- Date: Sun 06 01 2019
- Category: 国内作家 藤村正太
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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藤村正太『藤村正太探偵小説選I』(論創ミステリ叢書)
今年最初の読了本は論創ミステリ叢書から『藤村正太探偵小説選I』。
帯に『川島郁夫探偵小説選』第一巻とあるように、本書は藤村正太が川島郁夫名義で書いた探偵小説を集めたものだ。藤村正太は1963年に『孤独なアスファルト』で乱歩賞を受賞したこともあって、社会派として名が通っているところもあるが、けっこう通俗的なものもあったり意外にその作風は幅広いようで、時代の求めに応じていろいろ書き分けてきた印象もある。
そんな藤村正太だが、昭和二十五年のデビューから十年ほどはガッツリと本格探偵小説に向き合っており、その当時のペンネームが川島郁夫である。つまり本書は藤村正太の初期本格探偵小説集というわけだ。

「黄色の輪」
「接吻物語」
「盛装」
「虚粧」
「或る自白」
「謎のヘヤーピン」
「田茂井先生老いにけり」
「筈見敏子殺害事件」
「液体癌の戦慄」
「暴力」
「断層」
「その前夜」
「法律」
「武蔵野病棟記」
「或る特攻隊員」
収録作は以上。川島郁夫名義の作品はいくつかアンソロジーで読んでおり、その印象は悪くなかったが、いやこれだけまとまると圧巻である。これだけ多くの本格を書いていたのかという驚きがあり、しかも、その一作一作がけっこう濃い。また、本格中心ではあるけれど、なかにはユーモアを打ち出したもの、歴史物などもあって、バラエティに富んでいるのは後期に共通するところといえるだろう。
ただ、ネタの詰め込みすぎだったり、強引すぎたり、プロットがわかりにくかったりと、全体的にけっこう粗は目立つし、完成度の低さは気になるところだ。アイデアは悪くないのだが、それを探偵小説としてまとめるテクニックがまだ不足しているという感じで、実にもったいない。
そんななか気に入った作品をあげると、まずは「接吻物語」。これは「黄色の輪」と同時に懸賞に応募した作品で、結果としては「黄色の輪」が三等入賞となったのだが、個人的には事件の様相をガラッとひっくり返してみせた「接吻物語」のほうが上と思う。ちなみに乱歩も同じ意見だったようだ(苦笑)。
「盛装」も懸賞応募作品。こちらは中編部門ということで、なかなか読み応えがある。密室ものではあるがむしろアリバイトリックが興味深い。
「液体癌の戦慄」は本格というより変格といった方が適切か。レベルは落ちるが、ネタ自体の面白さで引き込まれた。
「断層」も本格としてはいかがなものかという気もするが、この設定自体には惹かれる。というかこれでは純文学になってしまうか(苦笑)。
ネタを詰め込みすぎてプロットがおかしくなりがちという話を上で書いたが、ボリュームのある作品はそのあたりが多少は緩和されて割といいものが多い気がする。「武蔵野病棟記」もそのひとつで、著者の闘病経験が活かされていたり、複雑な人間関係などが盛り込まれ、読み応えがある。
ということですべてが満足できる作品ではないけれど、無理矢理なところが逆に探偵小説の香りを感じさせる場合もあるし、そもそも著者のこの時代の作品がまとめられたということだけでも買いの一冊。探偵小説ファンであれば十分オススメといえるだろう。第二巻の感想もそのうちに。
帯に『川島郁夫探偵小説選』第一巻とあるように、本書は藤村正太が川島郁夫名義で書いた探偵小説を集めたものだ。藤村正太は1963年に『孤独なアスファルト』で乱歩賞を受賞したこともあって、社会派として名が通っているところもあるが、けっこう通俗的なものもあったり意外にその作風は幅広いようで、時代の求めに応じていろいろ書き分けてきた印象もある。
そんな藤村正太だが、昭和二十五年のデビューから十年ほどはガッツリと本格探偵小説に向き合っており、その当時のペンネームが川島郁夫である。つまり本書は藤村正太の初期本格探偵小説集というわけだ。

「黄色の輪」
「接吻物語」
「盛装」
「虚粧」
「或る自白」
「謎のヘヤーピン」
「田茂井先生老いにけり」
「筈見敏子殺害事件」
「液体癌の戦慄」
「暴力」
「断層」
「その前夜」
「法律」
「武蔵野病棟記」
「或る特攻隊員」
収録作は以上。川島郁夫名義の作品はいくつかアンソロジーで読んでおり、その印象は悪くなかったが、いやこれだけまとまると圧巻である。これだけ多くの本格を書いていたのかという驚きがあり、しかも、その一作一作がけっこう濃い。また、本格中心ではあるけれど、なかにはユーモアを打ち出したもの、歴史物などもあって、バラエティに富んでいるのは後期に共通するところといえるだろう。
ただ、ネタの詰め込みすぎだったり、強引すぎたり、プロットがわかりにくかったりと、全体的にけっこう粗は目立つし、完成度の低さは気になるところだ。アイデアは悪くないのだが、それを探偵小説としてまとめるテクニックがまだ不足しているという感じで、実にもったいない。
そんななか気に入った作品をあげると、まずは「接吻物語」。これは「黄色の輪」と同時に懸賞に応募した作品で、結果としては「黄色の輪」が三等入賞となったのだが、個人的には事件の様相をガラッとひっくり返してみせた「接吻物語」のほうが上と思う。ちなみに乱歩も同じ意見だったようだ(苦笑)。
「盛装」も懸賞応募作品。こちらは中編部門ということで、なかなか読み応えがある。密室ものではあるがむしろアリバイトリックが興味深い。
「液体癌の戦慄」は本格というより変格といった方が適切か。レベルは落ちるが、ネタ自体の面白さで引き込まれた。
「断層」も本格としてはいかがなものかという気もするが、この設定自体には惹かれる。というかこれでは純文学になってしまうか(苦笑)。
ネタを詰め込みすぎてプロットがおかしくなりがちという話を上で書いたが、ボリュームのある作品はそのあたりが多少は緩和されて割といいものが多い気がする。「武蔵野病棟記」もそのひとつで、著者の闘病経験が活かされていたり、複雑な人間関係などが盛り込まれ、読み応えがある。
ということですべてが満足できる作品ではないけれど、無理矢理なところが逆に探偵小説の香りを感じさせる場合もあるし、そもそも著者のこの時代の作品がまとめられたということだけでも買いの一冊。探偵小説ファンであれば十分オススメといえるだろう。第二巻の感想もそのうちに。
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