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大阪圭吉『花嫁と仮髪 大阪圭吉単行本未収録作品集1』(盛林堂ミステリアス文庫)
ようやくひと山超えた感じでぼちぼち読書ペースも上げていきたいところ。景気づけというほどでもないが、ちょうど発行されたばかりのミステリマガジン最新号を読んでいるとウィリアム・ゴールドマンとブライアン・ガーフィールドの訃報が載っていて、少しへこむ。まあ、どっちもそれほどよい読者ではないのだけれどゴールドマンの『殺しの接吻』はオフビートな犯罪小説ですごく楽しめたし(恥ずかしながら『マラソンマン』は未読)、ガーフィールドの『ホップスコッチ』も良質なエンターテインメントで、どちらもおすすめである。
相変わらずレアな探偵小説などをコツコツと復刻し続けている盛林堂ミステリアス文庫から『花嫁と仮髪 大阪圭吉単行本未収録作品集1』を読む。
大阪圭吉の作品はこの二十年ほどで紹介が進み、国書刊行会『とむらい機関車』を皮切りに、そのバージョンアップ版ともいえる創元推理文庫『とむらい機関車』と『銀座幽霊』、防諜小説を中心とした論創ミステリ叢書『大阪圭吉探偵小説選』、それらの作品集に漏れた作品を残らず収録した戎光祥出版のミステリ珍本全集『死の快走船』などが刊行された。そしてその過程で、“戦前には珍しい本格作家”という謳い文句が揺らいでしまうほど多彩なジャンルの作品にも触れることができた。
しかしながら大阪圭吉には、単行本未収録の作品がなんとまだ五十作ほどあるらしい。それらを全部収録して、なんと全六巻の単行本未収録作品集にしようというのがこのシリーズである。
ただ、その前に肝心の掲載誌を発見しなければいけないし、本当に書かれたかどうか不明な幻の長編まで入っているらしい(笑)。実現するかどうかはわからない、まだまだ夢の企画らしいのだが、いやあ、それでもこれが完結したら素晴らしいことだ。

「花嫁と仮髪」
「愛の先駆車」
「北洋物語 氷河婆さん」
「人情馬車」
「明朗小説 門出の靴」
「おめでたい人間の味覚」(エッセイ)
「怒れる山(日立鉱山錬成行)」(エッセイ)
「鱒を釣る探偵」(エッセイ)
収録作は以上。「花嫁と仮髪」のみまとまった分量の短編だが、あとは短めの短編(掌編というべきか)、エッセイといった構成である。
表題作の「花嫁と仮髪」は披露宴当日に花嫁のカツラが盗まれるという一席。ミステリの体裁ではあるが、どちらかというと明朗小説として読むほうが適切か。登場人物のやりとりや全体のほのぼのとした雰囲気が楽しめる。
「愛の先駆車」は戦時中の実話を元にした作品とのこと。先駆車とは、強盗などの襲撃を未然に防ぐため、実際の乗客を乗せた列車の前を囮として先に走る列車のことである。戦時中の国威高揚ものではあるが、設定とドラマが素晴らしく、短い作品なのがつくづく惜しまれる。個人的には本書中のイチ押し。
「北洋物語 氷河婆さん」は題名だけだとユーモア小説のように思えるが、これがなんと秘境小説風。最後のアイデアが強烈。
「人情馬車」と「明朗小説 門出の靴」はどちらも明朗小説だけれども、後者が好み。靴磨きの夫が軍事工場に勤めようと決意するが、最後だけは妻に自分の靴を磨いてもらおうとするエピソード。これが書かれた当時より、おそらく今読んだ方がはるかに切なく感じる物語である。
相変わらずレアな探偵小説などをコツコツと復刻し続けている盛林堂ミステリアス文庫から『花嫁と仮髪 大阪圭吉単行本未収録作品集1』を読む。
大阪圭吉の作品はこの二十年ほどで紹介が進み、国書刊行会『とむらい機関車』を皮切りに、そのバージョンアップ版ともいえる創元推理文庫『とむらい機関車』と『銀座幽霊』、防諜小説を中心とした論創ミステリ叢書『大阪圭吉探偵小説選』、それらの作品集に漏れた作品を残らず収録した戎光祥出版のミステリ珍本全集『死の快走船』などが刊行された。そしてその過程で、“戦前には珍しい本格作家”という謳い文句が揺らいでしまうほど多彩なジャンルの作品にも触れることができた。
しかしながら大阪圭吉には、単行本未収録の作品がなんとまだ五十作ほどあるらしい。それらを全部収録して、なんと全六巻の単行本未収録作品集にしようというのがこのシリーズである。
ただ、その前に肝心の掲載誌を発見しなければいけないし、本当に書かれたかどうか不明な幻の長編まで入っているらしい(笑)。実現するかどうかはわからない、まだまだ夢の企画らしいのだが、いやあ、それでもこれが完結したら素晴らしいことだ。

「花嫁と仮髪」
「愛の先駆車」
「北洋物語 氷河婆さん」
「人情馬車」
「明朗小説 門出の靴」
「おめでたい人間の味覚」(エッセイ)
「怒れる山(日立鉱山錬成行)」(エッセイ)
「鱒を釣る探偵」(エッセイ)
収録作は以上。「花嫁と仮髪」のみまとまった分量の短編だが、あとは短めの短編(掌編というべきか)、エッセイといった構成である。
表題作の「花嫁と仮髪」は披露宴当日に花嫁のカツラが盗まれるという一席。ミステリの体裁ではあるが、どちらかというと明朗小説として読むほうが適切か。登場人物のやりとりや全体のほのぼのとした雰囲気が楽しめる。
「愛の先駆車」は戦時中の実話を元にした作品とのこと。先駆車とは、強盗などの襲撃を未然に防ぐため、実際の乗客を乗せた列車の前を囮として先に走る列車のことである。戦時中の国威高揚ものではあるが、設定とドラマが素晴らしく、短い作品なのがつくづく惜しまれる。個人的には本書中のイチ押し。
「北洋物語 氷河婆さん」は題名だけだとユーモア小説のように思えるが、これがなんと秘境小説風。最後のアイデアが強烈。
「人情馬車」と「明朗小説 門出の靴」はどちらも明朗小説だけれども、後者が好み。靴磨きの夫が軍事工場に勤めようと決意するが、最後だけは妻に自分の靴を磨いてもらおうとするエピソード。これが書かれた当時より、おそらく今読んだ方がはるかに切なく感じる物語である。
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Comments
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じゃあ、あの作品だけでも、だまされたと思って一読されることをおすすめします。
ほらだまされた(笑) ←古典的ギャグ
出征前に甲賀三郎に渡した長編原稿がいまだに存在するなら、それを手に入れるまでのノンフィクションのほうが、大阪圭吉の幻の原稿の内容よりも読み応えがあって面白そうな気がしますね(笑) いずれにせよ、図書館頼りの貧乏人の身には手が届きそうな代物ではなさそうですなあ……。
Posted at 23:50 on 01 29, 2019 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
どうもご丁寧に(笑)。
ありがとうございます。
幻の長編は見つかったら大ごとです。連載された雑誌が見つからないとかではなく、原稿用紙のままのものなので(苦笑)。
見つかったら意地でも本にしてくれるでしょうが、まあ普通のハードカバーの値段で出してくれると思いますよ(いや、思いたい)。
Posted at 00:03 on 01 30, 2019 by sugata