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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

久我真樹『名探偵ポワロ』完全ガイド (星海社新書)

 デビッド・スーシェがポワロを演じたミステリドラマ『名探偵ポワロ』の全話を解説した本が出た。久我真樹の『『名探偵ポワロ』完全ガイド』である。
 ただ、自慢じゃないが、クリスティは原作からして読み残しがまだあるし、ぶっちゃけドラマの『名探偵ポワロ』はケーブルテレビで一、二本見た程度。とてもじゃないが本書について語る資格などあまりないのだけれど(笑)、それでもガイドブックには目がない管理人。とりあえずパラパラと斜め読みしたかぎりでの感想ということでご了承あれ。

 『名探偵ポワロ』完全ガイド

 構成は非常にシンプルで、タイトルどおり『名探偵ポワロ』の全話を解説するというもの。各話放映順に並べ、該当原作/主要登場人物/あらすじ/ガイド(見どころなど)を紹介するという内容である。
 ミステリ的な視点は少なく、どちらかというとドラマとしてのポイント、当時の英国の文化や風俗の解説などがメインという印象で、これは『英国メイドの世界』などの著書があり、英国文化に詳しい著者ならではのアプローチだろう。
 ところが、これがなかなか面白くて、ミステリ的なポイントは原作について調べればいくらでも見つかるだろうから、それよりはドラマならではの気になる情報を解説してくれるというのは、非常にいい着眼点だ。
 これがたとえば現代劇なら少し話は違うけれど、やはり戦前の英国がメインだと、そういう部分への興味は決して低くないはず。別のネタに置き換えるとけっこうわかりやすいのだけれど、これは要するにアニメやファンタジーでいうところの“世界観”のガイドブック、つまり設定資料集的なガイドブックともいえるわけで、繰り返しになるがその着眼点が悪くない。

 もちろんミステリ的アプローチも充実しているに越したことはないが、このサイズでそれを望むのは酷というものだろう。
 サイズ云々でいうと、本書は文字もかなり小さめ。また、図版の類は非常に少なく、この手の本としては決して小さくない弱点なのだが、そういったところを犠牲にしても情報を詰め込むという方針を貫き、その結果、価格も抑えられているのだから、十分に許容範囲だろう。

 まあ、コロンボやホームズはともかく、ポワロとなると若干マニア度が高くなることを見越しての方針なのだろうが、もし売れ行きが好調なようであれば、ぜひ次は判型も大きくしてもらって、先に書いたようなミステリ的考察、また、キャストについての情報なども盛り込んでカラー版で出してくれると嬉しい。
 そのときまでにはこちらも最低、原作を完全読破して、ガイド本片手に『名探偵ポワロ』を全作視聴してみたいものだ。


Comments
 
ポール・ブリッツさん

それやると炎上どころじゃ済まないですよね。ただ、そうやって特定の作品名あげるのも、ちょっとやばい気がします(笑)。
しかし、ネタバレ全開のブログというのは気持ちいいでしょうね。ミステリのブログをやっていて、とにかく歯痒いというか、気をつかうのがネタバレですもんね。
 
Y・Sさん

自作のネタバレとはえぐいですね(苦笑)。でもこの四作は読んでいるんで大丈夫です。というか、はるか昔、藤原先生のガイドブックではいくつかやられましたが(笑)。
まあ、いずれクリスティ読破計画をやるときは発表順に読むつもりなので、そういう地雷も避けられそうです。
 ご存知ないとは思いますが
なんと、「アクロイド殺し」の犯人は!

そして「オリエント急行殺人事件」の犯人となると!

さらには「カーテン」の犯人なんてあなた!

いやー、絶対に語るわけにはいかないのが辛い(笑)
 
ありがとうございます。

そういえばクリスティーでネタバレといえば
ポアロものの『もの言えぬ証人』のなかで
ポアロが過去の事件の感慨にふける際、
ズバリ『スタイルズ』『アクロイド』『大空の死』
『青列車』の真犯人の名前を列挙しています。
(作者みずからいっきに大挙ネタバレ)

けっこう有名な話題ですので
すでにご存じかもしれませんが
もし上記の4作をまだ未読で
『もの言えぬ』も手つかずでしたら
どうかあらかじめご注意を。
 
Y・Sさん

各話の紹介では問題ありませんが、コラムには一部、ネタバレがありますね。そこさえ気をつければ大丈夫かと。
 
涼さん

私もドラマを楽しみたいのですが、個人的には原作を読むのが先と決めているので、ずいぶん後になりそうです。ただ、来年は何とかクリスティ全作読破やってみたいですね。
 こんばんはです
いつも楽しくレビューを拝見しています。

なかなか楽しそうな感じの一冊ですね。
ところで、このレビューのされ方からしますと
犯人やトリックなどのネタバレには配慮している
ガイドブックということなのでしょうか?
(なんか、先に毒見をしていただくようで、
 申し訳ありません~汗~。)
 この本持ってます
やはり字の小ささが響いてなかなか読み終われません。
いまNHKの放映を見ながら、原作を読み直そうとしているところです。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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