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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジャック・フットレル『思考機械【完全版】第1巻』(作品社)

 本日の読了本はジャック・フットレルの『思考機械【完全版】第1巻』。もっと早く読みたかったが、なんせ凶悪なほどの厚さとサイズ。電車通勤の身には、どうしても普段は重くて持ち歩けない本なので、この年末年始の休みは絶好の読了機会である。なんせこの時期を逃すと、次に読める機会はゴールデンウィークになるのでもう必死に読み終える。

 思考機械【完全版】第1巻

 本書はジャック・フットレルが生んだ名探偵・思考機械ことオーガスタス・S・F・X・ヴァン・デューセン教授の登場する作品を全2巻にまとめたうちの第1巻。単行本未収録作を含め、思考機械シリーズ作品がこの二冊ですべて読めるだけでも十分素晴らしいが、なんと雑誌初出時と単行本収録時の異動や英米版の差異も注釈でフォロー、雑誌の挿絵も豊富に入っているなど、恐ろしいほどの念の入りようである。
 思考機械の短編集といえば、これまでは創元推理文庫『思考機械の事件簿』全3巻が定番だったが、もう本書以上のものは出せないだろう。
 これらはすべて訳者である平山雄一氏の研究の成果だが、この方、基本はシャーロキアンのはずだが、同じ作品社の『隅の老人【完全版】』をはじめとして他にも多くのクラシックミステリを翻訳するほか、自身のヒラヤマ探偵文庫という叢書も手がけ、おまけに明智小五郎にも造詣が深い。ちゃんとした本業があるのに、よくこんなにいろいろできるものだなぁといつも感心している次第。

The Problem of Cell 13「十三号独房の問題」
The Ralston Bank Burglary「ラルストン銀行強盗事件」
The Flaming Phantom「燃え上がる幽霊」
The Great Auto Mystery「大型自動車の謎」
Kidnapped Baby Blake, Millionare「百万長者の赤ん坊ブレークちゃん、誘拐される」
The Mystery of a Studio「アトリエの謎」
The Scarlet Thread「赤い糸」
The Man Who was Lost「「記憶を失った男」の奇妙な事件」
The Golden Dagger「黄金の短剣の謎」
The Fatal Cipher「命にかかわる暗号」
The Grip of Death「絞殺」
The Thinking Machine「思考機械」
Dressing Room A「楽屋「A」号室」
The Chase of the Golden Plate「黄金の皿を追って」
Problem of the Motor Boat「モーターボート」
A Piece of String「紐切れ」
The Crystal Gazer「水晶占い師」
The Roswell Tiara「ロズウェル家のティアラ」
The Lost Radium「行方不明のラジウム」

 収録作は以上。
 比べるのも何だが、『隅の老人【完全版】』よりも満足度は高い。思考機械のほうがミステリとしての結構がしっかりしている印象であり、ストーリーも動きがあって面白い。もちろん、書かれた時代ゆえ傑作揃いというわけにはいかないが、いわゆる「ツカミはOK」なのですぐに物語に引きこまれる。隅の老人は語りでストーリーが進むので、その点がちょっと物足りないのである。
 ただ、隅の老人のためにフォローもしておくと(笑)、キャラクターの立ち方ではミステリアスな魅力で隅の老人に軍配をあげたい。思考機械もキャラクターは十分立っているが、エキセントリックな天才型探偵は割とすぐに思いつく設定で、このあたりは歴史小説も多く書いたオルツィの上手さが出ているのかも。
 まあ、この辺はあくまで個人的な意見なので、あまり気にしないでほしいけれど(苦笑)。

 ということで何とか年内に第1巻が読めてひと安心。続けて第2巻はさすがに飽きてくるので、これはそれこそゴールデンウィークかな。


Comments
 
ポール・ブリッツさん

フォーチュン氏は当時はすごく人気があったようで、本もすごく出てますよね。いかんせん、他の探偵に比べると地味すぎるのか、紹介が進まなかったですね。
さすがに全作品は無理でしょうが、出るならもちろん買います読みます(笑)。

アブナー伯父は物語の時代設定が違うので、あまりライヴァルという感じで読めないのが玉に瑕です。でもアメリカミステリ史の中では、確かに思考機械以上に重要かもしれません。
 
そうなってくるとまったく全貌が明らかになっていないくせに傑作だ傑作だといわれているベイリーの「レジー・フォーチュン氏」が非常に気になるところですなあ。

時代的にもソーンダイクのライバルと言って過言ではないでしょうし。

誰からも「晩年のほうが面白い」といわれるシリーズで、まともに訳されているのが第一短編集だけ、ってのは日本のミステリとしてどうか、と(^^;)

フットレルのライバルは、「アブナ―伯父」のポーストじゃないかな。これで「くくく、あの○○はシャーロック・ホームズのライバルたち四天王の中では最弱の小物」とかできるぞ!(笑)
 
ポール・ブリッツさん

持ち歩きましたか。私にはその気力と体力はありませんでした(笑)。
それはともかく、ホームズのライヴァルのなかでは思考機械はソーンダイクと並んで頭一つ抜けている感じで、やはり楽しめますね。
もちろん他の作家も傑作はひとつふたつ書いていますし、フットレルの作品にも重大なアラもあったりするんですが、この両者はアベレージが高い印象です。
年の瀬にいい本が読めて満足です。
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会社に毎回持っていって休み時間を潰しながら事実上上下巻を一気読みした男(^^;A

去年のミステリは質量ともにこの上下巻だけでほんと満足でした。

エキセントリックな天才型探偵は思いつきやすいせいかけっこういますが、でも、当時ここまで突き詰めたというのはフットレルえらい(笑)

論理にのみ従う捜査法が、いつも「予想外の事態」にぶち当たって、期せずして「仮説のクラッシュアンドビルド」になっているのも怪我の功名というか好印象ですね。

いろいろと感想はありますが、それは拙ブログの「挑戦記」の「思考機械の事件簿」の回の時に書きたいと思いますので、しばしお待ちを(っていつやねん(笑))

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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