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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


楠田匡介『都会の怪獣』(湘南探偵倶楽部)

 湘南探偵倶楽部さんが復刻した楠田匡介の『都会の怪獣』を読む。小学館の学習雑誌『小学六年生』 で昭和二十七年四月号~二十八年三月号にかけて連載された探偵小説である。

 こんな話。ニューヨークへ赴任することになった外交官の石井氏が、家族とともに東京駅を発とうとしていたときのこと。石井氏の娘、由子が発車寸前の列車から消失するという事件が起こる。さっそく田名見警部を筆頭に警察も駆けつけ、由子の捜索が始まったが、あとにはなぜか首吊り死体を模した人形が見つかるだけであった。
 そんななか、由子の捜索に協力した良夫少年は列車内でダイヤらしきものを発見する。しかし、それも帰宅中になぜか消え失せ、しかも家には「石を捨てろ」という脅迫文が届き、さらには「自分は殺される」という助けを求める電話がかかってくる。果たして何が起ころうとしているのか……。

 都会の怪獣

 ううむ、これは何というか、とにかく荒っぽい(笑)。とにかくストーリーが乱雑すぎて、本当に途中まで何が起こっているのかよくわからないのである。
 子供向けの連載という性質上、次号に興味を繋げるよう意識しているのはわかるが、肝心のストーリーが繋がっていない。それでも当時の子供たちはわからないなりに楽しんだとは思うのだが、正直ここまでとっ散らかったストーリーは当時としても珍しいのではないか。そのくせ犯人だけはけっこうわかりやすいという(苦笑)。
 連載とはいえボリューム的には中編レベルなので、プロットをそれほど練らず、けっこうぶっつけで書いた可能性もあるかも。

 ただ、こういうものも含めて読まないと、それこそ当時の子供向け探偵小説の実像はわからないわけで、復刊自体は今後もどんどん続いてくれるとありがたい。
 本作でも見どころというほどではないかもしれないが、登場人物の「田名見警部」が大人向けのシリーズ探偵「田名網警部」と同一人物なのか気になるところだし、序盤の少女消失トリックなどは著者らしいといえば著者らしいネタである。また、「怪獣」の扱いが意外とストレートなのもちょっと驚きであった。

 湘南探偵倶楽部さんの復刻した楠田匡介の子供向け探偵小説はもう一冊、『深夜の鐘』があるが、どうやらこちらも良夫少年のシリーズ作のようだし、今からドキドキであるな(笑)。
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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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