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 湘南探偵倶楽部さん復刻の短編から山本周五郎『混血児ジュリ』を読む。かつて偕成社が発行していた雑誌『少女サロン』の昭和二十九年四月号に掲載されていた子供向け探偵小説である。
 山本周五郎の子供向け探偵小説といえば、作品社の〈山本周五郎探偵小説全集〉やそれをベースにした新潮文庫の〈周五郎少年文庫〉であらかた読めると思っていたのだが、本作はそのどちらにも未収録ということで、よくまあ、そんな作品を探してくるものである。

 世界的科学者として有名な金沢博士を父にもつ少女・金沢八千代。彼女は幼いときに母を亡くしたものの、父や使用人と一緒に暮らし、なに不自由のない暮らしを送っていた。
 そんなある日の深夜のこと。彼女の寝室の窓から中をのぞく一人の怪しい男がいた。八千代はたまたま家に泊まりに来ていた従兄弟の大学生・順吉にこれを知らせるが、今度は使用人の混血児・ジュリの部屋から悲鳴が聞こえてきた。「ネズミが出ただけ」と答えるジュリだったが、本当のことを話してほしいと迫る八千代に負け、ジュリはサーカス団にいたという自分の過去を語るのだが……。

 混血児ジュリ

 まあ、作品社の〈山本周五郎探偵小説全集〉を三冊ほど読んでいるのでレベル感はだいたい知っているし、読む前からそれなりの期待はしていたのだが、本作もなかなか上手くまとまった子供向けスリラーである。
 短編なのでそこまで複雑な話ではないものの、オープニングの謎の男の登場からジュリを狙う組織の暗躍、一転して後半のサーカスを舞台にした少女消失(トリックというより手品だけど)、そしてアクションも取り入れたラストと、流れるようなストーリー展開がよい。とにかくプロットがよくできていて、もちろん当時の子供向けだからツッコミどころはいろいろあれど、意外な真相まで含め、なかなか充実した一作と言える。当時の子供が読んで面白くないはずがない。

 最後に話のネタとして、いくつか気になった点を挙げておこう。
・「混血児」「みなし子」など、今日では差別的と看做される表記が多く、これが先の全集などに入らなかった理由かもしれない。
・主人公の八千代が使用人のジュリを「ジュリや」と呼ぶのは、「婆や」「姉や」から派生したものか?
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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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