- Date: Tue 31 12 2019
- Category: 極私的ベストテン 2019
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
- Response: Comment 18 Trackback 0
極私的ベストテン2019
早くも大晦日である。相変わらず一年が光速のごとく過ぎ去り、若い頃ならそれが楽しくもあるのだが、まあ、この年になると、あそこが痛いここが痛いと年がら年中体調も悪く、おまけに老眼も進んで、就寝前の読書がなかなか捗らず、つくづく年はとりたくないと思う今日この頃である。
まあ、そんなことはどうでもよい。「探偵小説三昧」の大晦日といえば「極私的ベストテン」の発表である。
今年の読書傾向は、ここ数年進めている昭和の推理作家のさらなる消化。今年は特に泡坂妻夫を攻めてみたが、再読もけっこうあったのだけれど、いや、あらためて泡坂作品の楽しさを痛感した。もう万人に自信をもっておすすめできる超優良作家である(何をいまさら)。
もうひとつは同人系の復刻本や評論をかなり読んだことか。マニアックすぎて商業出版では成立しない企画が多く、それがことごとく管理人のツボを突いてくるものだから、今年はかなり読んでいるはず。どうしても製本上や校正といった部分で厳しいところはあるけれど、その熱量と内容の濃さは出版社顔負けであった。
さあ、それでは「極私的ベストテン」。
管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選んだ結果がこちら。
1位 フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』(東京創元社)
2位 ロス・マクドナルド『ウィチャリー家の女』(ハヤカワ文庫)
3位 陸秋槎『元年春之祭』(ハヤカワミステリ)
4位 ジャック・フットレル『思考機械【完全版】第1巻』(作品社)
5位 泡坂妻夫『花嫁のさけび』(河出文庫)
6位 アンソニー・ホロヴィッツ『メインテーマは殺人』(創元推理文庫)
7位 山尾悠子『歪み真珠』(ちくま文庫)
8位 夏樹静子『77便に何が起きたか』(中公文庫)
9位 陳浩基『ディオゲネス変奏曲』(ハヤカワミステリ)
10位 アーナルデュル・インドリダソン『厳寒の町』(東京創元社)
今年は評判になった新作も比較的読んだせいか、かなりセレクトに苦労した。その中で1位に推したのは
フェルディナント・フォン・シーラッハの『刑罰』。最近は長編が多かったが、この人、やっぱり短編のほうが圧倒的によい。久々に『犯罪』の興奮が蘇った。
2位はぼちぼち全作読破を進めているロスマクから『ウィチャリー家の女』。『ギャルトン事件』や『ファーガスン事件』もよかったが、やはり後期ロスマクのほぼ完成形であり、ハードボイルドとか関係なくもっと読まれてほしい一冊だ。
3位は単なる中国を舞台にしたミステリではなく、中国の歴史や設定を極限まで生かした傑作。やや好き嫌いは出るだろうが、ミステリとしてのレベルは尋常ではない。
読みたてほやほやの『思考機械【完全版】第1巻』は4位で。内容というよりも本の企画、解説、造本など含めて素晴らしかった。
5位は泡坂枠で。もちろん『乱れからくり』や『11枚のトランプ』、『亜愛一郎の狼狽』、『湖底のまつり』、『迷蝶の島』という選択肢もあって、「正直、全部ベストテン入れたろか」とも思ったが、さすがにそれは自制。知名度的には落ちるがアイディアが面白い『花嫁のさけび』をあえてチョイス。
話題のホロヴィッツは今年もベストテンを席巻した。個人的には『カササギ殺人事件』よりもこっちが好み。まあ、探偵小説三昧での順位は下がったけれど、これは今年の方がレベルが高かったということだろう。
幻想小説もいくつか読んだが、『歪み真珠』はイメージの豊かさに感動する。しかも文章の美しいこと。論理が決着をつける小説を多く読んでいると、たまに読む幻想小説の感動がより大きくなるのはミステリ読みの特権といえるのではないだろうか。
8位は夏樹静子の短編集。全体的に楽しめるが、なかでも表題作のインパクトは絶大で、これは必読レベル。
9位も短編集だが、けっこう収録作にムラはあるものの、単純に楽しめる作品が多くて満足。『13・67』の印象しかなかったので、こういうものも書いていたのかという新鮮さもあり。
北欧ミステリはそれほど読んでいないが、このシリーズは好み。もっと上位にあげたいのだが、ミステリとしての弱さがちょっと響いてこの位置で。
以上が「探偵小説三昧」の「極私的ベストテン2019」。
なお、再読&メジャーすぎる作品なのであえてベストテンから外したものとして、
坂口安吾『不連続殺人事件』
結城昌治『ゴメスの名はゴメス』がある。
こちらは当ブログのベストテン関係なく必読作品なのでよろしく。
その他、先にあげた泡坂作品やロスマク作品以外でランクインさせたかったものは以下のあたり。これらはお好みでどうぞ。
ケイト・モートン『忘れられた花園(上・下)』
ジョン・ロード『クラヴァートンの謎』
ドット・ハチソン『蝶のいた庭』
R・オースティン・フリーマン『キャッツ・アイ』
河野典生『陽光の下、若者は死ぬ』、
ジョルジュ・シムノン『ブーベ氏の埋葬』
ローレンス・ブロック『泥棒はスプーンを数える』
スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』
また同人系では、以下の三作。
森脇晃、森咲郭公鳥、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』
kazuou『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』
さかえたかし『赤川次郎アーリーデイズvol.1』
マニアックなものからガイド的なものまで様々なアプローチ。三者三様だが、どれも楽しめた。
また、抄訳ながら復刻版のルーファス・キング『深海の殺人』は悪くない。これはぜひ論創社あたりから完訳で出してもらえると嬉しい一冊である。
ということで今年の「探偵小説三昧」の更新はこれにて終了。
本年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
まあ、そんなことはどうでもよい。「探偵小説三昧」の大晦日といえば「極私的ベストテン」の発表である。
今年の読書傾向は、ここ数年進めている昭和の推理作家のさらなる消化。今年は特に泡坂妻夫を攻めてみたが、再読もけっこうあったのだけれど、いや、あらためて泡坂作品の楽しさを痛感した。もう万人に自信をもっておすすめできる超優良作家である(何をいまさら)。
もうひとつは同人系の復刻本や評論をかなり読んだことか。マニアックすぎて商業出版では成立しない企画が多く、それがことごとく管理人のツボを突いてくるものだから、今年はかなり読んでいるはず。どうしても製本上や校正といった部分で厳しいところはあるけれど、その熱量と内容の濃さは出版社顔負けであった。
さあ、それでは「極私的ベストテン」。
管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選んだ結果がこちら。
1位 フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』(東京創元社)
2位 ロス・マクドナルド『ウィチャリー家の女』(ハヤカワ文庫)
3位 陸秋槎『元年春之祭』(ハヤカワミステリ)
4位 ジャック・フットレル『思考機械【完全版】第1巻』(作品社)
5位 泡坂妻夫『花嫁のさけび』(河出文庫)
6位 アンソニー・ホロヴィッツ『メインテーマは殺人』(創元推理文庫)
7位 山尾悠子『歪み真珠』(ちくま文庫)
8位 夏樹静子『77便に何が起きたか』(中公文庫)
9位 陳浩基『ディオゲネス変奏曲』(ハヤカワミステリ)
10位 アーナルデュル・インドリダソン『厳寒の町』(東京創元社)
今年は評判になった新作も比較的読んだせいか、かなりセレクトに苦労した。その中で1位に推したのは
フェルディナント・フォン・シーラッハの『刑罰』。最近は長編が多かったが、この人、やっぱり短編のほうが圧倒的によい。久々に『犯罪』の興奮が蘇った。
2位はぼちぼち全作読破を進めているロスマクから『ウィチャリー家の女』。『ギャルトン事件』や『ファーガスン事件』もよかったが、やはり後期ロスマクのほぼ完成形であり、ハードボイルドとか関係なくもっと読まれてほしい一冊だ。
3位は単なる中国を舞台にしたミステリではなく、中国の歴史や設定を極限まで生かした傑作。やや好き嫌いは出るだろうが、ミステリとしてのレベルは尋常ではない。
読みたてほやほやの『思考機械【完全版】第1巻』は4位で。内容というよりも本の企画、解説、造本など含めて素晴らしかった。
5位は泡坂枠で。もちろん『乱れからくり』や『11枚のトランプ』、『亜愛一郎の狼狽』、『湖底のまつり』、『迷蝶の島』という選択肢もあって、「正直、全部ベストテン入れたろか」とも思ったが、さすがにそれは自制。知名度的には落ちるがアイディアが面白い『花嫁のさけび』をあえてチョイス。
話題のホロヴィッツは今年もベストテンを席巻した。個人的には『カササギ殺人事件』よりもこっちが好み。まあ、探偵小説三昧での順位は下がったけれど、これは今年の方がレベルが高かったということだろう。
幻想小説もいくつか読んだが、『歪み真珠』はイメージの豊かさに感動する。しかも文章の美しいこと。論理が決着をつける小説を多く読んでいると、たまに読む幻想小説の感動がより大きくなるのはミステリ読みの特権といえるのではないだろうか。
8位は夏樹静子の短編集。全体的に楽しめるが、なかでも表題作のインパクトは絶大で、これは必読レベル。
9位も短編集だが、けっこう収録作にムラはあるものの、単純に楽しめる作品が多くて満足。『13・67』の印象しかなかったので、こういうものも書いていたのかという新鮮さもあり。
北欧ミステリはそれほど読んでいないが、このシリーズは好み。もっと上位にあげたいのだが、ミステリとしての弱さがちょっと響いてこの位置で。
以上が「探偵小説三昧」の「極私的ベストテン2019」。
なお、再読&メジャーすぎる作品なのであえてベストテンから外したものとして、
坂口安吾『不連続殺人事件』
結城昌治『ゴメスの名はゴメス』がある。
こちらは当ブログのベストテン関係なく必読作品なのでよろしく。
その他、先にあげた泡坂作品やロスマク作品以外でランクインさせたかったものは以下のあたり。これらはお好みでどうぞ。
ケイト・モートン『忘れられた花園(上・下)』
ジョン・ロード『クラヴァートンの謎』
ドット・ハチソン『蝶のいた庭』
R・オースティン・フリーマン『キャッツ・アイ』
河野典生『陽光の下、若者は死ぬ』、
ジョルジュ・シムノン『ブーベ氏の埋葬』
ローレンス・ブロック『泥棒はスプーンを数える』
スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』
また同人系では、以下の三作。
森脇晃、森咲郭公鳥、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』
kazuou『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』
さかえたかし『赤川次郎アーリーデイズvol.1』
マニアックなものからガイド的なものまで様々なアプローチ。三者三様だが、どれも楽しめた。
また、抄訳ながら復刻版のルーファス・キング『深海の殺人』は悪くない。これはぜひ論創社あたりから完訳で出してもらえると嬉しい一冊である。
ということで今年の「探偵小説三昧」の更新はこれにて終了。
本年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
ん? ●原宰●●のことでしょうか(笑)