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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

江戸川乱歩/編『世界推理短編傑作集3』(創元推理文庫)

 リニューアルされた創元推理文庫の『世界推理短編傑作集3』を読む。江戸川乱歩の選んだベスト短編をもとに編まれたアンソロジーで、今回のリニューアルではより初期の方針、すなわち発表された順番に収録するという点に主眼が置かれている。

 世界推理短編傑作集3

イーデン・フィルポッツ「三死人」
パーシヴァル・ワイルド「堕天使の冒険」
アガサ・クリスティ「夜鶯荘」
E・ジェプスン&R・ユーステス「茶の葉」
アントニー・ウィン「キプロスの蜂」
C・B・ベックホファー・ロバーツ「イギリス製濾過器」
アーネスト・ヘミングウェイ「殺人者」
G・D・H&M・I・コール「窓のふくろう」
ベン・レイ・レドマン「完全犯罪」
アントニイ・バークリー「偶然の審判」

 収録作は以上。いつものように旧版からの変更点を挙げると、まずは旧版の3巻にあったロナルド・A・ノックス「密室の行者」、ロード・ダンセイニ「二壜のソース」がともに4巻へ、同じく旧版3巻のマージェリー・アリンガム「ボーダー・ライン事件」は5巻へ収録されることになった。
 反対に旧版2巻にあったG・D・H&M・I・コール「窓のふくろう」、旧版4巻のイーデン・フィルポッツ「三死人」、同じく4巻のアーネスト・ヘミングウェイ「殺人者」が本書に収録された。また、移動がない作品でも、厳密な発表順に合わせているため、収録順はかなり異なっている。

 本書に収められた作品は1920年代ということで、もう傑作目白押し。いや、どの巻も傑作目白押しなのだけれど、さすがにこの時代になってくると、ミステリというジャンルが一気に進化した感がある。古典的ではあるけれど完成度の高いもの、ミステリの結構を備えつつ新たな地平を開くものなど、どれも実に楽しく興味深い。管理人が旧版で初めて読んだのは中学生の頃だが、そりゃあ感動するわな(笑)。
 
 以下、作品ごとにミニコメ。
 冒頭の「三死人」は、西インド諸島のある島の農場で起こった殺人事件を扱う。タイトルどおり三人の死体にまつわる物語で、事件の根本にあるものを心理的に洞察するという、いかにもフィルポッツらしい作品。設定がシンプルすぎるため今読むと真相はかなり予想しやすいものの、試みは面白く、当時としては尖った作品といえるだろう。

 「堕天使の冒険」はカードクラブのイカサマ事件を描く作品。真相もさることながら、何よりイカサマのテクニックが実に面白い。単純な手口だけれど、この手をアレンジした作品はけっこう多く、それだけ魅力的なアイデアということだろう。

 「夜鶯荘」はクリスティらしいサスペンスとサプライズが効いた一品。慕う人がいながら、別の男性と結婚した新婦。だが実は夫が殺人犯ではないかという疑惑が生まれ……という王道の展開。トリックに頼らないところがまたよい。

 「茶の葉」は古典中の古典。サウナの中で起こった刺殺事件で、作品は知らなくともトリックを知らないミステリファンはいないだろうというくらい有名なネタを用いている。「茶の葉」というタイトルも効いているし、法廷ものというスタイルも悪くない。

 こちらも有名トリックで知られる「キプロスの蜂」だが、こちらは当時としては刺激的なネタだったのだろうが、その他の部分が弱く、本書中では一枚落ちる。

 助手の研究成果を自分のものにした教授が、大学の自室で毒殺されるのが「イギリス製濾過器」。設定から犯人のあたりはつけやすいが、正直、トリックもいまひとつ。これも劣化が激しい一作といえるが、お話自体は面白く読める。

 ヘミングウェイの「殺人者」はハードボイルドの元祖とか、プロの殺し屋のイメージを確立させた作品とも言われている。読者には全貌がわからないある事件の一瞬だけを切り取ってみせるというスタイル、殺し屋二人が醸し出す独特の緊張感、運命を受け入れるしかない者たち、それぞれの要素が相まって強烈な余韻を残す。

 「窓のふくろう」はトリック云々というより、タイトルに絡んだある事実が読みどころ。本格というよりは奇妙な味のタイプで好みの一作。

 ベン・レイ・レドマンの「完全犯罪」は、己の探偵としての力に絶対な自信をもつ傲慢な名探偵トレヴァーの物語。あるとき彼は友人の弁護士ヘアーに完全犯罪の定義を解き、某事件の推理を披露するも、逆にに論破されてしまう……。終盤の捻りがマニア向けの一作。

 トリを飾る「偶然の審判」は傑作揃いの本書中でもピカイチ。シェリンガムの推理の展開が非常に面白く、それでいてベースになるのは「偶然」というキーワード。ご存知『毒入りチョコレート事件』の原型となった作品だが、もうこれだけでも十分に堪能できる。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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