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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

エドワード・D・ホック『コンピューター検察局』(ハヤカワ文庫)

 エドワード・D・ホックといえば短編ミステリの名手として知られているけれど、シリーズ探偵が多いことでも有名だ。本日の読了本『コンピューター検察局』もコンピューター検察局のカール・クレイダーとアール・ジャジーンが活躍するシリーズの一作で、珍しいことにこれが長編、しかもSFミステリである。

 こんな話。物体を高速で移送させる夢の装置〈トランスベクション・マシン〉の発明者デフォーが腹痛を訴え、診察を受ける。診断結果は虫垂炎であり、名医の執刀手術をプログラムしたマシンで、手術は簡単に終わるはずだった。ところが安全なははずの手術マシンが暴走し、デフォーは死亡してしまう。
 事故、それとも故意によるものなのか。重要人物の不審な死に、合衆国政府はコンピューター犯罪を取り締まるコンピューター検察局に調査を命じるが、浮気を繰り返すデフォーの妻、その不倫相手にして〈トランスベクション・マシン〉の共同開発者、機械による支配に反対する過激派組織など、容疑者には事欠かない始末。局長のクレイダーと副局長ジャジーンはそれぞれ別ルートで捜査を進めるが……。

 コンピューター検察局

 ホック作品の特徴は、短編やシリーズキャラクターが多いことはもちろんなのだが、何より忘れてならないのは不可能犯罪ものを中心とした本格ミステリの追求だろう。シリーズによって味付けやアプローチは異なるが、基本的にはパズラー愛に溢れた作品ばかりである。

 本作もSFの設定を借りることで、新たな不可能犯罪ものに挑戦した一作といえるだろうが、いかんせん1971年の作品ということを割り引いてもSFとしての魅力には乏しい。
 電気自動車だったり手術マシンだったり、ロケットコプター、衝撃銃などなどSF的なガジェットはいろいろと出てくるものの、どれも古臭いイメージ。とにかくSF的に置き換えただけという印象。金星への移民や機械文明に反発する過激派というのもありきたりすぎて、そこにSFマインドといったものはあまり感じられない。まあ、リアルタイムで読んでいたらもう少し印象が変わったかもしれないけれど、それにしてもこれは厳しい。

 ただし、本格ミステリとしてはそれほど悪くないのはさすがホックである。メインとなる謎は手術マシンの暴走による死だが、これはある意味、密室殺人的であり、ホックらしいものといえる。
 ただ、それとは別に事件全体に関わる大きな仕掛けがあって、実はこれが楽しい。トリック自体は他愛ないのだが、物語の設定を最大限に活かしたところがいいのだ。
 プロットもしっかりしており、キャラクターもやや作りすぎではあるが面白いし、SFとしての不満はあるもののミステリとしては十分及第点だろう。このシリーズはもう一作長編の邦訳があるので、そちらもそのうちに読んでみたい。

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Comments
 
ポール・ブリッツさん

確かにSFとしては駄作です(笑)。ミステリとしての面白みが出てくる中盤までは特に辛いですね。
でもミステリとしてはサイドの仕掛けが効いていたり、二つの線が融合するところなどプロットもなかなか綺麗でした。あと「登場人物一覧」は作者のせいじゃないですし(笑)。
書き慣れていない長編やSFに挑戦し、ミステリとしてはまずまず着地に成功したところで良しとすべきでしょう。
ちなみに主人公は検察局員より、金星からの脱走者にしたほうが、よりストーリーは生きるような気がしました。
 
うーん、自分としては「コンピューター検察局」はダメです(^-^;) 昔、読んでいて眠くなりました。ホックは未来SF書いたらあかんのではないかと、SFとミステリの間の深い川を感じたであります。

特に大ネタのトリックが、「登場人物一覧」を注意して読めば気がつくような手垢のついたやつで、それだけでげんなり。短編だったらまだしも、長編でこのネタを使うのか、と(^-^;)

別な長編も読みましたけど、それもSFファンにとっては「ああ、ハヤカワSF文庫に入らなかったのもわかるなあ」という出来でした。

総論としては、「誰だよホックにSFのそれも長編書かせたの!」ですね。

「ホックと13人の仲間たち」だったか昔のミステリマガジンだったかで読んだコンピューター検察局の短編は面白かったので、やはり相性というのはあるんだろう、と思います。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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