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アメリア・レイノルズ・ロング『誰もがポオを読んでいた』(論創海外ミステリ)
アメリア・レイノルズ・ロングの『誰もがポオを読んでいた』を読む。
本作が本邦初紹介となるアメリア・レイノルズ・ロングだが、本格黄金期のちょい後ぐらいにデビューした本格ミステリの書き手である。もちろん読むのは初めてになるのだが、面白いのは解説に書かれた「貸本系アメリカンB級ミステリの女王」というキーワード。
日本でも1950年代(昭和三十年前後)に貸本文化が栄えた時代があり、それ専門で活躍する作家も少なくなかったのだが、なんと英米でも1930〜40年代にかけて貸本が流行し、同様に貸本中心で活躍する作家がいたらしい。当時、英米の貸本小説で流行っていたミステリは、連続殺人やオカルト趣味、猟奇殺人などセンセーショナルなものが中心だったようで、このあたりはけっこう日本とも共通するところがあるかもしれない。
まあ、そんな業界事情の中、人気を誇っていたのがアメリア・レイノルズ・ロングであり、本作もまた不気味な連続殺人を扱う内容となっている。
こんな話。フィラデルフィア大学大学院でエドガー・アラン・ポオをテーマにした文学セミナーが行われることになった。ポオの研究者として名高いルアク教授のもと、聴講生として集まったのは現役院生ばかりでなく、ミステリ作家や教師、音楽家、図書館員など多彩な面々。
そんなある日、教授はあるとき聴講生の一人がポオ直筆の詩「ユーラルーム」の完成稿の写しを偶然発見したことを知り、大学で買い取らせることにする。ところが写しが偽物ではないかという噂が流れたばかりか、それが盗難にあい、さらには殺人事件まで発生し……。

大学を舞台にした連続殺人で、趣向はすこぶる魅力的だ。ただの連続殺人ではない。なんとポオの作品をネタにした見立て殺人である。「アモン・ティラードの酒樽」、「マリー・ロジェの謎」、「モルグ街の殺人」……という具合で、これにポオの手稿の盗難事件も絡めてくるあたり、興味をつないでいくテクニックはなかなか上手いものだ。
もちろんポオの諸作品を読んでいるとより楽しめることは確かだが、基本的には見立て殺人と認識することが重要なので、必ずしも各作品をすべて読んでいる必要はない。ポオというモチーフを使ってはいるが文学的アプローチのようなものではなく、あくまで演出のための材料という感じである。ポオの手稿が本物かどうかというネタにしても、けっこう軽い処理だったりするし、そこは逆にちょっと残念なところでもある。
こういったアプローチのライトさは他の点でも同様である。ミステリとしても本格とはいえガチガチのロジカルなものではないし、連続殺人を扱う割には語り口も全然シリアスではなく極めてライト。ひと昔前のアメリカの青春映画のようなノリといえばわかりやすいか。
要はかなりライトな通俗ミステリなのである。これは別にけなしているのではなく、そういった意味ではまさしく貸本小説の王道だし、過度な期待さえしなければ、充分に楽しめる一冊といえるだろう。
論創海外ミステリではすでにもう一冊、著者の本が出ているので、こちらも近いうちに。
本作が本邦初紹介となるアメリア・レイノルズ・ロングだが、本格黄金期のちょい後ぐらいにデビューした本格ミステリの書き手である。もちろん読むのは初めてになるのだが、面白いのは解説に書かれた「貸本系アメリカンB級ミステリの女王」というキーワード。
日本でも1950年代(昭和三十年前後)に貸本文化が栄えた時代があり、それ専門で活躍する作家も少なくなかったのだが、なんと英米でも1930〜40年代にかけて貸本が流行し、同様に貸本中心で活躍する作家がいたらしい。当時、英米の貸本小説で流行っていたミステリは、連続殺人やオカルト趣味、猟奇殺人などセンセーショナルなものが中心だったようで、このあたりはけっこう日本とも共通するところがあるかもしれない。
まあ、そんな業界事情の中、人気を誇っていたのがアメリア・レイノルズ・ロングであり、本作もまた不気味な連続殺人を扱う内容となっている。
こんな話。フィラデルフィア大学大学院でエドガー・アラン・ポオをテーマにした文学セミナーが行われることになった。ポオの研究者として名高いルアク教授のもと、聴講生として集まったのは現役院生ばかりでなく、ミステリ作家や教師、音楽家、図書館員など多彩な面々。
そんなある日、教授はあるとき聴講生の一人がポオ直筆の詩「ユーラルーム」の完成稿の写しを偶然発見したことを知り、大学で買い取らせることにする。ところが写しが偽物ではないかという噂が流れたばかりか、それが盗難にあい、さらには殺人事件まで発生し……。

大学を舞台にした連続殺人で、趣向はすこぶる魅力的だ。ただの連続殺人ではない。なんとポオの作品をネタにした見立て殺人である。「アモン・ティラードの酒樽」、「マリー・ロジェの謎」、「モルグ街の殺人」……という具合で、これにポオの手稿の盗難事件も絡めてくるあたり、興味をつないでいくテクニックはなかなか上手いものだ。
もちろんポオの諸作品を読んでいるとより楽しめることは確かだが、基本的には見立て殺人と認識することが重要なので、必ずしも各作品をすべて読んでいる必要はない。ポオというモチーフを使ってはいるが文学的アプローチのようなものではなく、あくまで演出のための材料という感じである。ポオの手稿が本物かどうかというネタにしても、けっこう軽い処理だったりするし、そこは逆にちょっと残念なところでもある。
こういったアプローチのライトさは他の点でも同様である。ミステリとしても本格とはいえガチガチのロジカルなものではないし、連続殺人を扱う割には語り口も全然シリアスではなく極めてライト。ひと昔前のアメリカの青春映画のようなノリといえばわかりやすいか。
要はかなりライトな通俗ミステリなのである。これは別にけなしているのではなく、そういった意味ではまさしく貸本小説の王道だし、過度な期待さえしなければ、充分に楽しめる一冊といえるだろう。
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