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 そこそこの読書家であれば、新刊が出たら内容に関係なくとりあえず押さえるご贔屓の作家がいると思う。これがもう少し進むと、お気に入りのシリーズや叢書、全集などに手を出すようになる。内容や作家に関係なく、そのシリーズなり叢書の新刊はすべて買ってしまうわjけだ。通し番号なんかが入っていた日にはもう目も当てられない。抜けた数字が気持ち悪いってんで、もう買わずにはいられない。誠に因果な趣味ではある。
 ただ、読書家と一括りにするのは、まともな読書家には少々迷惑な話だろう。おそらくだけど、こういうのはミステリやSF、幻想小説のファンだけなような気がする(笑)。

 本日の読了本は、そんな出たらとりあえず買う叢書「ヒラヤマ探偵文庫」さんの一冊。長田幹彦の『九番館』である。まずはストーリー。

 時は大正。外国人が暮らす居留地の一角に「九番館」と呼ばれる洋館があった。元は教会だったが、牧師が亡くなった後は跡を継ぐ者もなく、今では廃墟同然となっていた。しかし、そこにある日、原島貞一郎という医師が、かつ子という助手を従えて移り住む。彼らは信仰に篤く、医療に従事しながら、孤児を引き取ってその世話もするという献身ぶりで、近所でも評判となってゆく。
 そんな九番館のある港町の一方に小高い丘があり、中川という貿易商が暮らしていた。中川は娘の松枝子を最近、欧州から帰ってきたという桐原子爵に嫁がせたいと考えていたが、ある夜のこと、松枝子の部屋へ謎の黒覆面の男が現れ、金銭を所定の場所へ届けるよう命令するのだった……。

 九番館

 長田幹彦は大正から昭和にかけて活躍した大衆文学作家である。名前こそ知っていたが、これまで読んだこともない作家で、解説によるとなかなかの流行作家だったようだ。学生時代から放蕩三昧でその経験が生きたか、男女の機微を描いて人気を集め、一時期は谷崎潤一郎と並び称されるほどだったという。大正中期から後期にかけては社会小説へと移行し、社会の秩序とその外にいる人々を描いていこうとする。

 本作はそんな時期において描かれた作品で、博文館の『家庭雑誌』に連載されたものだ。社会小説を意識しているのは、当時の最底辺の人々の暮らし、それをサポートする社会構造の脆弱さなどを取り上げることを見ても明らか。基本構造がそもそもルパンをモデルにしたような義賊ものなので、読者の興味を引っ張りつつ、そうした問題を取り上げるには格好の素材だったのだろう。
 今読んでもそれなりに引き込まれるのはさすがで、もちろんネタはすぐに想像できるものだが、刑事と義賊の知恵比べやカーチェイスに至るまで、この手の作品に必要な要素をほぼほぼ取り込んでいることにも感心する。

 探偵小説が好きでも、単に自分の好みだけで読んでいてはなかなかこの辺りまで押さえるのは難しい。こういう作品に出会えるのも、シリーズや叢書を決め打ちしていればこそだろう。
 逆にニッチな分野で頑張る版元さんは、単発ではなくシリーズ化でチャレンジしていただければ、こちらも応援しやすいといえる。まあ、リスクもでかいだろうけれど(苦笑)。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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