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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


中尾真理『ホームズと推理小説の時代』(ちくま学芸文庫)

 本日は久々にミステリ評論の感想を。昨年に刊行された『ホームズと推理小説の時代』である。
 ミステリ史上において圧倒的な知名度と人気を誇るシャーロック・ホームズ。その人気の秘密はどこにあるのか、何が私たちを魅了するのか。そんな疑問から出発し、ホームズを基点にして、ミステリがどのように展開し、黄金時代を迎えていったかを俯瞰するといった内容なのだが……ううむ、これは正直何といったらよいのか。

 ホームズと推理小説の時代

 具体的にはホームズから初めて、ホームズの先輩方、続いてライバルたち、そして英国黄金時代や米国黄金時代、日本での黄金時代まで探偵や作家ごとに解説していく。あまり目新しいネタはないものの、個々の作家や探偵についての情報はまずまず盛り込まれているので、ホームズでミステリに興味をもったミステリ初心者が次にどういうものを読むべきか、一応はそういう指標にするような内容といえるだろう。

 ただ、紹介される作家や探偵についてのミステリ史的な関連についての考察は少なく、また、紹介されている作家がかなり狭いので、これをもって「ホームズの誕生から黄金期への軌跡を辿る」という帯のコピーは明らかに言い過ぎ。
 だから本書がミステリ初心者向けかというと、実はまったくそんなことはなく、ではマニア向けかというと、そこまでのインパクトはない。ぶっちゃけ著者が好きなホームズやその他作家&探偵について紹介したエッセイといったところだろう。

 まあ、それはそれで全然ありだが、本書についてはもうひとつ気になる点があって、それはミステリの一般教養的なところでミスが散見されること。
 たとえばタイトルの誤記がけっこう多かったりするわけだが、ミステリでの常識的なところでミスがあるのはさすがにいただけない。たとえばエラリー・クイーンが女性の助手は登場させなかった云々という記述などは、本当にミステリを読んでいるのか疑問に思えるレベルだ。
 著者は英文学の専門家であり、実は若い頃からミステリもかなり読んでいるという。おまけに日本シャーロック・ホームズ・クラブの会員でもあるのだが、意地悪な見方をすると、本業ではなく趣味で書いた本だからそこまで調査していないのかもしれない。少なくとも近年に刊行された翻訳ミステリ関連の評論や伝記の類は読んでいないように思う。

 実は「前書き」の探偵小説の定義についての記述や参考にした推理小説論を見て、最初からかなりいやな予感はしていたのだが、これは編集者にもかなり問題があるところだ。なんというか担当編集者にしても著者にしても、一般のミステリファンとはどこかミステリに対するスタンスに大きなズレがあるのではないか、そんなことを感じさせるモヤモヤした一冊であった。


Comments

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ひらやまさん

あ、日本シャーロック・ホームズ・クラブと日本シャーロック・ホームズ・クラブ関西支部というのは別物なのですか。
そういう点も含めて、何かと誤解を招く本ですね。
私も別に専門家ではないですが、それでも気になる点が多くて……ちくま学芸文庫というブランドなのに残念です。

Posted at 22:18 on 03 17, 2019  by sugata

Edit

おっしゃる通りで、困った本です。

ちくま学芸文庫を名乗っているのに、固有名詞の統一さえもできないのは、編集者は何をしているのでしょうね。

ちなみに著者は、日本シャーロック・ホームズ・クラブの会員ではありません。
クラブの一部で関西支部と名乗って活動をしているグループがあり、そちらではクラブ会員以外もウエルカムです。
著者はそちらのグループで、活動をされている方です。
(ホームズ・クラブは現在公式な「支部」はありません。)
もっともあの本を知らない人が読めば、会員だと誤解されるのももっともですよね。

困った本です。

Posted at 20:53 on 03 17, 2019  by ひらやま

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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