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 湘南探偵倶楽部さんから復刻された木々高太郎の『スペクトルD線』を読む。
 戦後間もない頃に二葉書店から刊行されていた少年少女向け雑誌『小学五年』(後半は『小学六年』)に六ヶ月にわたって連載されていたジュヴナイルである。六回分の連載とはいえ、児童誌ゆえたいした分量ではなく、全体では短めの中編といったところだ。

 スペクトルD線

 こんな話。弁護士の龍岡氏は夫人に娘の雪子、そして祖母と暮らす四人家族。ある日、夫人が雪子を連れて出かけたときのこと。夫人がちょっと目を離したすきに、雪子は川へ落ちてしまう。その危機を救ったのがたまたま川岸にいた少年、和泉朝吉だった。身寄りのない浮浪者同然の朝吉だったが、龍岡氏は感謝の念と朝吉の境遇に同情し、彼を引き取って育てることにする。
 その後、朝吉も立派な若者に成長し、雪子も結婚して可愛い娘が生まれたのだが、ある日、かつての悲劇が繰り返されようとしていた……。

 とまあ、粗筋など紹介してみたものの、実はそこまで大層な話ではない。一応は科学知識を活かしたミステリ的要素はあるけれども、まさかここまで事件性が少ないとは予想外であった。タイトルのインパクトがそこそこあるので、けっこう破天荒な話を期待していたのだが。

 ただ、気になって少し調べてみると、なんとなくその理由も納得できた。
 本作が連載されたのは昭和二十一から二十二年にかけてなのだが、この頃の出版界にはときならぬ児童誌のブームがあったという。日本の将来を、延いては平和と民主主義を、未来の子供たちに託そうというムーヴメントがあったからだ。そういった旗印を大々的に掲げる出版社も多く、必然的にその中身がすこぶる前向き&健全になっていったのは当然といえる。
 また、当時、出版に対してはGHQの統制があったのだが、そのなかで比較的スムーズに認可をとれるものが、やはり健全な内容のものに限られていたという側面もあったらしい。
 それらの状況が重なった結果、戦前に人気のあった少年探偵団のような刺激の強いものはまだ時期尚早であり、本作のような内容に落ち着いていったのかもしれない。
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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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