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極私的ベストテン2018
さて、今年も早いもので残すところ一日をきり、「探偵小説三昧」年末恒例の極私的ベストテンの発表である。
ここ数年は昭和の推理作家や古典の読み残しなどを意識して消化しているのだが、今年はロス・マクドナルドと結城昌治を進められたのが嬉しい。
まあ、何を今さらというなかれ(苦笑)。ミステリも古今東西かつジャンルで読者層がけっこう分かれるわけで、専門家でもない限り全方位的に網羅している人はそれほど多くはない。また、ある程度まで網羅している人でもピンポイントで抜け落ちている作家がいたり、そもそも代表作しか読まない人もけっこういたりする。
管理人などは手をつけた作家の作品はできるだけ全部読みたい主義なので、なかなか幅広く読むことができないでいる。ミステリもかれこれ四十年以上読んでいるが、それでもメジャーの読み残しはいくつもあるわけで、いやなんとも奥が深い。
とまあ、言い訳もどきの枕もすんだところで、2018年のベストテン発表である。管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選んだ結果である。
ではどうぞ。
1位 大岡昇平『事件』(創元推理文庫)
2位 日影丈吉『内部の真実』(創元推理文庫)
3位 アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(創元推理文庫)
4位 ロス・マクドナルド『死体置場で会おう』(ハヤカワミステリ)
5位 結城昌治『夜の終る時』(角川文庫)
6位 L・P・ハートリー『ポドロ島』(河出書房新社)
7位 ヘレン・マクロイ『牧神の影』(ちくま文庫)
8位 ジョルジュ・シムノン『メグレ夫人の恋人』(角川文庫)
9位 ジョン・ロード『代診医の死』(論創海外ミステリ)
10位 ポール・アルテ『あやかしの裏通り』(行舟文化)
昨年に続き、今年も悩みに悩んだベストテンである。昭和の香り濃厚なミステリ、新旧本格、警察小説にハードボイルド、幻想小説まで、とにかく今年は個人的ツボにはまる作品が多すぎて、ベスト三十ぐらいまであげたい気分である。
1位の『事件』は社会派という雰囲気で敬遠している人もいるかもしれないが、それ以前に極上の法廷ミステリであり、エンターテインメントでもある。これだけは悩むことなく1位にあっさり決めてしまったが、これを今まで読んでなかったのは不覚というしかない。
2位の『内部の真実』も不覚の一作(笑)。日影丈吉の代表作もひととおり押さえてきてはいるが、それでもこういう傑作が残っているから嫌になる。なんとなくだが、戦争を絡めたミステリには傑作が多いような気がする。
3位は今年の翻訳ミステリの主役。ここまで話題になると得てして読む気が失せるものだが、これは読んでおいてよかった。
今年かためて読んだロスマクからは、あえてノンシリーズの『死体置場で会おう』をセレクト。ハードボイルドでありながら謎解きや意外性も楽しめるレベルの高さ。個人的にはまだ後期作の読み残しが多く、これは来年の大きな楽しみである。
国内作家で今年開拓したのは結城昌治。意外に幅広い作風だが、やはり好みは渋めの警察小説。何よりその味わいが気に入ってはいるのだが、それでいてトリッキーな部分もちゃんとあるのが素晴らしい。小粒ながらその読後感は大作に匹敵する。
幻想小説もいくつかよいものがあったが、今年の筆頭はハートリー。決してすっきりするような話ばかりでないのだが、むしろ読者を煙に巻くようなところがだんだん魅力的になってきてランクイン。
7位は当ベストテン常連のマクロイだが、今年は二冊の新刊を読めて満足。ただ、『悪意の夜』は思ったより低調で、いろいろな面でこちらのほうが楽しめた。
8位はシムノンのメグレもの短編集。長編のメグレものとはまた少し違った面白さを感じることができる好短編集だが、残念なことに絶版である。ぜひどこかから復刻してほしい一冊である(できれば完本で)。
今年はジョン・ロードの作品も長年の積ん読を消化できた。それも『代診医の死』あればこそで、この作品から紹介されていれば、日本でもかなりの人気が出て、退屈派などと呼ばれることもなかったろうに。ともあれ本作をきかっけに以前の作品の良さも再認識できたのはよかった。
10位は懐かしやのポール・アルテ。版元の販促にかける気合の入り方がすごくて、泥臭い戦術ではあるけれど、これはやはり応援したくなる。もちろん、それも本作の内容が伴っていたからで、引き続き邦訳が待たれるところだ。
ということで以上、探偵小説三昧の極私的ベストテン2018。しかし、今年は他にもランクインさせたい作品が山のようにあるため、以下、順不同でできるだけあげておこう。
まず、古いものが多いのでどうしても商業誌のベストテンではランクインしにくい論創海外ミステリだが、フランシス・ディドロ『七人目の陪審員』、ラング・ルイス『友だち殺し』、リリアン・デ・ラ・トーレ『探偵サミュエル・ジョンソン博士』、エリザベス・フェラーズ『灯火が消える前に』の四作はおすすめ。特にフェラーズは『カクテル・パーティー』もなかなかの出来で、今後の邦訳に期待したいところだ。
怪奇幻想系ではダフネ・デュ・モーリアの短編集『いま見てはいけない』、もう少しファンタジー色が強いものがお好みならフランシス・ハーディング『嘘の木』、叙情的なものなら堀辰雄『初期ファンタジー傑作集 羽ばたき』もよろしい。
現代ミステリではビル・ビバリー『東の果て、夜へ』、アーナルデュル・インドリダソン『湖の男』、ジョー・イデ『IQ』、ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』、マイクル・コナリー『燃える部屋』、シェイン・クーン『インターンズ・ハンドブック』など傑作目白押し。もうどれをとってもベストテン級なのだけれど、管理人の好みもあって惜しくもランクインならず。
国産作家では、まず陳舜臣の短編集『方壺園』。読了当時は絶対ベストテン級だと思っていたのだが、ううむ、自分で落としておきながらまさかの結果である(苦笑)。ほかには多岐川恭『静かな教授』もかなりオリジナリティのある作品で印象に残っている。
あとは別格で横溝正史『雪割草』。ミステリでもなく、傑作というほどでもないが、これを読まないわけにはいかない。
ノンフィクション系では何といっても乱歩関連本に尽きる。少し前の記事でも書いたが、内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』、中川右介『江戸川乱歩と横溝正史』、中相作『乱歩謎解きクロニクル』、平山雄一『明智小五郎回顧談』の四作は、乱歩ファンを名乗るなら必読ではないか。
ということで今年の「探偵小説三昧」の更新はこれにて終了。
今年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
ここ数年は昭和の推理作家や古典の読み残しなどを意識して消化しているのだが、今年はロス・マクドナルドと結城昌治を進められたのが嬉しい。
まあ、何を今さらというなかれ(苦笑)。ミステリも古今東西かつジャンルで読者層がけっこう分かれるわけで、専門家でもない限り全方位的に網羅している人はそれほど多くはない。また、ある程度まで網羅している人でもピンポイントで抜け落ちている作家がいたり、そもそも代表作しか読まない人もけっこういたりする。
管理人などは手をつけた作家の作品はできるだけ全部読みたい主義なので、なかなか幅広く読むことができないでいる。ミステリもかれこれ四十年以上読んでいるが、それでもメジャーの読み残しはいくつもあるわけで、いやなんとも奥が深い。
とまあ、言い訳もどきの枕もすんだところで、2018年のベストテン発表である。管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選んだ結果である。
ではどうぞ。
1位 大岡昇平『事件』(創元推理文庫)
2位 日影丈吉『内部の真実』(創元推理文庫)
3位 アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(創元推理文庫)
4位 ロス・マクドナルド『死体置場で会おう』(ハヤカワミステリ)
5位 結城昌治『夜の終る時』(角川文庫)
6位 L・P・ハートリー『ポドロ島』(河出書房新社)
7位 ヘレン・マクロイ『牧神の影』(ちくま文庫)
8位 ジョルジュ・シムノン『メグレ夫人の恋人』(角川文庫)
9位 ジョン・ロード『代診医の死』(論創海外ミステリ)
10位 ポール・アルテ『あやかしの裏通り』(行舟文化)
昨年に続き、今年も悩みに悩んだベストテンである。昭和の香り濃厚なミステリ、新旧本格、警察小説にハードボイルド、幻想小説まで、とにかく今年は個人的ツボにはまる作品が多すぎて、ベスト三十ぐらいまであげたい気分である。
1位の『事件』は社会派という雰囲気で敬遠している人もいるかもしれないが、それ以前に極上の法廷ミステリであり、エンターテインメントでもある。これだけは悩むことなく1位にあっさり決めてしまったが、これを今まで読んでなかったのは不覚というしかない。
2位の『内部の真実』も不覚の一作(笑)。日影丈吉の代表作もひととおり押さえてきてはいるが、それでもこういう傑作が残っているから嫌になる。なんとなくだが、戦争を絡めたミステリには傑作が多いような気がする。
3位は今年の翻訳ミステリの主役。ここまで話題になると得てして読む気が失せるものだが、これは読んでおいてよかった。
今年かためて読んだロスマクからは、あえてノンシリーズの『死体置場で会おう』をセレクト。ハードボイルドでありながら謎解きや意外性も楽しめるレベルの高さ。個人的にはまだ後期作の読み残しが多く、これは来年の大きな楽しみである。
国内作家で今年開拓したのは結城昌治。意外に幅広い作風だが、やはり好みは渋めの警察小説。何よりその味わいが気に入ってはいるのだが、それでいてトリッキーな部分もちゃんとあるのが素晴らしい。小粒ながらその読後感は大作に匹敵する。
幻想小説もいくつかよいものがあったが、今年の筆頭はハートリー。決してすっきりするような話ばかりでないのだが、むしろ読者を煙に巻くようなところがだんだん魅力的になってきてランクイン。
7位は当ベストテン常連のマクロイだが、今年は二冊の新刊を読めて満足。ただ、『悪意の夜』は思ったより低調で、いろいろな面でこちらのほうが楽しめた。
8位はシムノンのメグレもの短編集。長編のメグレものとはまた少し違った面白さを感じることができる好短編集だが、残念なことに絶版である。ぜひどこかから復刻してほしい一冊である(できれば完本で)。
今年はジョン・ロードの作品も長年の積ん読を消化できた。それも『代診医の死』あればこそで、この作品から紹介されていれば、日本でもかなりの人気が出て、退屈派などと呼ばれることもなかったろうに。ともあれ本作をきかっけに以前の作品の良さも再認識できたのはよかった。
10位は懐かしやのポール・アルテ。版元の販促にかける気合の入り方がすごくて、泥臭い戦術ではあるけれど、これはやはり応援したくなる。もちろん、それも本作の内容が伴っていたからで、引き続き邦訳が待たれるところだ。
ということで以上、探偵小説三昧の極私的ベストテン2018。しかし、今年は他にもランクインさせたい作品が山のようにあるため、以下、順不同でできるだけあげておこう。
まず、古いものが多いのでどうしても商業誌のベストテンではランクインしにくい論創海外ミステリだが、フランシス・ディドロ『七人目の陪審員』、ラング・ルイス『友だち殺し』、リリアン・デ・ラ・トーレ『探偵サミュエル・ジョンソン博士』、エリザベス・フェラーズ『灯火が消える前に』の四作はおすすめ。特にフェラーズは『カクテル・パーティー』もなかなかの出来で、今後の邦訳に期待したいところだ。
怪奇幻想系ではダフネ・デュ・モーリアの短編集『いま見てはいけない』、もう少しファンタジー色が強いものがお好みならフランシス・ハーディング『嘘の木』、叙情的なものなら堀辰雄『初期ファンタジー傑作集 羽ばたき』もよろしい。
現代ミステリではビル・ビバリー『東の果て、夜へ』、アーナルデュル・インドリダソン『湖の男』、ジョー・イデ『IQ』、ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』、マイクル・コナリー『燃える部屋』、シェイン・クーン『インターンズ・ハンドブック』など傑作目白押し。もうどれをとってもベストテン級なのだけれど、管理人の好みもあって惜しくもランクインならず。
国産作家では、まず陳舜臣の短編集『方壺園』。読了当時は絶対ベストテン級だと思っていたのだが、ううむ、自分で落としておきながらまさかの結果である(苦笑)。ほかには多岐川恭『静かな教授』もかなりオリジナリティのある作品で印象に残っている。
あとは別格で横溝正史『雪割草』。ミステリでもなく、傑作というほどでもないが、これを読まないわけにはいかない。
ノンフィクション系では何といっても乱歩関連本に尽きる。少し前の記事でも書いたが、内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』、中川右介『江戸川乱歩と横溝正史』、中相作『乱歩謎解きクロニクル』、平山雄一『明智小五郎回顧談』の四作は、乱歩ファンを名乗るなら必読ではないか。
ということで今年の「探偵小説三昧」の更新はこれにて終了。
今年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。