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 本日の読了本は久々にアートブック。といっても大がかりなものではなく、河出書房新社から〈らんぷの本〉の一冊として刊行されている手軽なタイプだ。ただし、中身の方は手軽どころか、極めて濃いめであり、けっこうな毒気に当てられてしまった。
 ものは『魔性の女 挿絵集』。管理人が買ったのは元版ではなく、今年出た新装版である。カバー絵が変わったほか、旧版の岩田専太郎が月岡夕美に差し替えられているようだ。

 魔性の女挿絵集

 ところで、この本の元になっているのが、2013年に東京の弥生美術館で開催された「魔性の女 挿絵(イラストレーション)展」である。編著者も弥生美術館の学芸員の方だ。内容ももちろんその展示物を紹介したものになるのだが、おそらくは当時、図録的に発刊されたものと思われる。
 ちなみに出版社が美術展などに便乗して本を出すのはよくあることだが、当の美術館スタッフが図録としてではなく、普通の商業本として本を出すのはけっこう珍しい。この手を使うのは管理人が知っているかぎり弥生美術館だけなのだけれど、ここは出版社とけっこうなパイプがあるのか、それとも売り込みが上手いやり手の営業マンがいるのか、気になるところである。

 まあ、それはともかく。
 本編の話をすると、明治から昭和初期の文学や雑誌を彩った挿絵の数々。その中から「魔性の女」にスポットを当てたのが本書である。

 いつの時代に合っても、“魔性の女”は独特の魅力をもっているけれど、この時代に描かれる“魔性の女”は格別だ。昭和初期はエログロナンセンスの時代とも呼ばれるが、それが戦争や震災からの復興や景気回復、そして明治以後に押し寄せた西欧文化の影響もあることは間違いないところ。
 都市は再び繁栄し、人々の生活は安定する。その結果、日本人はようやく人間の内面に目を向ける余裕が生まれ、心のなかに潜む悪意や狂気、エロティシズムを表現するようになったのだ。

 たとえば泉鏡花「高野聖」の女、たとえば谷崎潤一郎「痴人の愛」のナオミ、さらには九尾の狐が化身した玉藻の前といった人外に至るまで、その妖艶な姿の数々を本書で味わうことができる。
 画家としては橘小夢、水島爾保布、河野通勢、小村雪岱、名越國三郎、竹中英太郎、蕗谷虹児、高畠華宵、山六郎、林唯一、月岡夕美、内藤良治といったところが採られ、ボリューム的にも圧巻。
 ついでにいえば戦前の探偵小説好きには、やはり乱歩の『黒蜥蜴』や横溝正史の『鬼火』が見逃せないところだろう。乱歩なら個人的には「お勢登場」のお勢いも見てみたかったところである。

 唯一残念だったのは、2013年に行われたこの展示会を見逃したことだ。いずれそういう機会を来ることを望みつつ、本日はこの辺で。

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テーマ:評論集 - ジャンル:本・雑誌




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