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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


香山滋『海洋冒険連続小説 孤島の花』(盛林堂ミステリアス文庫)

 香山滋のジュヴナイル『海洋冒険連続小説 孤島の花』を読む。盛林堂ミステリアス文庫の一冊で、三一書房の『香山滋全集』にも収録されなかった短編を収録したもの。

 孤島の花

「海洋冒険連続小説 孤島の花」
「眼球盗難事件」

 収録作は以上の二篇。「孤島の花」が冒険小説、「眼球盗難事件」は探偵小説という陣容である。これまで全集に収録されなかった理由は本書の「あとがききにかえて」に詳しいけれど、普通は作品が見つからなかった、存在が知られていなかったなどの理由がある。
 しかし本書収録の「眼球盗難事件」については、差別等の表現から収録を見送られたパターンではないかという。今では差別的とされる表現が含まれているのだが、「あとがきにかえて」では、こうした表現の問題に絡んで復刊が見送られるという事案はいかがなものかという問題提議もしており、非常に同感である。

 以下、簡単に感想を。
 「海洋冒険連続小説 孤島の花」は、戦時引き揚げ船が沈没して、無人島に漂着した少年・正夫君と少女の物語。無人島かと思っていたが、海賊船が略奪物の隠し場所として利用する島であることがわかり、二人の脱出口を描く。
 思ったほど主人公が活躍しないこともあるが、主人公・正夫君の、少女に対する感情や行動が不愉快で、これはいまひとつだった。

 「眼球盗難事件」は題名だけでも相当なインパクトだが、内容もまさにこのまんまで驚く。上でも書いた差別的表現の部分だけでなく、当時の戦災孤児の描写なども含めて、実はかなりヘビーな問題を孕んだ作品だ。これが子供向けに書かれた作品ということすら今では信じがたい。正直、書かれた当時より、いま読む方がはるかにその意味は重いのである。
 そう考えると本の価値(あくまで内容の価値)というものは時代とともに移り変わるものであって、それだけにその時々の政治や思想の都合だけで、作品を無かったことにするような真似は絶対にしてはならないのである。そんなことを改めて感じさせてくれた作品だった。
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Comments

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さかえたかしさん

どういたしまして。
こちらこそありがとうございました。

Posted at 08:35 on 12 14, 2020  by sugata

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了解しました。ありがとうございます。

Posted at 22:30 on 12 13, 2020  by さかえたかし

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さかえたかしさん

『電波的な彼女 愚か者の選択』は読んだことがないので、
いまネットで簡単に概要を調べてみました。
どうやら眼球を盗むという部分のみ一致しているようですが、香山のは義眼がメインですので、そこはあまり関係ないと思います。とはいえ気持ち良い描写ではないですが。
解説でも理由の断定はしていないのですが、まったく別の病気に関する差別的表現を挙げており、私もそちらではないかと思います。

Posted at 22:07 on 12 13, 2020  by sugata

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いつもTwitter、ブログを拝見させていただいております。
今回ちょっと気になってコメントします。
『孤島の花』は買えていないのですが「眼球盗難事件」は
もしかして『電波的な彼女愚か者の選択』(2005)のようなストーリーなのでしょうか。
もしそうなら1990年代に収録できなかったというのも分からないではないですが…。

Posted at 21:34 on 12 13, 2020  by さかえたかし

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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