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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


都筑道夫『紙の罠』(ちくま文庫)

 都筑道夫の『紙の罠』を読む。初期にはいろいろと実験的なミステリを書いている都筑道夫だが、本格ミステリに限らず、ミステリのさまざまなジャンルにおいてチャレンジと研究を続けた作家である。本作は当時の日本ではまだ少なかった(今でも少ないけれど)ナンセンス・アクションに挑戦した一作。

 こんな話。紙幣印刷用紙が輸送中に強奪されるという事件が起こった。強奪犯の目的はその紙幣を使った偽札造りに間違いない。そう推理した近藤庸三は、贋造に必要な“製版の名手”の身柄を先に押さえてしまい、強奪犯たちに引き渡してひと稼ぎしようと思い立つ。
 しかし、そう考えたのは近藤だけではなかった。土方や沖田といった商売敵、そして強奪犯も動き出して……。

 紙の罠

 著者自身はナンセンス・アクションと表現しているが、意識しているのはアメリカ映画にあるようなスラップスティック・コメディ、すなわち体を張ったドタバタギャグ満載のコメディだ。それをミステリでやったのが本作である。
 本筋は一応、“製版の名手”を巡るギャング同士の抗争だが、ストーリーがどう転ぶかはそこまで気にする必要はなく、ほぼ全編にわたって盛り込まれたギャグを楽しめばよい。だから著者と笑いの質が合うか合わないかでずいぶん評価は変わるだろうなとは思う。

 とはいえ当時のスラップスティック・コメディをここまで日本風に落とし込んだ例はあまり見たことがなく、それだけでも一読の価値はあるだろう。ギャグ満載でありながらもどこかおしゃれなイメージを感じさせるこのテクニックは鮮やかだ。
 また、スラップスティック・コメディ云々とはいってもベースはミステリ。著者はその辺も抜かりなく、それこそ本格ミステリばりの意外な真相と推理シーンをラストにもってくるのはさすがである。

 なお、本作は近藤&土方シリーズとして二長編があり、先日、二作目の『悪意銀行』もちくま文庫で復刊したばかりである。こちらの感想もそのうちに。

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Comments

Edit

めとろんさん

ううう、残念がら未見です。映画になっているのは知っていましたが、あらためて調べてみると、主役級は名優ぞろいですね。
宍戸錠が原作通りのキャラなのか、あるいは日活路線なのか気になるところです。

Posted at 21:23 on 04 07, 2020  by sugata

Edit

映画も傑作でしたね♪

映画化作品『危いことなら銭になる』も良いですよね♪

Posted at 20:11 on 04 07, 2020  by めとろん

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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