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マージェリー・アリンガム『ホワイトコテージの殺人』(創元推理文庫)
仕事始めの一週間は挨拶回りや関西出張などで読書時間がほとんど取れず。というかむちゃくちゃハードワークで疲れる一週間であった。この週末にようやく少しはのんびりできるが、外回りの分、中の仕事がたまってしまったので、月曜の祝日は出勤しないとだな(泣)。
そんな中、かろうじて読んだのが英国の四大女流推理作家の一人、マージェリー・アリンガムの『ホワイトコテージの殺人』。アリンガムの作品といえばアルバート・キャンピオンのシリーズが有名だが、本作は彼女が初めて書いた長編ミステリでノンシリーズものである。
ちなみに初の長編は『Blackkerchief Dick』だが、こちらはミステリではなく海賊をネタにした歴史もののようだ。
まずはストーリーから。
1920年代の英国ケント州。とある村をドライブ中の青年ジェリー・チャロナーは、美しい娘に出会い、帰宅先の白亜荘(ホワイトコテージ)まで送ることにする。だが、そこで殺人事件に遭遇。ジェリーはスコットランドヤードの敏腕警部として知られる父、W・T・チャロナーを呼び寄せた。
被害者は白亜荘の隣に住むエリック・クラウザー。その評判はすこぶる悪く、誰もが彼を憎んでいたが、決定的な証拠は見つからない。だがクラウザーと同居する男チェリーニが突然姿をくらましたことから、容疑が濃厚となる……。

アリンガム初の長編ミステリというだけでなく、二十三歳のときの作品ということだが、まあ確かに若書きを感じるところは多々あるけれども、同時になかなか意欲的な作品でもある。
それがもっとも顕著なのがやはりプロットやストーリーになるだろう。館ものというオーソドックスな導入から舞台を海外へと移したり、国際謀略的なネタを絡ませたり、はたまたロマンス要素を多めに取り込んだりと、地味になりがちな本格ミステリをショーアップする工夫は悪くない。
真相のインパクトも当時としては十分だろうし、謎解きをああいう形で見せるのも、やはり型に嵌らないものにしたいというアリンガムの意識の表れではないだろうか。
ただ、先に書いたように気になるところもちらほら。
特に警察の捜査という点に関してはかなりアバウトさが目立ち、まるで素人探偵のように思えるほどだ。ジェリー・チャロナーが素人探偵として独立して動くのであればいいのだけれど、警部のW・T含めてそうなので、このあたりは適当というか、著者にとって興味の範囲外だったのかもという印象である。
ラストについてもそういう意味では乱暴な作りなのだが、これは作中で度々語られるW・T・チャロナー警部の捜査方針と微妙にリンクしており、作品全体を貫くテーマとしてはなかなかいい。ところが残念なことに著者はこれまたけっこうあっさりと流しており、何とももったいないかぎりだ。このテーマありきで全体をブラッシュアップすれば、また違った印象になったろうになぁ。
ということで過剰な期待はしないほうがいいけれど、それなりには楽しめるし、若きアリンガムの目指すところはうかがえる一作。クラシックミステリのファンであれば。
そんな中、かろうじて読んだのが英国の四大女流推理作家の一人、マージェリー・アリンガムの『ホワイトコテージの殺人』。アリンガムの作品といえばアルバート・キャンピオンのシリーズが有名だが、本作は彼女が初めて書いた長編ミステリでノンシリーズものである。
ちなみに初の長編は『Blackkerchief Dick』だが、こちらはミステリではなく海賊をネタにした歴史もののようだ。
まずはストーリーから。
1920年代の英国ケント州。とある村をドライブ中の青年ジェリー・チャロナーは、美しい娘に出会い、帰宅先の白亜荘(ホワイトコテージ)まで送ることにする。だが、そこで殺人事件に遭遇。ジェリーはスコットランドヤードの敏腕警部として知られる父、W・T・チャロナーを呼び寄せた。
被害者は白亜荘の隣に住むエリック・クラウザー。その評判はすこぶる悪く、誰もが彼を憎んでいたが、決定的な証拠は見つからない。だがクラウザーと同居する男チェリーニが突然姿をくらましたことから、容疑が濃厚となる……。

アリンガム初の長編ミステリというだけでなく、二十三歳のときの作品ということだが、まあ確かに若書きを感じるところは多々あるけれども、同時になかなか意欲的な作品でもある。
それがもっとも顕著なのがやはりプロットやストーリーになるだろう。館ものというオーソドックスな導入から舞台を海外へと移したり、国際謀略的なネタを絡ませたり、はたまたロマンス要素を多めに取り込んだりと、地味になりがちな本格ミステリをショーアップする工夫は悪くない。
真相のインパクトも当時としては十分だろうし、謎解きをああいう形で見せるのも、やはり型に嵌らないものにしたいというアリンガムの意識の表れではないだろうか。
ただ、先に書いたように気になるところもちらほら。
特に警察の捜査という点に関してはかなりアバウトさが目立ち、まるで素人探偵のように思えるほどだ。ジェリー・チャロナーが素人探偵として独立して動くのであればいいのだけれど、警部のW・T含めてそうなので、このあたりは適当というか、著者にとって興味の範囲外だったのかもという印象である。
ラストについてもそういう意味では乱暴な作りなのだが、これは作中で度々語られるW・T・チャロナー警部の捜査方針と微妙にリンクしており、作品全体を貫くテーマとしてはなかなかいい。ところが残念なことに著者はこれまたけっこうあっさりと流しており、何とももったいないかぎりだ。このテーマありきで全体をブラッシュアップすれば、また違った印象になったろうになぁ。
ということで過剰な期待はしないほうがいいけれど、それなりには楽しめるし、若きアリンガムの目指すところはうかがえる一作。クラシックミステリのファンであれば。
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