- Date: Mon 10 08 2020
- Category: 国内作家 泡坂妻夫
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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泡坂妻夫『ヨギ ガンジーの妖術』(新潮文庫)
泡坂妻夫読破シリーズも亜愛一郎がひと息ついて、ヨギ ガンジーものに取り掛かる。
ドイツ人とミクロネシア人と大阪人の混血という出自を持つヨギ ガンジー。一応はヨーガの達人という触れ込みで全国各地を講演で巡っているが、奇術や占いにも造詣が深く、どこかしら胡散臭い雰囲気を醸し出す。しかし、それは本人も重々承知。逆にいろいろな奇跡や超常現象など、すべてはトリックであると人々に説いて回るというから面白い。

「王たちの恵み」〈心霊術〉
「隼の贄」〈遠隔殺人術〉
「心魂平の怪光」〈念力術〉
「ヨギ ガンジーの予言」〈予言術〉
「帰りた銀杏」〈枯木術〉
「釈尊と悪魔」〈読心術〉
「蘭と幽霊」〈分身術〉
収録作は以上。
クセの強い泡坂妻夫のシリーズ作品だが、本シリーズもとりわけ強烈。もちろん主人公ヨギ ガンジーの奇妙な設定だけでも十分に面白いのだが、何といっても楽しいのは扱うネタのほとんどが奇跡や超常現象のトリックである点。それこそ怪しげな新興宗教団体とかが超常現象や奇跡を披露して信者を集める、ああいった手口の種明かしをこれでもかと暴いていく。以下、各作品の簡単なコメント。
「王たちの恵み」はガンジーが講演中に盗難されてしまった募金箱の事件。あまりにも意表を突いた真相であり、泡坂作品に免疫がない人は、もうこの一作だけでトリコになってしまうのではないか。
「隼の贄」は新興宗教の開祖・参王不動丸との対決を描く。予告殺人のネタも見事だが、敵の参王不動丸がガンジーに敗北後、弟子入りするあたりは、ブラウン神父もののフラウボウを彷彿とさせて楽しい。おそらく狙ってやったものだろうな。
「心魂平の怪光」は鼠騒動とUFO騒動がどのように結びつくのかというネタ。念力対決もあったりと賑やかな作品ではあるが、今読むとネタが割れやすいのが惜しい。
「ヨギ ガンジーの予言」はタイトルどおり予言を扱った作品。予言トリックの作品は他の作家の作品でもいくつか読んだことはあるが、概ねどれも楽しく読めるのはなぜだろう。
「帰りた銀杏」は事件の様相をガラリと変えてみせる展開に驚かされる。トリックが重視されるこのシリーズで、本作は「ホワイダニット」にスポットを当てていて興味深い。この真相ははちょっと読めないよなぁ。
「釈尊と悪魔」も「帰りた銀杏」同様に、ラストで事件の構図を思い切り反転してみせる。考えると単純なネタではあるのだが、ドサまわりの劇団という世界を持ってきたことで見事に全体像をカモフラージュし、なおかつドサまわりの劇団でなければならなかった理由もまた存在する。これはプロットの勝利か。
「蘭と幽霊」はエクトプラズムを扱うが、心霊ネタの中でももっとも胡散臭いネタであり、それを最後に持ってきたところに著者の自信のほどが窺える。でもやっぱり他の作品よりは少し落ちるかな(苦笑)。
ということで久々の再読であったが、いくつかネタとして弱いものはあったけれど、基本的には全編通して楽しい一冊であった。ヨギ ガンジーものだと『しあわせの書』や『生者と死者』のインパクトが強すぎて、本書はやや影が薄いところがあるかもしれないが、ミステリとしては断然こちらが上だろう。
ドイツ人とミクロネシア人と大阪人の混血という出自を持つヨギ ガンジー。一応はヨーガの達人という触れ込みで全国各地を講演で巡っているが、奇術や占いにも造詣が深く、どこかしら胡散臭い雰囲気を醸し出す。しかし、それは本人も重々承知。逆にいろいろな奇跡や超常現象など、すべてはトリックであると人々に説いて回るというから面白い。

「王たちの恵み」〈心霊術〉
「隼の贄」〈遠隔殺人術〉
「心魂平の怪光」〈念力術〉
「ヨギ ガンジーの予言」〈予言術〉
「帰りた銀杏」〈枯木術〉
「釈尊と悪魔」〈読心術〉
「蘭と幽霊」〈分身術〉
収録作は以上。
クセの強い泡坂妻夫のシリーズ作品だが、本シリーズもとりわけ強烈。もちろん主人公ヨギ ガンジーの奇妙な設定だけでも十分に面白いのだが、何といっても楽しいのは扱うネタのほとんどが奇跡や超常現象のトリックである点。それこそ怪しげな新興宗教団体とかが超常現象や奇跡を披露して信者を集める、ああいった手口の種明かしをこれでもかと暴いていく。以下、各作品の簡単なコメント。
「王たちの恵み」はガンジーが講演中に盗難されてしまった募金箱の事件。あまりにも意表を突いた真相であり、泡坂作品に免疫がない人は、もうこの一作だけでトリコになってしまうのではないか。
「隼の贄」は新興宗教の開祖・参王不動丸との対決を描く。予告殺人のネタも見事だが、敵の参王不動丸がガンジーに敗北後、弟子入りするあたりは、ブラウン神父もののフラウボウを彷彿とさせて楽しい。おそらく狙ってやったものだろうな。
「心魂平の怪光」は鼠騒動とUFO騒動がどのように結びつくのかというネタ。念力対決もあったりと賑やかな作品ではあるが、今読むとネタが割れやすいのが惜しい。
「ヨギ ガンジーの予言」はタイトルどおり予言を扱った作品。予言トリックの作品は他の作家の作品でもいくつか読んだことはあるが、概ねどれも楽しく読めるのはなぜだろう。
「帰りた銀杏」は事件の様相をガラリと変えてみせる展開に驚かされる。トリックが重視されるこのシリーズで、本作は「ホワイダニット」にスポットを当てていて興味深い。この真相ははちょっと読めないよなぁ。
「釈尊と悪魔」も「帰りた銀杏」同様に、ラストで事件の構図を思い切り反転してみせる。考えると単純なネタではあるのだが、ドサまわりの劇団という世界を持ってきたことで見事に全体像をカモフラージュし、なおかつドサまわりの劇団でなければならなかった理由もまた存在する。これはプロットの勝利か。
「蘭と幽霊」はエクトプラズムを扱うが、心霊ネタの中でももっとも胡散臭いネタであり、それを最後に持ってきたところに著者の自信のほどが窺える。でもやっぱり他の作品よりは少し落ちるかな(苦笑)。
ということで久々の再読であったが、いくつかネタとして弱いものはあったけれど、基本的には全編通して楽しい一冊であった。ヨギ ガンジーものだと『しあわせの書』や『生者と死者』のインパクトが強すぎて、本書はやや影が薄いところがあるかもしれないが、ミステリとしては断然こちらが上だろう。
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「帰りた銀杏」はいいですね。予想外すぎる動機の見事なことと言ったら。個人的にホワイダニットが好みなこともあって、これは好きな作品です。
「釈尊と悪魔」は大衆演劇という舞台が好みのもあるし、冷酷な二枚目の役者というキャラクターがいいですね。あれをもっと膨らませて中編レベルにするともっとよくなった気がします。トリック的には確かに落ちますが(苦笑)。