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 ドリヤス工場の『文豪春秋』を読む。日本近代文学における文豪たちの面白エピソードを綴ったマンガである。“ドリヤス工場”を知っている人なら話は早いのだが、ご存じない方もいるだろうから一応紹介しておくと——

 文豪春秋

 これは歴としたマンガ家さんのペンネーム。『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』シリーズの作者だといえば、思いあたる人もいるだろう。
 ペンネームからして人をくったような感じではあるが、もっと面白いのはその画風だ。なんと水木しげるそっくりの絵を描くのである。絵ばかりか、セリフや間、雰囲気に至るまで水木しげるを再現する。その作風を活用して人気マンガのパロディなども描いていたが、一般的に知られているのは、やはり『有名すぎる文学作品を〜』シリーズだろう。
 名作のストーリーを要約したマンガはありそうでなかったジャンル。続編もいくつか出たようだからけっこう人気はあったはず。で、二匹目のドジョウを狙ったわけではないだろうが(いや十分狙っているか)、本作では作家のエピソードに焦点をあてた本になった。

 しかし二匹目のドジョウといってもそこは版元が文藝春秋。舞台を同社の文芸編集部にとり、文藝春秋創設者・菊池寛の銅像が、自らの体験をもとにした文芸ゴシップ系蘊蓄を披露するという破天荒な設定になっている。また、聞き手は文芸誌の女性編集者。文学好きだが、スマホゲームにも熱心で、乙女系にはまる腐女子でもあるのは今どきっぽい設定である。

 ということで作画や設定が実に独特なのだけれど、それ以上にインパクトがあるのは、やはり当時の文豪たちのエピソードというか生き様だろう。参考書などに載るような一般的なエピソードではなく、どちらかというと作家という人種のダークサイドを中心にとりあげているので、これはつまらないわけがない。知っているネタでも面白く読めるのは、やはり漫画の力だろう。普通の漫画よりは圧倒的に文字が多いのだけれど、小説好きには大した事もなく、むしろ大変読みやすいところもアドバンテージに感じた。
 正直、マンガやイラストを切り口にした文芸ガイドは最近多いのだけれど、この絵柄で読めるという面白さもあり、悪くない一冊だった。
 ただ、水木しげるそっくりの絵に対して拒否反応を示す人はいるだろうから、その点で好き嫌いは出るかもなぁ。

 ちなみに『文豪春秋』というタイトルだが、実はすでに同趣向の内容を乙女系にアレンジしてまとめた『文豪春秋 百花繚乱の文豪秘話』が2017年に、いしいひさいちの文豪ギャグマンガ『文豪春秋』が2002年に出ている。担当編集者が知らなかったとは思えないし、セルフパロディとして使いたかった気持ちは痛いほどわかるのだが(笑)、ここは本家としてもう少しタイトルを捻ってもよかったかな。


テーマ:評論集 - ジャンル:本・雑誌





ポール・ブリッツさん

おっしゃること、その気持ちもすごくわかります。漫画で絵柄が似ているというのは、師弟関係にあるとか以外では、基本的にタブーだったと思うんです。でも、こういうのはおそらく縛りようがなく、今後はこういうパターンが増えてくると思います。そこで人気が出るかどうかは、結局、内容次第ではないでしょうか。
個人的には、ポール・ブリッツさんが感じている居心地の悪さは、私はミステリのパスティーシュとかに感じるんですね。作品の出来がどんなによかったとしても、いつも頭の隅っこに「人の作ったキャラクターで商売すんなよ」という気持ちが何かしらあるというか(笑)。
【2020/08/19 22:16】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

内容については文句ないんですが、この企画、普通に水木しげるに依頼しても、「ここまで面白くはならなかった」んじゃないかと思うんですよね。水木しげるじゃなくて「ドリヤス工場」というパロディ漫画家が描いているからきわどい面白さのギャグが成立しているのではないかと。そういった形で、文藝春秋社が、ドリヤス工場という漫画家に目をつけたのは慧眼だと思うんですが、同時に、「ドリヤス工場というパロディ漫画家に権威付けをしてしまった」側面があるように思うのですよ。それは手塚治虫そっくりな漫画を描きながらも徹底したシモネタギャグ路線をすることによって「権威」から完全に逃れている田中圭一の生き方と比較すると、アドルノとかベンヤミン的な意味で非常にもにょもにょする居心地悪さを感じるんですよね、パロディ漫画家としてのドリヤス工場に……。
【2020/08/19 17:27】 URL | ポール・ブリッツ #0MyT0dLg[ 編集]















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