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森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』(饒舌な中年たち)
森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人の三氏によるミステリ同人誌『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』を読む。
この御三方は昨年、エドマンド・クリスピンのガイドブック『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』をもってミステリ系同人に名乗りをあげたのだが、やはりマニア度が違うというか遊び方に年季が入っているというか、しかも三人という数的有利もあって、出来上がった本はレベルも高く非常に楽しい一冊だった。
その御三方の最新刊、〈Murder, She Drew〉の第二弾となるのが『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』である。
取り上げる作家は、なんとジョン・ディクスン・カー。しかも歴史ものにテーマを絞ったガイドブックである。

構成自体は前作を踏襲しており、地図や見取り図、著者三氏による鼎談というスタイルは変わらない。しかし単純に扱う冊数が多いうえ、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人の両氏とも最も敬愛する作家がカーということもあって、前作以上に力が入っている。
ボリュームは二倍近い284頁、おまけに地図×2枚やポストカードがつき、別料金ではあるが小冊子やTシャツまで揃っている。これはかなりの作業量であり、本業のかたわらということを考えると相当にヘビーな感じだが、これも三人体制という強みだろう。
だいたいが同人活動というものは一人で黙々とこなすことが多く孤独な作業である(その積もったものがコミケや文フリというハレの場で爆発するわけだけど)。しかし、複数の共同作業なら士気も上がるし、責任感みたいなものも出てくるので、これは意外におすすめのやり方ではないか。今後、参戦を考えている人は一考の価値があるかもしれない。ただ、よほど気心の知れたメンバーでないと、逆にトラブルの元にもなるのでその辺はくれぐれもご注意を。
肝心の中身だが、やはり得意分野だけあって、より面白さもアップした感じである。
例えば本書で紹介するカーの歴史ものは全部で十五冊あるのだが、この並びも初心者や再読者が楽しめる順番ということに配慮して決めたらしい、
で、トップバッターが『ロンドン橋が落ちる』なのだけれど、これを最初にした理由が、カーの歴史もので一番つまらないから(笑)。SRの会というミステリマニアの老舗ファンクラブがあり、その例会で最下位をとってしまったらしい。だから、まず最初にこれを読んでおけば、以後、どの歴史ものを読んでも面白く感じるはずだということのようだ(笑)。
とまあ、全編こんな具合で、マニアならではの情報&ギャグが楽しいし、役にも立つ。商業誌ではいろいろな制限や忖度もあって書きにくいことが、同人では遠慮なく書けるところも強みだろう。
もう一ついいところを書いておくと、これも前作よりパワーアップしたイラストの数々。著者のうち森咲郭公鳥の担当のようだが、作品ごとの地図と犯行現場、その他の参考イラストは、冗談抜きで今後のカーを研究する人には役に立つのではないだろうか。
最近はあまり流行らなくなったのかもしれないが、昔の本格ミステリにはよく犯行現場の見取り図がついていた。あれでも十分にワクワクしたし、何よりけっこう読書の助けにもなるのである。ただ、今時では見取り図だけだと若干味気ない感じもするので、できれば多少は精度が落ちてもイラスト形式で地図や館の見取り図を載せたほうがいいなあと個人的に思う次第。これは本格ミステリのみならず希望するところだ。
まあ、それはともかくとして、かように本書の地図と犯行現場のイラストは素晴らしい。また、そういう大きなイラストだけではなく、いわゆる捨てカットについても悪くない。コミックの同人誌ならいざ知らず、文学系の同人誌でここまでふんだんに捨てカットを使うという贅沢は普通許されない(笑)。これも身内にイラストレーターがいる強みであり、できれば御三方にはこの体制を崩さず続けてもらいたいものだ。
ということでさすがの一冊。管理人もカーについては、それこそ歴史ものを中心に十数冊未読があるので、背中をいいタイミングで押してもらった感じである。感謝。
この御三方は昨年、エドマンド・クリスピンのガイドブック『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』をもってミステリ系同人に名乗りをあげたのだが、やはりマニア度が違うというか遊び方に年季が入っているというか、しかも三人という数的有利もあって、出来上がった本はレベルも高く非常に楽しい一冊だった。
その御三方の最新刊、〈Murder, She Drew〉の第二弾となるのが『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』である。
取り上げる作家は、なんとジョン・ディクスン・カー。しかも歴史ものにテーマを絞ったガイドブックである。

構成自体は前作を踏襲しており、地図や見取り図、著者三氏による鼎談というスタイルは変わらない。しかし単純に扱う冊数が多いうえ、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人の両氏とも最も敬愛する作家がカーということもあって、前作以上に力が入っている。
ボリュームは二倍近い284頁、おまけに地図×2枚やポストカードがつき、別料金ではあるが小冊子やTシャツまで揃っている。これはかなりの作業量であり、本業のかたわらということを考えると相当にヘビーな感じだが、これも三人体制という強みだろう。
だいたいが同人活動というものは一人で黙々とこなすことが多く孤独な作業である(その積もったものがコミケや文フリというハレの場で爆発するわけだけど)。しかし、複数の共同作業なら士気も上がるし、責任感みたいなものも出てくるので、これは意外におすすめのやり方ではないか。今後、参戦を考えている人は一考の価値があるかもしれない。ただ、よほど気心の知れたメンバーでないと、逆にトラブルの元にもなるのでその辺はくれぐれもご注意を。
肝心の中身だが、やはり得意分野だけあって、より面白さもアップした感じである。
例えば本書で紹介するカーの歴史ものは全部で十五冊あるのだが、この並びも初心者や再読者が楽しめる順番ということに配慮して決めたらしい、
で、トップバッターが『ロンドン橋が落ちる』なのだけれど、これを最初にした理由が、カーの歴史もので一番つまらないから(笑)。SRの会というミステリマニアの老舗ファンクラブがあり、その例会で最下位をとってしまったらしい。だから、まず最初にこれを読んでおけば、以後、どの歴史ものを読んでも面白く感じるはずだということのようだ(笑)。
とまあ、全編こんな具合で、マニアならではの情報&ギャグが楽しいし、役にも立つ。商業誌ではいろいろな制限や忖度もあって書きにくいことが、同人では遠慮なく書けるところも強みだろう。
もう一ついいところを書いておくと、これも前作よりパワーアップしたイラストの数々。著者のうち森咲郭公鳥の担当のようだが、作品ごとの地図と犯行現場、その他の参考イラストは、冗談抜きで今後のカーを研究する人には役に立つのではないだろうか。
最近はあまり流行らなくなったのかもしれないが、昔の本格ミステリにはよく犯行現場の見取り図がついていた。あれでも十分にワクワクしたし、何よりけっこう読書の助けにもなるのである。ただ、今時では見取り図だけだと若干味気ない感じもするので、できれば多少は精度が落ちてもイラスト形式で地図や館の見取り図を載せたほうがいいなあと個人的に思う次第。これは本格ミステリのみならず希望するところだ。
まあ、それはともかくとして、かように本書の地図と犯行現場のイラストは素晴らしい。また、そういう大きなイラストだけではなく、いわゆる捨てカットについても悪くない。コミックの同人誌ならいざ知らず、文学系の同人誌でここまでふんだんに捨てカットを使うという贅沢は普通許されない(笑)。これも身内にイラストレーターがいる強みであり、できれば御三方にはこの体制を崩さず続けてもらいたいものだ。
ということでさすがの一冊。管理人もカーについては、それこそ歴史ものを中心に十数冊未読があるので、背中をいいタイミングで押してもらった感じである。感謝。
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めとろんさん
マニアの中でもかなり濃い方々ですからねぇ。特に「猟奇の鉄人」は私がブログを始めるから愛読していたサイトで、こういう人たちがいると、うかうかマニアも名乗れないなぁと戦慄しておりました(笑)。
Posted at 22:15 on 12 01, 2020 by sugata