
そのうえで「もし続巻や改訂版など出す予定があるのなら、こういう企画を盛り込んでくれたり、こういうところを修正してほしいなあ」と思うのでしたら、それこそDS星人さんも書いておられるように、私のブログではなく、Twitterやメールで直接、ご意見を届けてはどうでしょうか。
著者の方も100%満足などしていないでしょうから、純粋な感想や意見であればちゃんと聞いてくれると思いますよ。
あと一番いいのはDS星人さんもご自身で、そういう面白そうな本を作ってみてはいかがでしょうか。上記の本をお買いになったからには、DS星人さんも相当なマニアだとお見受けします。ぜひ、その熱を形にしてみてはいかがでしょう(すでにやっておられるのでしたら失礼)。