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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


マイケル・ギルバート『空高く』(ハヤカワ文庫)

 二、三日前から神田神保町では恒例の古本祭の準備が始まり、明日からはいよいよ本番。あいにく昨日は雨だったが、週末の天気が気になるところだ。当然ながら晴れてくれないことには見てまわる気にもならないが、店側の苦労はそんなもんじゃないんだろう。せめて雨が降らないよう祈るばかりです。

 本日の読了本はマイケル・ギルバートの『空高く』。ハヤカワ文庫版。元々はハヤカワミステリでの刊行だが、『捕虜収容所の死』のヒットのおかげで文庫化されたのだろう。ほかにも数冊絶版状態のものがあるので、ぜひ関係者は重版を検討してほしいものである。

 それはともかく。こんな話。
 イギリスの田舎町ブリンバレーでは近頃、別荘荒らしが頻発し、不穏な空気に包まれていた。そしてある日、教会の献金箱からも金が盗まれるという不名誉な出来事が起こる。人々の間に疑惑が渦巻く中、さらにとんでもない事件が起こった。退役軍人のマックモリス少佐が家もろとも爆弾で吹き飛ばされてしまったのだ……。

 先頃読んだ『捕虜収容所の死』や『金融街にもぐら一匹』では、謎解きに脱走劇や経済小説あたりをミックスさせていたギルバートだが、本作は恐ろしいほどストレートな本格ミステリに仕上げている。だが、これでは正しく本書の特徴を言い表しているとはいえないだろう。厳密には、本書はストレートな本格ミステリではなく、謎解きに古き良き英国風本格ミステリを融合させた小説といえるのだ。

 なんだか逆説的だが、結局マイケル・ギルバートという作家は、基本的に謎解きを書こうとしてはいるが、そのまま読者に見せることをよしとせず、必ず何らかのプラスアルファを提供すべく苦心している作家ということができるだろう。本書の解説ではもっと具体的に、ミス・マープルものに代表されるヴィレッジ・ミステリへのオマージュである、というようなことが書かれているが、まさにそのとおり。遅ればせながら、三冊目にしてようやくマイケル・ギルバートという作家の本質が見えた気がする。

 肝心の出来であるが、なかなか本作も悪くない。犯人探しという興味に加えて、爆弾がどうやって仕掛けられていたかという謎も面白いし、探偵役のリズとティム(この二人は親子である)が、異なる方法で真相に迫っていく展開もなかなか楽しい。そしてけっこう大事なことだが、ギルバートの文章は丁寧で、語り口が見事だ。くどからず薄からず。のどかな描写もスリリングな描写も巧い。似たような小説の中でも、この人の巧さはトップ・クラスではないか。
 たった三冊しか読んでないが、マイケル・ギルバートという作家、ちょっと忘れられない存在になりそうだ。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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