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パット・マガー『不条理な殺人』(創元推理文庫)
本日の読了本はパット・マガーの『不条理な殺人』。昨年の十一月に創元推理文庫から出た作品だが、パット・マガーの作品が紹介されるのはかなり久しぶりだ。
まずはストーリー。人気俳優として知られるマーク・ケンダルとサヴァンナ・ドレイクの夫妻。マークはあるとき、義理の息子ケニーの書いた脚本が上演させることを知るが、その題名を知って動揺する。それはケニーの実父レックスが死んだ事故を暗示しているかのような題名だったからだ。
マークはケニーの狙いが何なのか、そもそも狙いがあるのかを調査するため、サヴァンナの反対を押し切ってその芝居に出演することにするが……。

パット・マガーの代表作といえば、なんといっても『探偵を探せ!』だろう。夫を殺害した妻が四人の来客のなかから探偵を探すという趣向が秀逸な作品だが、ほかにも新聞記事と証言から被害者を突き止めるという『被害者を探せ!』、豪華客船で起きた犯罪の目撃者を探すという『目撃者を捜せ!』など、ミステリファンが思わず身を乗り出すような魅力的な設定の作品で知られている。
ただ、実際に読んでみると、本格ミステリとしてそこまでトリッキーなものではなく、趣向としては面白いけれど、意外に根っこは普通のサスペンスで終わることもしばしば。そういう意味では日本での紹介のされ方が、評価の上ではやや逆効果になってしまったかという印象はある。
本作もかなり特殊な作品である。過去に起こった事件の真相という部分を曖昧にしながら、現代での事件を描くわけだが、実はこの“現代の事件”がほぼ終盤まで起こらない。そして事件発生とほぼ同時に、過去の事件の真相も明らかになるという寸法。
事件までの助走が長いこともあって、やはり本格というよりはサスペンス重視、いや、もっといえばミステリよりもヒューマンドラマに重きが置かれている節もある。そういった意味では、純粋なミステリを望む人には少々かったるい作品かも知れない。
だからといって本作がつまらないわけではない。大スターとの共演に複雑な思いをする売れない役者たちの心情、これまで経験してこなかった不条理劇に対するマークの戸惑い、マークの心情を理解していないサヴァンナの言動など、さまざまな要素によってじわじわと緊張感を高める展開はさすがのひとこと。
そして高まる緊張感によってラストで引き起こされる悲劇、明らかになる過去の事件の真相。著者の目線は決して冷たいわけではないけれど、その読後感は多分にアイロニーを含んでおり、「あれ、パット・マガーってこんな見方をする人だっけ?」という発見があって面白い。
彼女の未訳作品はまだ数作残っているので、できればもう少し紹介が続いてほしいものだ。
まずはストーリー。人気俳優として知られるマーク・ケンダルとサヴァンナ・ドレイクの夫妻。マークはあるとき、義理の息子ケニーの書いた脚本が上演させることを知るが、その題名を知って動揺する。それはケニーの実父レックスが死んだ事故を暗示しているかのような題名だったからだ。
マークはケニーの狙いが何なのか、そもそも狙いがあるのかを調査するため、サヴァンナの反対を押し切ってその芝居に出演することにするが……。

パット・マガーの代表作といえば、なんといっても『探偵を探せ!』だろう。夫を殺害した妻が四人の来客のなかから探偵を探すという趣向が秀逸な作品だが、ほかにも新聞記事と証言から被害者を突き止めるという『被害者を探せ!』、豪華客船で起きた犯罪の目撃者を探すという『目撃者を捜せ!』など、ミステリファンが思わず身を乗り出すような魅力的な設定の作品で知られている。
ただ、実際に読んでみると、本格ミステリとしてそこまでトリッキーなものではなく、趣向としては面白いけれど、意外に根っこは普通のサスペンスで終わることもしばしば。そういう意味では日本での紹介のされ方が、評価の上ではやや逆効果になってしまったかという印象はある。
本作もかなり特殊な作品である。過去に起こった事件の真相という部分を曖昧にしながら、現代での事件を描くわけだが、実はこの“現代の事件”がほぼ終盤まで起こらない。そして事件発生とほぼ同時に、過去の事件の真相も明らかになるという寸法。
事件までの助走が長いこともあって、やはり本格というよりはサスペンス重視、いや、もっといえばミステリよりもヒューマンドラマに重きが置かれている節もある。そういった意味では、純粋なミステリを望む人には少々かったるい作品かも知れない。
だからといって本作がつまらないわけではない。大スターとの共演に複雑な思いをする売れない役者たちの心情、これまで経験してこなかった不条理劇に対するマークの戸惑い、マークの心情を理解していないサヴァンナの言動など、さまざまな要素によってじわじわと緊張感を高める展開はさすがのひとこと。
そして高まる緊張感によってラストで引き起こされる悲劇、明らかになる過去の事件の真相。著者の目線は決して冷たいわけではないけれど、その読後感は多分にアイロニーを含んでおり、「あれ、パット・マガーってこんな見方をする人だっけ?」という発見があって面白い。
彼女の未訳作品はまだ数作残っているので、できればもう少し紹介が続いてほしいものだ。
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