- Date: Thu 04 06 2020
- Category: 海外作家 クイーン(エラリー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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エラリー・クイーン『死せる案山子の冒険』(論創海外ミステリ)
先日読んだエラリー・クイーンのラジオ・ドラマ集『ナポレオンの剃刀の冒険』に続いて、第2集となる『死せる案山子の冒険』を読む。とりあえず収録作から。
The Adventure of the Last Man Club「〈生き残りクラブ〉の冒険」
The Adventure of the March of Death「死を招くマーチの冒険」
The Adventure of the Man Who Could Double the Size of Diamonds「ダイヤを二倍にする男の冒険」
The Adventure of the Woman in Black「黒衣の女の冒険」
The Adventure of the Forgotten Men「忘れられた男たちの冒険」
The Adventure of the Dying Scarecrow「死せる案山子の冒険」
The Adventure of the Lost Child「姿を消した少女の冒険」

解説によると『ナポレオンの剃刀の冒険』がパズル色を打ち出した初期の国名シリーズっぽいものを収録したのに対し、本書では後期のライツヴィルもののテイストに近い作品を選んだという。
実際、読んでみると、人物造型には確かに違いが感じられる。『ナポレオンの剃刀の冒険』での無邪気なエラリーは影を潜め、真相にたどりつくまでにけっこう悩み苦しみ、人間くさいところを見せるなど、後期のエラリーっぽい姿が印象的。ニッキーもイケイケではなく、かなり落ち着きが出ていてひと安心である(笑)
事件の内容についても比較的シリアスタッチで深刻なものが多く、この点もライツヴィルものを連想するところだろう。なかには少々重すぎるものもあって、クイーンがよくこんなヘビーなネタをラジオの娯楽ドラマで書いたものだと驚かされる。
肝心の謎解きドラマとしては、前作に引き続き安定したレベル。凝ったものはあまりないが、ネタがストーリーに上手くマッチしており、より効果的に描かれているといったところか。
特に印象に残ったのは、最後に生き残ったものが金を総取りするサークルの設定と、意外な犯人が印象的な「〈生き残りクラブ〉の冒険」。読者の先入観と特殊な設定の二つを逆手にとった「ダイヤを二倍にする男の冒険」。ライツヴィルものの雰囲気濃厚な、田舎の家屋の悲劇を描く「死せる案山子の冒険」あたり。
そしてなんといっても誘拐事件を扱ったラストの「姿を消した少女の冒険」を忘れてはならない。純粋な謎解きミステリとしての要素だけでいうなら他にもいいものはあるが、ストーリーやサスペンスも含めればこれがピカイチ。内容もヘビーで、ラストの衝撃もなかなか。これだけでも本書を読む価値はあるだろう。
ということで本書も十分に満足のいく一冊であった。それにしてもクイーンが自ら手がけたとはいえ、ぶっちゃけシナリオ集ということでそこまで期待していなかったのだが、『ナポレオンの剃刀の冒険』、『死せる案山子の冒険』ともに実に読ませる。
クイーンのシナリオ集ではまだ『ミステリの女王の冒険』と『犯罪コーポレーションの冒険』が未読なので、ああ、これは楽しみが増えました。
The Adventure of the Last Man Club「〈生き残りクラブ〉の冒険」
The Adventure of the March of Death「死を招くマーチの冒険」
The Adventure of the Man Who Could Double the Size of Diamonds「ダイヤを二倍にする男の冒険」
The Adventure of the Woman in Black「黒衣の女の冒険」
The Adventure of the Forgotten Men「忘れられた男たちの冒険」
The Adventure of the Dying Scarecrow「死せる案山子の冒険」
The Adventure of the Lost Child「姿を消した少女の冒険」

解説によると『ナポレオンの剃刀の冒険』がパズル色を打ち出した初期の国名シリーズっぽいものを収録したのに対し、本書では後期のライツヴィルもののテイストに近い作品を選んだという。
実際、読んでみると、人物造型には確かに違いが感じられる。『ナポレオンの剃刀の冒険』での無邪気なエラリーは影を潜め、真相にたどりつくまでにけっこう悩み苦しみ、人間くさいところを見せるなど、後期のエラリーっぽい姿が印象的。ニッキーもイケイケではなく、かなり落ち着きが出ていてひと安心である(笑)
事件の内容についても比較的シリアスタッチで深刻なものが多く、この点もライツヴィルものを連想するところだろう。なかには少々重すぎるものもあって、クイーンがよくこんなヘビーなネタをラジオの娯楽ドラマで書いたものだと驚かされる。
肝心の謎解きドラマとしては、前作に引き続き安定したレベル。凝ったものはあまりないが、ネタがストーリーに上手くマッチしており、より効果的に描かれているといったところか。
特に印象に残ったのは、最後に生き残ったものが金を総取りするサークルの設定と、意外な犯人が印象的な「〈生き残りクラブ〉の冒険」。読者の先入観と特殊な設定の二つを逆手にとった「ダイヤを二倍にする男の冒険」。ライツヴィルものの雰囲気濃厚な、田舎の家屋の悲劇を描く「死せる案山子の冒険」あたり。
そしてなんといっても誘拐事件を扱ったラストの「姿を消した少女の冒険」を忘れてはならない。純粋な謎解きミステリとしての要素だけでいうなら他にもいいものはあるが、ストーリーやサスペンスも含めればこれがピカイチ。内容もヘビーで、ラストの衝撃もなかなか。これだけでも本書を読む価値はあるだろう。
ということで本書も十分に満足のいく一冊であった。それにしてもクイーンが自ら手がけたとはいえ、ぶっちゃけシナリオ集ということでそこまで期待していなかったのだが、『ナポレオンの剃刀の冒険』、『死せる案山子の冒険』ともに実に読ませる。
クイーンのシナリオ集ではまだ『ミステリの女王の冒険』と『犯罪コーポレーションの冒険』が未読なので、ああ、これは楽しみが増えました。
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