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有馬頼義『リスとアメリカ人』(講談社)
有馬頼義の『リスとアメリカ人』を読む。先日、読んだ『四万人の目撃者』に登場した高山検事と笛木刑事が再登場するシリーズの第二作。ちなみにこのコンビが登場する作品はもうひとつ『殺すな』があり、三部作となっている。
まずはストーリー。銀座の一角にある古びたビルのなかに、政界の要人も頻繁に利用する深草診療所がある。建物こそ古いものの医療設備は最新、医師会の重鎮でもあった深草の評判は上々であった。そんな診療所にある夜、二人の男が現れ、診てほしい患者がいると、強制的に深草を車で連れ去ってしまう。
連行先にいた患者を診た深草は愕然とした。それは紛れもなくペストの症状だったのだ。すでに深草を連行してきた男たちに感染している確率は高く、このまま彼らが行動すれば日本中が大惨事になる可能性もある。深草はその場から脱出しようとするが、無残にも射殺されてしまう……。
一方、高山検事は深草が失踪したことを新聞記事で知る。自らも深草診療所を利用していた高山は気になったものの、笛木刑事が相談しにきた世田谷の発砲事件の疑い、そして新小岩でペストによる死者が出たことを知り、さまざまな対応を迫られてゆく。

『四万人の目撃者』のコメントでくさのまさんからオススメされたこともあって、さっそく読んでみたが、確かにこれはいい。
検察・警察の地道な捜査という基本構造は『四万人の目撃者』とそれほど変わるわけではないのだが、今回は冒頭に深草医師の巻き込まれた事件を置くところがミソ。そのあと同時多発的に起こる医師失踪事件、発砲事件、ペスト騒動、読者にはこの三つにつながりがあることがわかっているわけで、そのつながりに高山検事らはどうやって気づくのかという興味が生まれ、ある種、変則的な倒叙ミステリのような面白さがある。
ペストの感染ルートをたどる捜査についても実にスリリングだ。これはそれこそ最近の新型コロナウィルス騒ぎを彷彿とさせることもあって、題材そのものがセンセーショナルでよい。いわゆるどんでん返しやトリックとは無縁で、あくまで手がかりと推理を積み重ねる地味な本格ではあるのだが、そういう見せ方の巧さや素材の派手さによって、実に引き込まれる一冊となっている。
なお、主人公である高山検事と笛木刑事のコンビだが、この二人の立ち位置というか設定が、前作とはやや趣の異なっている点は気になった。気になったといってもマイナスの意味ではなく、よりキャラクターを強く打ち出したという点にある。
特に高山検事は前作ではわりと常識的な、悪くいうとややステレオタイプの人物だったが、本作では関係者への感情移入がしばしば見られ、悩める検事のイメージが強くなっている。笛木刑事もそんな高山に戸惑うようなところも見られ、そんな二人の関係性も読みどころといえる。
本格好きのなかにはそんな要素は不要と感じている人も多いようだが、管理人的にはむしろ好ましく、そういう点でも本作は『四万人の目撃者』を超える出来といっていいだろう。
まずはストーリー。銀座の一角にある古びたビルのなかに、政界の要人も頻繁に利用する深草診療所がある。建物こそ古いものの医療設備は最新、医師会の重鎮でもあった深草の評判は上々であった。そんな診療所にある夜、二人の男が現れ、診てほしい患者がいると、強制的に深草を車で連れ去ってしまう。
連行先にいた患者を診た深草は愕然とした。それは紛れもなくペストの症状だったのだ。すでに深草を連行してきた男たちに感染している確率は高く、このまま彼らが行動すれば日本中が大惨事になる可能性もある。深草はその場から脱出しようとするが、無残にも射殺されてしまう……。
一方、高山検事は深草が失踪したことを新聞記事で知る。自らも深草診療所を利用していた高山は気になったものの、笛木刑事が相談しにきた世田谷の発砲事件の疑い、そして新小岩でペストによる死者が出たことを知り、さまざまな対応を迫られてゆく。

『四万人の目撃者』のコメントでくさのまさんからオススメされたこともあって、さっそく読んでみたが、確かにこれはいい。
検察・警察の地道な捜査という基本構造は『四万人の目撃者』とそれほど変わるわけではないのだが、今回は冒頭に深草医師の巻き込まれた事件を置くところがミソ。そのあと同時多発的に起こる医師失踪事件、発砲事件、ペスト騒動、読者にはこの三つにつながりがあることがわかっているわけで、そのつながりに高山検事らはどうやって気づくのかという興味が生まれ、ある種、変則的な倒叙ミステリのような面白さがある。
ペストの感染ルートをたどる捜査についても実にスリリングだ。これはそれこそ最近の新型コロナウィルス騒ぎを彷彿とさせることもあって、題材そのものがセンセーショナルでよい。いわゆるどんでん返しやトリックとは無縁で、あくまで手がかりと推理を積み重ねる地味な本格ではあるのだが、そういう見せ方の巧さや素材の派手さによって、実に引き込まれる一冊となっている。
なお、主人公である高山検事と笛木刑事のコンビだが、この二人の立ち位置というか設定が、前作とはやや趣の異なっている点は気になった。気になったといってもマイナスの意味ではなく、よりキャラクターを強く打ち出したという点にある。
特に高山検事は前作ではわりと常識的な、悪くいうとややステレオタイプの人物だったが、本作では関係者への感情移入がしばしば見られ、悩める検事のイメージが強くなっている。笛木刑事もそんな高山に戸惑うようなところも見られ、そんな二人の関係性も読みどころといえる。
本格好きのなかにはそんな要素は不要と感じている人も多いようだが、管理人的にはむしろ好ましく、そういう点でも本作は『四万人の目撃者』を超える出来といっていいだろう。
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Comments
Edit
楽しんで頂けてなによりです。
お薦めした手前、"期待外れ"だと申し訳ないので、まずはほっとしました(笑)。
主人公達の造形がより深くなっているのは正直思い出せませんが、この作品を執筆中に三部作の構想になったのかもしれませんね。
あと『四万人~』へのコメント後に思い出したのですが、土屋隆夫が何かの随筆で、ある作品の結末で(事件に関わった)ある人物が特定されないのを探偵が"それでも良い"みたいにして終わらせたものがあるがそれはおかしいみたいなことを仰っていて、その作品こそ『四万人~』ではないかと。たしか事件解決後にそんなことを検事が言うシーンがありませんでしたか?
Posted at 23:44 on 03 21, 2020 by くさのま
くさのまさん
いや、実に面白かったです。ただ、謎解き的な興味というよりは、物語やサスペンスとしての面白さですよね。
>(事件に関わった)ある人物が特定されないのを探偵が"それでも良い"みたいにして終わらせたものがある
これも、その典型的なところですよね。『四万人の〜』のラストのことだと思いますが、作者のなかではもちろんはっきりしているのでしょうが、ドラマのうえでさほど重要でなければ、すべてを説明する必要はないというのが、作者のスタンスなのでしょう。
そもそも作者は『四万人の〜』を推理小説として書いてはいないという発言もありますものね。
ともあれ三作目も楽しみです。
Posted at 01:05 on 03 22, 2020 by sugata