- Date: Sat 28 11 2020
- Category: 国内作家 岩田準一
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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岩田準一『彼の偶像 岩田準一作品集』(盛林堂ミステリアス文庫)
岩田準一の『彼の偶像 岩田準一作品集』を読む。岩田準一は竹久夢二に師事して女性画や少年画を描いた画家だが、風俗や民族の研究においても熱心で、非常に多彩な才能をもった人物だ。
ことに同性愛文化の研究はライフワークといってよいほど没入し、江戸川乱歩と二人で同性愛文献を収集・研究していたことはよく知られている。
準一と乱歩は鳥羽の時代に知りあった友人同士である。準一の個展を乱歩が訪ねたことがきっかけというが、先の文献収集・研究だけでなく、準一が乱歩作品の挿絵を描いたり、乱歩が準一の本を出版するなど、障害を通じて親しい関係だったようだ。そういった繋がりは、互いの嗜好ばかりでなく、後の作品にも影響を与えたことは想像に難くない。
『彼の偶像』はそんな岩田準一の初期の小説やエッセイの類をまとめたもの。今では活字の形ではほとんど読むことのできない作品ばかりで、なんと手書きのノート二冊に残されていたものをまとめたらしい。こういうエピソードだけでも本書の価値がわかる。
また、本編以外に、解説、年譜、作品リストも充実しており、これはかなり貴重な一冊と言えるだろう。

「彼の偶像」
「三つの心」
「日記としての手紙」
「美しい部屋(Rの手紙)」
「衛戍病院の夜」
「創作 労働者のスケッチ」
「花屋の客」
「蕪村と潭北」
「匈奴に囚はれた張騫」
「恠談 ソドムの毒杯」
「蒼ざめる部屋」
「梅雨期の鐵工場」
「地上地下」
「京都より」
「小品」
収録作は以上。
ううむ、けっこうなインパクトである。薬物にエロ、同性愛にSMなど、扱う素材がどれも強烈。数ページほどの掌篇が多いので物語としてはやや物足りないのだけれど、どの作品も耽美主義に彩られ、岩田準一の芸術にかける思いや熱が行間から溢れ出ている。
まあ、準一にとってストーリーはさほど大きな問題ではないのだろう。注目すべきはやはり“何をどう描写するか”であり、その描写が画家らしい精緻さに溢れている。男子の風貌や肉体など、そっち系の描写はもちろん、薬に惑わされて夢か現かわからない異常な心理描写など、独特の世界である。
印象に残った作品としては、やはり表題作「彼の偶像」は外せない。短い作品ばかりの中にあって唯一の長めの短編ということもあるのだが、ボリュームだけでなく、準一の嗜好・奇想が十分に盛り込まれていて読み応えがある。ストーリー構成などはとても成功しているとは言い難いのだけれど、前半の外国人女性のゲーム、後半の少年愛趣味など、書かれているエピソードはどれも特殊な嗜好に満ち溢れ、その奥にある芸術性を準一は求めていたようだ。
ほかでは、ここまでやるかというぐらい変態性が暴走する「美しい部屋(Rの手紙)」、肉体労働者の描写にスポットを当てた、その筋の人にはたまらないであろうと思われる「創作 労働者のスケッチ」も地味ながら強烈である。その魅力を全面的に理解できたとは言わないが、乱歩に通じるものは確かに感じるし、全体の雰囲気は決して嫌いではない。
ちなみに今回の収録作は、当時、地方紙に掲載されたものらしいが、よくこの内容で当時の新聞に掲載できたものだ(苦笑)。おおらかな時代だったのだろうな。
ことに同性愛文化の研究はライフワークといってよいほど没入し、江戸川乱歩と二人で同性愛文献を収集・研究していたことはよく知られている。
準一と乱歩は鳥羽の時代に知りあった友人同士である。準一の個展を乱歩が訪ねたことがきっかけというが、先の文献収集・研究だけでなく、準一が乱歩作品の挿絵を描いたり、乱歩が準一の本を出版するなど、障害を通じて親しい関係だったようだ。そういった繋がりは、互いの嗜好ばかりでなく、後の作品にも影響を与えたことは想像に難くない。
『彼の偶像』はそんな岩田準一の初期の小説やエッセイの類をまとめたもの。今では活字の形ではほとんど読むことのできない作品ばかりで、なんと手書きのノート二冊に残されていたものをまとめたらしい。こういうエピソードだけでも本書の価値がわかる。
また、本編以外に、解説、年譜、作品リストも充実しており、これはかなり貴重な一冊と言えるだろう。

「彼の偶像」
「三つの心」
「日記としての手紙」
「美しい部屋(Rの手紙)」
「衛戍病院の夜」
「創作 労働者のスケッチ」
「花屋の客」
「蕪村と潭北」
「匈奴に囚はれた張騫」
「恠談 ソドムの毒杯」
「蒼ざめる部屋」
「梅雨期の鐵工場」
「地上地下」
「京都より」
「小品」
収録作は以上。
ううむ、けっこうなインパクトである。薬物にエロ、同性愛にSMなど、扱う素材がどれも強烈。数ページほどの掌篇が多いので物語としてはやや物足りないのだけれど、どの作品も耽美主義に彩られ、岩田準一の芸術にかける思いや熱が行間から溢れ出ている。
まあ、準一にとってストーリーはさほど大きな問題ではないのだろう。注目すべきはやはり“何をどう描写するか”であり、その描写が画家らしい精緻さに溢れている。男子の風貌や肉体など、そっち系の描写はもちろん、薬に惑わされて夢か現かわからない異常な心理描写など、独特の世界である。
印象に残った作品としては、やはり表題作「彼の偶像」は外せない。短い作品ばかりの中にあって唯一の長めの短編ということもあるのだが、ボリュームだけでなく、準一の嗜好・奇想が十分に盛り込まれていて読み応えがある。ストーリー構成などはとても成功しているとは言い難いのだけれど、前半の外国人女性のゲーム、後半の少年愛趣味など、書かれているエピソードはどれも特殊な嗜好に満ち溢れ、その奥にある芸術性を準一は求めていたようだ。
ほかでは、ここまでやるかというぐらい変態性が暴走する「美しい部屋(Rの手紙)」、肉体労働者の描写にスポットを当てた、その筋の人にはたまらないであろうと思われる「創作 労働者のスケッチ」も地味ながら強烈である。その魅力を全面的に理解できたとは言わないが、乱歩に通じるものは確かに感じるし、全体の雰囲気は決して嫌いではない。
ちなみに今回の収録作は、当時、地方紙に掲載されたものらしいが、よくこの内容で当時の新聞に掲載できたものだ(苦笑)。おおらかな時代だったのだろうな。