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 基本的に叢書やシリーズ本などはなるべく若い番号順で読むことにしているのだが、買った本をどんどん積んでいると、いつのまにか目当ての本がどこにあるかわからなくなり、いつしか読み忘れのままになってしまうことはよくある話。積ん読の悲劇である。
 本日の読了本、エラリー・クイーンの『ナポレオンの剃刀の冒険』も、やはり長らく埋もらせていた一冊で、先日、ようやく積ん読のなかから発見して読むことができた次第である。
 原書は2005年に刊行された『The Adventure of the Murdered Moths and Other Radio Mysteries』。邦訳版では本書と『死せる案山子の冒険』の二分冊という形で出版されている。

 ナポレオンの剃刀の冒険

 さて『ナポレオンの剃刀の冒険』だが、本書はクイーン父子が活躍するミステリ・ラジオドラマのシナリオ集だ。
 クイーンの聖典以外の作品はラジオやテレビのシナリオ集からノヴェライズ、名義貸しから代作、ダネイやリーの片方だけが参加したものなど、とにかくいろいろなものが存在する。ジャンルも本格にかぎらずスリラーからハードボイルド、ノンフィクションやジュヴナイルまで書かれ、出来もまさに玉石混交。ぶっちゃけクイーンの作品を読んでいるという実感には乏しいものが多かったのだけれど、本書は例外。
 なんせクイーンが直接シナリオを手がけたラジオドラマ「エラリー・クイーンの冒険」から優れたものだけを集めた傑作集である。しかも収録作が書かれた(放送された)のは1939年から1948年。国名シリーズがひと息ついて、ハリウッドものから後期のライツヴィルものへと移行した時期であり、まさにクイーンの成熟期といってもいい頃だ。そのクイーンがラジオドラマのために、あえて国名シリーズのスタイル、つまりパズル重視、ガチガチの本格で書き起こしたシナリオである。また、テイストも国名シリーズからハリウッドものにかけての雰囲気を打ち出し、クイーン警視はもちろん秘書のニッキー、ヴェリー部長刑事などレギュラー陣も総登場し、おまけに“読者への挑戦状”までが用意されている。
 視聴者は普段ミステリを読まない人も想定しているため、聖典ほどの複雑な謎はないけれど、この世界観でクイーンの活躍が新たに読めるだけで十分幸せ。これをつまらないといってはバチが当たるだろう。まあ個人的にはちょっとニッキーがうざいけれど(笑)。

The Adventure of Napoleon's Razor「ナポレオンの剃刀の冒険」
The Adventure of the Dark Cloud「〈暗雲(ダーク・クラウド)〉号の冒険」
The Adventure of the Bad Boy「悪を呼ぶ少年の冒険」
The Adventure of Mr. Short and Mr. Big「ショート氏とロング氏の冒険」
The Adventure of the Haunted Cave「呪われた洞窟の冒険」
The Adventure of Murdered Moths「殺された蛾の冒険」
The Adventure of the Black Secret「ブラック・シークレットの冒険」
The Case of the Three Macklins「三人マクリンの事件」

 収録作は以上。なにせ一時間もしくは三十分という短いドラマなので、先ほど書いたように複雑なものは少ないが、それでも一時間ものはどれも六十ページ余りあって満足度は高い。
 実は冒頭の「ナポレオンの剃刀の冒険」、「〈暗雲(ダーク・クラウド)〉号の冒険」がちょっとネタがわかりやすすぎるという感じだったので心配したのだが、『Yの悲劇』を連想させる「悪を呼ぶ少年の冒険」、ホームズの未解決事件を解き明かす「ショート氏とロング氏の冒険」、何は無くとも不可能犯罪「呪われた洞窟の冒険」で一気に持ち返す。そしておそらく本書中のベスト「ブラック・シークレットの冒険」とくるわけで、いやあ、久々に黄金時代の本格を堪能したという感じである。

 ちなみに本書の翻訳と解説はクイーン研究家として知られる飯城勇三氏が担当。収録作の解説と資料のボリュームが尋常ではなく、こちらもぜひ一緒に楽しんでほしいところである。

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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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