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 マイクル・コナリーの『燃える部屋』読了。
 民族楽器奏者の殺人事件を追うボッシュと新米のメキシコ系女性刑事ソトのコンビだったが、ソトには幼い頃に体験した悲惨な放火事件を自分の手で解決したいという密かな決意があった。その事実を知ったボッシュは、殺人事件と並行して彼女とともに火災事件の捜査にも着手する……。

 燃える部屋(下)

 上巻までの感想で「~著者はむしろ二人の捜査活動と関係性を見せることに重きを置いているような気がする~やはり著者の読ませたいポイントが以前とは変わってきているのか~」「~初期作に感じられた重苦しいほどのボッシュの怒りや葛藤といったところはかなり薄れてきている。さすがのボッシュも年齢を重ねてだいぶ丸くなってきたということか、あるいは著者の路線変更によるものなのか~」なんてことを書いたのだが、下巻まで読んでみて、まあ大体いい線はついているのではないだろうか。

 これまでもボッシュ・シリーズの感想で度々書いてきたのだが、ボッシュの物語はその根底にある怒りや葛藤が大きな特徴だ。事件の真相に対する興味より、そういった感情に突き動かされて事件にのめり込むボッシュ自身の姿こそ、このシリーズの魅力なのである。ボッシュは正義を求めるが完全な人間ではない。嫌なところもいいところと同じくらい持っている。そんな人間くさいボッシュだからこそ主人公として読者を魅了してきた。
 それが他のシリーズの主人公、ミッキー・ハラーなどと競演するようになると、著者がボッシュの視点ばかりを追うわけにもいかなくなり、次第に主人公同士のバランスを大事にするようになり(もちろん印象でしかないが)、その結果、ボッシュの尖った部分を捨てざるを得なくなってきたのではないか。ボッシュの暴走ばかりでは物語を引っ張れなくなってきたのである。
 一作目から読んできたファンとしてはこの辺りにやや物足りなさを感じてしまうのだけれど、その副産物というわけでもないが、結果的にはストーリー作りやプロットに関してはより洗練された印象があり、最近の作品の方が完成度は確実に高くなっている。

 本作でも主軸となる事件は二つあって、ひとつはボッシュとソトが正式に関わる民族楽器奏者が狙撃された十年前の事件。もうひとつはソトが幼い頃に自身も巻き込まれた火災事件である。
 それらをソツなくまとめつつ、しかも捜査を通じてボッシュがいかにソトを一人前の刑事として育て上げるのかというサイドストーリーを絡め、さらにはボッシュの“老い”をテーマとして放り込むというのは、もはや名人芸といってもいいだろう。

 残念ながら事件そのものに対する面白さという点、また、ラストがいろいろな意味で消化不良気味なところがあるので、ホームランは次作に期待といったところだろう。とはいえ十分楽しめる作品であり、ボッシュファンにも必読要素満点であることは確かだ。


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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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