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藤村正太『藤村正太探偵小説選II』(論創ミステリ叢書)
論創ミステリ叢書から『藤村正太探偵小説選II』を読む。前巻『藤村正太探偵小説選I』に続いて、著者の川島郁夫名義の作品を集めたもので、主に昭和三十年代に発表されたものが収録されている。まずは収録作。
「原爆の歌姫」
「暁の決闘」
「真知子」
「契約愛人」
「残雪」
「兜町狂燥曲」
「原子病の妻」
「蛇崩れ墓地」
「肌冷たき妻」
「消えた金厨子」
「妻恋岬の密室事件」
「消えた百面相」
「泥棒と老嬢」
「チャルシャフの女」
「白い鯛」
「エミネとの奇妙な恋」
「乳房に猫はなぜ眠る」
「銀色の薔薇」
「月蝕の夜」
「美貌の母」
「仮面の貞操」
「義姉(あね)の手袋」
「サファイアの女靴」
「妖精(ニンフ)は黒マスクで待っている」

前巻に引き続き、謎解きをメインにしつつも、幅広い作風で読ませる。単なる本格にとどまらずサスペンスや変格っぽいものまでバラエティに富んでおり、本書も過大な期待さえしなければまずまず楽しめるだろう。
ただ、読み応えがあるかといわれると少々厳しい。当時の掲載誌の事情などもあろうが、どれも短かすぎて全体的に物足りないというかコク不足な感じは否めない。もう少し描写を膨らませるだけでも、ずいぶん印象は変わったと思うので、そこがなんとも惜しい。
それでもいくつか光る作品はある。印象に残ったのは「原爆の歌姫」「原子病の妻」「妻恋岬の密室事件」「乳房に猫はなぜ眠る」あたり。
トリッキーな作品が多くなったが、「原子病の妻」は予想外の展開で、ある意味、それが本書で一番驚かされた事実である。ただ、読んでいただければわかるが、これはミステリとしてのサプライズではないので念のため。
「乳房に猫はなぜ眠る」は河出文庫のアンソロジー『猫のミステリー』(のちに『猫のミステリー傑作選』に改題)で読んだことがあるが、再読してもその面白さは変わらず。著者の体験を活かしたサナトリウムものだが、人間関係の見せ方やトリックなど読みどころは多い。ちなみに本書の解説で、河出文庫版の同作品がかなり改稿されたものであることを詳しく説明してあったが、アンソロジーであそこまで修正することもあるのかと、これが本書で二番目に驚かされた事実であった。
ということで、探偵小説の出来だけみれば絶賛とまではいかないけれども、川島郁夫の全貌が理解できるという点も踏まえれば文句なしに大絶賛の一冊(厳密には二冊だが)。まあ贅沢を言ってはバチが当たるというものだろう。
「原爆の歌姫」
「暁の決闘」
「真知子」
「契約愛人」
「残雪」
「兜町狂燥曲」
「原子病の妻」
「蛇崩れ墓地」
「肌冷たき妻」
「消えた金厨子」
「妻恋岬の密室事件」
「消えた百面相」
「泥棒と老嬢」
「チャルシャフの女」
「白い鯛」
「エミネとの奇妙な恋」
「乳房に猫はなぜ眠る」
「銀色の薔薇」
「月蝕の夜」
「美貌の母」
「仮面の貞操」
「義姉(あね)の手袋」
「サファイアの女靴」
「妖精(ニンフ)は黒マスクで待っている」

前巻に引き続き、謎解きをメインにしつつも、幅広い作風で読ませる。単なる本格にとどまらずサスペンスや変格っぽいものまでバラエティに富んでおり、本書も過大な期待さえしなければまずまず楽しめるだろう。
ただ、読み応えがあるかといわれると少々厳しい。当時の掲載誌の事情などもあろうが、どれも短かすぎて全体的に物足りないというかコク不足な感じは否めない。もう少し描写を膨らませるだけでも、ずいぶん印象は変わったと思うので、そこがなんとも惜しい。
それでもいくつか光る作品はある。印象に残ったのは「原爆の歌姫」「原子病の妻」「妻恋岬の密室事件」「乳房に猫はなぜ眠る」あたり。
トリッキーな作品が多くなったが、「原子病の妻」は予想外の展開で、ある意味、それが本書で一番驚かされた事実である。ただ、読んでいただければわかるが、これはミステリとしてのサプライズではないので念のため。
「乳房に猫はなぜ眠る」は河出文庫のアンソロジー『猫のミステリー』(のちに『猫のミステリー傑作選』に改題)で読んだことがあるが、再読してもその面白さは変わらず。著者の体験を活かしたサナトリウムものだが、人間関係の見せ方やトリックなど読みどころは多い。ちなみに本書の解説で、河出文庫版の同作品がかなり改稿されたものであることを詳しく説明してあったが、アンソロジーであそこまで修正することもあるのかと、これが本書で二番目に驚かされた事実であった。
ということで、探偵小説の出来だけみれば絶賛とまではいかないけれども、川島郁夫の全貌が理解できるという点も踏まえれば文句なしに大絶賛の一冊(厳密には二冊だが)。まあ贅沢を言ってはバチが当たるというものだろう。
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