- Date: Sat 22 06 2019
- Category: 国内作家 森下雨村
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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森下雨村『チャリンコの冒険』(湘南探偵倶楽部)
湘南探偵倶楽部さんが古い少年少女向け探偵小説を精力的に復刻してくれるので、こちらも引っ張られるように読んでしまう。本日の読了本は森下雨村の『チャリンコの冒険』。「少年クラブ」で昭和25年10月号、11月号に連載されたものである。
こんな話。警視庁の丸山警部がふらりと日本橋へ出かけたときのこと。最近その姿を見せなかった腕利きのスリ・銀公を見かけ、現行犯で捕まえようと、その後を尾けることにした。ところが銀公は途中で金魚を買ったぐらいで、なかなか怪しいそぶりを見せない。
そこへ新たな人物が現れた。そのすばしこさから仲間内ではリスの林ちゃんと呼ばれるチャリンコ(少年スリ)の山名林二だ。二年前に丸山警部の世話になった林ちゃんは、当時、十二歳にも満たないながら、義賊をめざすと発言して丸山警部を驚かせたものだった。その林ちゃんがなぜか銀公の後を尾け始める。いったい二人は何を企んでいるのか? 丸山警部もさらに二人の後を追うと……。

月刊誌で二回にわたって連載されたものだが、お話はほぼ独立しており、いわば連作短編二作分といったところである(本書では第一部、第二部という章立てをしているので、以後、この表記で)。
第一部は上で書いたように、奇妙な追跡劇で幕を開けるのだが、物語はその後、宝石店での盗難事件へと発展する。ストーリーに意外性があって面白いし、盗難でのトリックもあるなど、子供向けとしてはかなりグレードが高い。
何より主人公がまだ少年探偵ではなく、チャリンコ(少年スリ)として登場するのがよい。この作品で主人公は改悛し(というほどでもないが)、第二部では晴れて少年探偵として登場する。今読めばお約束という感じだが、当時の読者は喝采を送ったのだろうなぁと嬉しくなる展開である。
第二部でも同じ宝石店での盗難事件だが、主人公が元スリということで、刺激的な殺人事件などを避け、盗みのテクニックで見せていこうという狙いも悪くない。
ということで個人的にはけっこう楽しめたのだが、それだけにこの二回で連載が終わっているのが残念な限りである。
雨村は戦時中に一線を退いて地元・土佐へ戻っている。戦後も執筆は行なっていたが、これはあくまで生活費稼ぎの意味合いが強かったらしいので、やはり書くことへの執着が薄れていたのか。それともこの前年に海野十三が亡くなったこともあり、もう自分たちの時代ではないという思いもあったのだろうか。
作品の内容は清々しいが、書かれた時代や背景に思いを馳せると、いろいろ考えさせられる一冊でもあった。
こんな話。警視庁の丸山警部がふらりと日本橋へ出かけたときのこと。最近その姿を見せなかった腕利きのスリ・銀公を見かけ、現行犯で捕まえようと、その後を尾けることにした。ところが銀公は途中で金魚を買ったぐらいで、なかなか怪しいそぶりを見せない。
そこへ新たな人物が現れた。そのすばしこさから仲間内ではリスの林ちゃんと呼ばれるチャリンコ(少年スリ)の山名林二だ。二年前に丸山警部の世話になった林ちゃんは、当時、十二歳にも満たないながら、義賊をめざすと発言して丸山警部を驚かせたものだった。その林ちゃんがなぜか銀公の後を尾け始める。いったい二人は何を企んでいるのか? 丸山警部もさらに二人の後を追うと……。

月刊誌で二回にわたって連載されたものだが、お話はほぼ独立しており、いわば連作短編二作分といったところである(本書では第一部、第二部という章立てをしているので、以後、この表記で)。
第一部は上で書いたように、奇妙な追跡劇で幕を開けるのだが、物語はその後、宝石店での盗難事件へと発展する。ストーリーに意外性があって面白いし、盗難でのトリックもあるなど、子供向けとしてはかなりグレードが高い。
何より主人公がまだ少年探偵ではなく、チャリンコ(少年スリ)として登場するのがよい。この作品で主人公は改悛し(というほどでもないが)、第二部では晴れて少年探偵として登場する。今読めばお約束という感じだが、当時の読者は喝采を送ったのだろうなぁと嬉しくなる展開である。
第二部でも同じ宝石店での盗難事件だが、主人公が元スリということで、刺激的な殺人事件などを避け、盗みのテクニックで見せていこうという狙いも悪くない。
ということで個人的にはけっこう楽しめたのだが、それだけにこの二回で連載が終わっているのが残念な限りである。
雨村は戦時中に一線を退いて地元・土佐へ戻っている。戦後も執筆は行なっていたが、これはあくまで生活費稼ぎの意味合いが強かったらしいので、やはり書くことへの執着が薄れていたのか。それともこの前年に海野十三が亡くなったこともあり、もう自分たちの時代ではないという思いもあったのだろうか。
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