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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


国枝史郎『国枝史郎探偵小説全集』(作品社)

 あまりのサイズで通勤のお供にすることもできず、夜寝る前にこつこつ読み進めてきた一冊をようやく読み終える。国枝史郎の『国枝史郎探偵小説全集』だ。

 いやいや、これはいいですね。国枝史郎がこんなに探偵小説を書いていたことも驚きだが、それがしっかり探偵小説の体裁をとっていることに驚く。とはいっても、あくまで重要視されるのはテーマであり、トリックやロジックというものに関して、ほとんどこだわりはない。乱歩が登場する以前、いわば日本探偵小説界の黎明期に書かれたものばかりだし、そもそも作者が探偵小説に求めるものが違うのだから仕方ない。ただ、それを差し引いても、探偵小説としてのエッセンスは十分なものがある。
 だが、本書の売りは、それだけではない。探偵小説以上に面白いのが後半のエッセイ、評論なのだ。伝奇小説の名手として名を馳せた国枝史郎は、その後探偵小説の創作からは遠のくのだが、業界の動向にはしっかりと目を光らせていた。その論評はかなり辛口ではあるが、先にも書いたとおり、国枝の理想とする探偵小説は乱歩らのそれとは違い、芸術性であり、社会的な意義であった。そのための苛立ちが紙面に反映されていったといえるだろう。とりわけ小酒井不木を挟んでの乱歩との確執は、『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』でも知られるようになったが、本書のエッセイでもあちらこちらに読みとれて興味深い。
 値段や内容を考えると、おいそれとは人に勧められる本ではないが、個人的には今年のベストテン級の一冊。

「砂漠の歌 スタンレー探検日記」
「広東葱」
「闘牛」
「西班牙の恋」
「死の航海」
「喇嘛の行衛」
「死の復讐」
「物凄き人喰い花の怪」
「温室の恋」
「生ける死人」
「アラスカの恋」
「人間製造」
「木乃伊の耳飾」
「国事犯の行方―破獄の志士赤井景韶―」
「人を呪わば」
「奥さんの家出」
「畳まれた町」
「白靴」
「沙漠の美姫」
「さまよう町のさまよう家のさまよう人々」
「赤い手」
「指紋」
「目撃者」

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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