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 E・C・R・ロラックの『殺されたのは誰だ』を読む。一時期は創元推理文庫で紹介が続いていたが、どうやら売り上げが芳しくなかったようで三冊でストップし、その後、論創海外ミステリで一冊は出たけれど、またまた沈黙。そして久々に昨年出たのが本書であり、忘れられるギリギリで何とかつないでいる印象である。
 ちなみに本書の版元は自費出版で知られている会社なのだが、もしかすると本書も訳者の自費出版かなとも思ったり。ソフトカバーとはいえ、この手の翻訳ミステリが1200円というのはすごいことだし、まあ普通の出版社では無理な価格設定である。おそらく訳者が身銭を切って、クラシックミステリを紹介しようという熱意で出したのかなと想像するわけである(まあ、想像なので、間違っていたらごめんなさい)。
 クラシックミステリのファンとしては買って読んで感想を書くぐらいでしか応援できないが、もう少しロラックの人気も上がってほしいものだ。

 まずはストーリー。
 舞台は第二次世界大戦下のロンドン。灯火管制で灯りの乏しいある夜のこと、マレーグ青年がリージェンツ・パークで物思いにふけっていると、殺人事件に遭遇する。一人の男がタバコに火を点けようとマッチを擦った瞬間、別の誰かによって殴り倒されたのだ。慌ててその場に駆けつけたマレーグだが、男はすでに息絶えていた。現場に近づいていた足音はおろか、逃げ去った足音も聞こえず、いったい犯人はどのような方法で殺害したのか? スコットランド・ヤードのマクドナルド警部はさっそく捜査に乗り出すが……。

 殺されたのは誰だ

 タイトルだけ見るとパット・マガーの〈被害者探し〉ものを彷彿とさせるが、いざ読んでみると全然そんなことはなくて、ごくオーソドックスな本格ミステリである。
 ロラック作品の特徴といえば、地味ながらも本格のコードをきっちり押さえた作風、冒頭の魅力的な謎、登場人物の描写の巧さ、読みやすさなどがあるだろう。ただ、アッと驚くようなトリックはなく、ロジカルな部分も意外に弱かったりするので、そういう意味では本格ミステリとしては非常にマイルドというか、管理人的には山村美紗とか内田康夫といった存在に近いようにも思える。
 とはいえ、これは決して悪い意味ではなく、当時のベストセラー作家としてロラックがあくまでひとときの娯楽を追求した結果であろうと思うわけで、それはそれでノープロブレム。

 本作はそんな作品群の中にあって、けっこういい線をいっている。地味だ地味だと言われつつ、キャラクターは立っているし、登場人物同士のやりとりや場面場面の作り方が上手いのでまったく退屈することがない。
 マクドナルド警部も個人的にはいまひとつ魅力に欠ける気がするのだが、今回は登場人物たちがやたらとマクドナルドを持ち上げるせいもあって、心なし魅力度アップという感じもあり。
 何より戦争という背景の使い方がうまい。いや、そんなテクニック云々のレベルではなく、きちんと戦争と向き合っているところが素晴らしいのだ。爆撃で山ほど死者が出ているという状況のなか、たかが殺人事件にかまけているひまがあるのかという刑事のセリフはなかなかに重く、これを当時のベストセラー作家がリアルタイムで、しかも娯楽小説のなかでサクッと書いてしまうところがすごいのである。

 そういうわけでミステリとしての技巧や驚きという点では物足りないところもあるけれど、全体的には悪くない一作。クラシックミステリのファンであれば読んで損はない。

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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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