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多岐川恭『イブの時代』(ハヤカワ文庫)
ええと、今回のブログは18禁かも(苦笑)。
多岐川恭の『イブの時代』を読む。作品ごとに多彩な設定で楽しませてくれる多岐川作品なのだが、なかでも本作はとびきりの異色作。なんとSFミステリにして、フリーセックスをテーマにした作品というのだから、いやこれは驚いた。
本作が刊行された1961年というのは、ほかにも『変人島風物誌』、『仮面と衣装』、『影あるロンド』『異郷の帆』、『人でなしの遍歴』、『お茶とプール』など代表作を含む十作以上の著書を発表した年でもあり、まさに油が乗っている頃。そんな時期に書かれたセックスがテーマの作品というのだから、これは期待するなというほうが無理である。いや、決してセックスがテーマだからというわけではないので念のため(笑)。

気になるストーリーだが、こんな話。
2161年の東京。冷凍睡眠から二百年ぶりに目覚めようとしている男がいた。元検事の時雄である。
目覚めた時雄を待っていたのは、二百年の間にすっかり変貌を遂げた人々の暮らしだった。世界中が科学文明の発達によって豊かになり、人々はあくせくと働く必要がなくなくなる。その結果、人々は争うことや感情を爆発させることも減少し、犯罪も激減した世界だった。
そんなとき、あるテレビ番組中に人気ダンサーが殺害されるという事件が起こった。犯罪のほとんど起こらない世界では警察機能も縮小されている。そこでその経歴に目をつけられ、捜査に駆り出されたのが時雄だったのだ……。
というのが発端で、なかなか面白そうな導入ではある。
ただ、本作はいただけなかった。はっきりいって期待外れ。著者の今まで読んだなかでは一番退屈してしまった。
最初に書いたように、本作のポイントはSFやミステリにあるのではなく、フリーセックスの部分なのだろう。
実はこの世界、暴力沙汰も起こらないかわりに、羞恥とか嫉妬とか、けっこう人間の感情の根本的なところが欠落している世界でもあるのだ。この極端なモラルのなか、人々はちょっと気になる相手がいるとすぐに事を始めてしまう始末。人がそばにいようと気にしないし、そもそも普段から裸同然にして暮らしている。
わざわざ、こういう突飛な設定にしたからには、それが事件に大きく関連してくると予想されるのだが、まあ、確かに関連はするものの融合するところまでには至らず、なんとも中途半端な出来映え。
好意的に見るなら、SFミステリという部分は物語を転がすための仕掛けであって、見るべきところはそのテーマにあるといえる。セックスや恋愛が自由な未来において、旧来の倫理観をもった人間はどう生きるべきなのか、そもそもどちらが人間にとって幸せな生き方なのかを問うているのだろうが、正直そこまで深い感銘は受けられない。
設定こそショッキングながら、いざ読んでみると全般的に薄味で、ミステリやSFとしてはもちろん官能小説としても物足りない一冊であった。多岐川作品でもこういうことあるんだねぇ。
多岐川恭の『イブの時代』を読む。作品ごとに多彩な設定で楽しませてくれる多岐川作品なのだが、なかでも本作はとびきりの異色作。なんとSFミステリにして、フリーセックスをテーマにした作品というのだから、いやこれは驚いた。
本作が刊行された1961年というのは、ほかにも『変人島風物誌』、『仮面と衣装』、『影あるロンド』『異郷の帆』、『人でなしの遍歴』、『お茶とプール』など代表作を含む十作以上の著書を発表した年でもあり、まさに油が乗っている頃。そんな時期に書かれたセックスがテーマの作品というのだから、これは期待するなというほうが無理である。いや、決してセックスがテーマだからというわけではないので念のため(笑)。

気になるストーリーだが、こんな話。
2161年の東京。冷凍睡眠から二百年ぶりに目覚めようとしている男がいた。元検事の時雄である。
目覚めた時雄を待っていたのは、二百年の間にすっかり変貌を遂げた人々の暮らしだった。世界中が科学文明の発達によって豊かになり、人々はあくせくと働く必要がなくなくなる。その結果、人々は争うことや感情を爆発させることも減少し、犯罪も激減した世界だった。
そんなとき、あるテレビ番組中に人気ダンサーが殺害されるという事件が起こった。犯罪のほとんど起こらない世界では警察機能も縮小されている。そこでその経歴に目をつけられ、捜査に駆り出されたのが時雄だったのだ……。
というのが発端で、なかなか面白そうな導入ではある。
ただ、本作はいただけなかった。はっきりいって期待外れ。著者の今まで読んだなかでは一番退屈してしまった。
最初に書いたように、本作のポイントはSFやミステリにあるのではなく、フリーセックスの部分なのだろう。
実はこの世界、暴力沙汰も起こらないかわりに、羞恥とか嫉妬とか、けっこう人間の感情の根本的なところが欠落している世界でもあるのだ。この極端なモラルのなか、人々はちょっと気になる相手がいるとすぐに事を始めてしまう始末。人がそばにいようと気にしないし、そもそも普段から裸同然にして暮らしている。
わざわざ、こういう突飛な設定にしたからには、それが事件に大きく関連してくると予想されるのだが、まあ、確かに関連はするものの融合するところまでには至らず、なんとも中途半端な出来映え。
好意的に見るなら、SFミステリという部分は物語を転がすための仕掛けであって、見るべきところはそのテーマにあるといえる。セックスや恋愛が自由な未来において、旧来の倫理観をもった人間はどう生きるべきなのか、そもそもどちらが人間にとって幸せな生き方なのかを問うているのだろうが、正直そこまで深い感銘は受けられない。
設定こそショッキングながら、いざ読んでみると全般的に薄味で、ミステリやSFとしてはもちろん官能小説としても物足りない一冊であった。多岐川作品でもこういうことあるんだねぇ。
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