- Date: Sat 01 12 2018
- Category: 海外作家 フェラーズ(エリザベス)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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エリザベス・フェラーズ『灯火が消える前に』(論創海外ミステリ)
エリザベス・フェラーズの『灯火が消える前に』を読む。
フェラーズの作品といえば今では創元から刊行されたトビー・&ジョージ・シリーズがよく知られているところだろう。健全なユーモアに味付けされた軽めの本格といったイメージで、最初に読んだときは、フェラーズってこういうコージーっぽいものも書くんだという新鮮な驚きであった。
ただ、それらは最初期の作風であり、フェラーズは早々にこのシリーズを打ち止めると、シリアスな路線へと変更した。本書『灯火が消える前に』はちょうどそんな路線変更直後の作品にあたり、この前年には『私が見たと蠅は言う』も書かれている。
まずはストーリー。
灯火管制の敷かれた戦時下の英国。友人の刺繍作家セシルからホームパーティに招かれたアリスは、そこでスリラー作家のフランク、著作権エージェントの会社を営むピーターとジャネット、物理学者のロジャー、セシルとジャネットの高校時代の同級生キティらと顔を合わせた。
だが、ほどなくしてアリスは集まった人々の関係が決して良好なわけではないことに気づき、このパーティが失敗するだろうことを予感する。しかも夫人を自殺で亡くしたばかりのリットという劇作家が階上で伏せっていることまで明らかになる。
そして悲劇は訪れた。リットが殺害され、ジャネットが逮捕されたのである……。

フェラーズの作品は邦訳されたものなら『カクテルパーティ』以外はだいたい読んでいるはずだが、個人的にはコージー系のトビー・&ジョージ・シリーズよりはシリアスなタイプの作品が好みだ。無理に賑やかで派手な展開にせずとも、フェラーズには丹念な描写だけで読ませる力があり、本作では特にそれを感じた。
本作はとにかくトビー・&ジョージ・シリーズと同じ作者なのかと思うぐらい作風が転換している。冒頭こそホームパーティや殺人、そして容疑者逮捕といったそれなりに派手な展開を見せるものの、それ以降は主人公アリスがパーティに出席した者たちを訪問して話を聞くことに終始する。
警察の聞き込みといったようなものではない。アリスは確たる根拠もないまま、ジャネットに会ったばかりの印象だけで何となくジャネットが無実ではないかと思っているだけなのである。だからアリスはまずジャネットと殺害されたリットの人となりを聞いて回る。そこで明らかになるのは事件の真相などではなく、パーティ出席者たちの人間模様であり、出席者たちの素顔であり本性だ。
ここが実に面白いところで、ジャネットの話をする関係者は、実は自分自身について語っている。ストーリーとしては大した動きもなく地味なものだが、ジャネットをはじめとした関係者の人間性がじわじわ浮かび上がってくる展開は読み応えがあり、まったく退屈することはなかった。特にロジャーやキティとの会話はやばすぎて、下手なサイコスリラーよりもドキドキしたほどだ(苦笑)。
本格としてはそこまで凝ったものではないが、戦時下という状況を生かした工夫もあるし、ラストで新たな探偵役が登場するところなど茶目っ気もある。トータルでは十分に満足できる一冊であった。
こりゃ『カクテルパーティ』も早く読まないとなぁ。
フェラーズの作品といえば今では創元から刊行されたトビー・&ジョージ・シリーズがよく知られているところだろう。健全なユーモアに味付けされた軽めの本格といったイメージで、最初に読んだときは、フェラーズってこういうコージーっぽいものも書くんだという新鮮な驚きであった。
ただ、それらは最初期の作風であり、フェラーズは早々にこのシリーズを打ち止めると、シリアスな路線へと変更した。本書『灯火が消える前に』はちょうどそんな路線変更直後の作品にあたり、この前年には『私が見たと蠅は言う』も書かれている。
まずはストーリー。
灯火管制の敷かれた戦時下の英国。友人の刺繍作家セシルからホームパーティに招かれたアリスは、そこでスリラー作家のフランク、著作権エージェントの会社を営むピーターとジャネット、物理学者のロジャー、セシルとジャネットの高校時代の同級生キティらと顔を合わせた。
だが、ほどなくしてアリスは集まった人々の関係が決して良好なわけではないことに気づき、このパーティが失敗するだろうことを予感する。しかも夫人を自殺で亡くしたばかりのリットという劇作家が階上で伏せっていることまで明らかになる。
そして悲劇は訪れた。リットが殺害され、ジャネットが逮捕されたのである……。

フェラーズの作品は邦訳されたものなら『カクテルパーティ』以外はだいたい読んでいるはずだが、個人的にはコージー系のトビー・&ジョージ・シリーズよりはシリアスなタイプの作品が好みだ。無理に賑やかで派手な展開にせずとも、フェラーズには丹念な描写だけで読ませる力があり、本作では特にそれを感じた。
本作はとにかくトビー・&ジョージ・シリーズと同じ作者なのかと思うぐらい作風が転換している。冒頭こそホームパーティや殺人、そして容疑者逮捕といったそれなりに派手な展開を見せるものの、それ以降は主人公アリスがパーティに出席した者たちを訪問して話を聞くことに終始する。
警察の聞き込みといったようなものではない。アリスは確たる根拠もないまま、ジャネットに会ったばかりの印象だけで何となくジャネットが無実ではないかと思っているだけなのである。だからアリスはまずジャネットと殺害されたリットの人となりを聞いて回る。そこで明らかになるのは事件の真相などではなく、パーティ出席者たちの人間模様であり、出席者たちの素顔であり本性だ。
ここが実に面白いところで、ジャネットの話をする関係者は、実は自分自身について語っている。ストーリーとしては大した動きもなく地味なものだが、ジャネットをはじめとした関係者の人間性がじわじわ浮かび上がってくる展開は読み応えがあり、まったく退屈することはなかった。特にロジャーやキティとの会話はやばすぎて、下手なサイコスリラーよりもドキドキしたほどだ(苦笑)。
本格としてはそこまで凝ったものではないが、戦時下という状況を生かした工夫もあるし、ラストで新たな探偵役が登場するところなど茶目っ気もある。トータルでは十分に満足できる一冊であった。
こりゃ『カクテルパーティ』も早く読まないとなぁ。
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そうですね。好みもあるでしょうが、やはり余計なことをせずとも読ませるシリアス系の方が私も好みです。
『灯火が消える前に』も十分に面白かったのですが、ネット上では『カクテルパーティ』がさらに高評価な感じのようで楽しみですね。