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ロス・マクドナルド『ギャルトン事件』(ハヤカワミステリ )
ロス・マク読破計画をひとつ進める。本日の読了本は長編十三作目にあたる『ギャルトン事件』である。
こんな話。大富豪ギャルトン家の弁護士セイブルに呼び出された私立探偵リュウ・アーチャー。その用件とは、未亡人マリア・ギャルトンが二十年前に別れたまま行方不明となっている息子アンサニイを探し出してほしいというものだった。
当時、アンサニイは家柄に合わない女性と結婚したために家を追い出されたのだが、今やマリアも病気で明日をも知れぬ身。最後にアンサニイと再開し、すべてを許してやりたいと考えたのだ。見込みは薄そうだが、とりあえず調査を引き受けたアーチャー。しかし、その直後にセイブルが雇っている下男が殺されるという事件が起き、現場に向かうアーチャーは何者かに車を強奪されて……。

参った。本作は著者自身も大きなターニングポイントとなったことを認めている作品であり、いよいよ後期傑作群にリーチがかかった時期の作品だったのだが、もうこの時点で十分に傑作ではないか。
行方不明者の捜索や家族の悲劇、題材やスタイルこそいつもと似たような感じなのだが、ますます磨きがかかっており、特にプロットはお見事。複雑なストーリー展開は毎度のことだが、本作においては各種ピースを無駄なく絡め、余分なものが一切ない。登場人物の心理や行動、あるいは伏線の張り方など、すぐにもう一度確かめたくなるほど巧いのである。
とりわけ印象的だったのは中盤以降の展開である。ストーリー的には少々スムーズにいきすぎる嫌いはあるのだが、ある人物が登場したあとの静的なアプローチが、著者の円熟を感じさせる。正直、この展開はあまり予想していなかっただけに、実は事件の真相より、この構成にこそ感心してしまった。
もちろん単にプロットが緻密というだけではなく、行方不明者の捜索と弁護士の使用人殺しがどう結びつくのか、中盤で登場するある人物の真偽など、ミステリ的な興味も十分満足できるものだ。さらには終盤のどんでん返しにも驚かされる。
それらが渾然一体となっているからこその傑作なのである。
著者にしては珍しく、希望を感じさせるラストも悪くないし、ロス・マク入門の一冊としては最適なんではなかろうかとも思った次第。これが文庫になっていなかったとは驚きである。
こんな話。大富豪ギャルトン家の弁護士セイブルに呼び出された私立探偵リュウ・アーチャー。その用件とは、未亡人マリア・ギャルトンが二十年前に別れたまま行方不明となっている息子アンサニイを探し出してほしいというものだった。
当時、アンサニイは家柄に合わない女性と結婚したために家を追い出されたのだが、今やマリアも病気で明日をも知れぬ身。最後にアンサニイと再開し、すべてを許してやりたいと考えたのだ。見込みは薄そうだが、とりあえず調査を引き受けたアーチャー。しかし、その直後にセイブルが雇っている下男が殺されるという事件が起き、現場に向かうアーチャーは何者かに車を強奪されて……。

参った。本作は著者自身も大きなターニングポイントとなったことを認めている作品であり、いよいよ後期傑作群にリーチがかかった時期の作品だったのだが、もうこの時点で十分に傑作ではないか。
行方不明者の捜索や家族の悲劇、題材やスタイルこそいつもと似たような感じなのだが、ますます磨きがかかっており、特にプロットはお見事。複雑なストーリー展開は毎度のことだが、本作においては各種ピースを無駄なく絡め、余分なものが一切ない。登場人物の心理や行動、あるいは伏線の張り方など、すぐにもう一度確かめたくなるほど巧いのである。
とりわけ印象的だったのは中盤以降の展開である。ストーリー的には少々スムーズにいきすぎる嫌いはあるのだが、ある人物が登場したあとの静的なアプローチが、著者の円熟を感じさせる。正直、この展開はあまり予想していなかっただけに、実は事件の真相より、この構成にこそ感心してしまった。
もちろん単にプロットが緻密というだけではなく、行方不明者の捜索と弁護士の使用人殺しがどう結びつくのか、中盤で登場するある人物の真偽など、ミステリ的な興味も十分満足できるものだ。さらには終盤のどんでん返しにも驚かされる。
それらが渾然一体となっているからこその傑作なのである。
著者にしては珍しく、希望を感じさせるラストも悪くないし、ロス・マク入門の一冊としては最適なんではなかろうかとも思った次第。これが文庫になっていなかったとは驚きである。
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