- Date: Thu 31 12 2020
- Category: 極私的ベストテン 2020
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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極私的ベストテン2020
「探偵小説三昧」今年最後のブログ更新は、もちろん「極私的ベストテン」である。管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選ぶというもの。
最近の読書のテーマとしては、ロスマク読破計画、昭和作家、同人系作品などがあるが、加えて意識的に海外作家の新刊も追ってみた。その結果が今年のランキングにもけっこう影響しているように思う。
また、血気盛んな現代ミステリが相手だと、どうしてもクラシックミステリは分が悪いけれど、クラシックの面白さをぜひもっと知っていただきたく、ちょっと評価を甘めにしてあるのはご容赦くだされ(苦笑)。
では2020年の極私的ベストテン、ご覧ください。
1位 ディーリア・オーエンス『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)
2位 R・オースティン・フリーマン『ソーンダイク博士短篇全集I 歌う骨』(国書刊行会)
3位 周浩暉『死亡通知書 暗黒者』(ハヤカワミステリ)
4位 イーアン・ペアーズ『指差す標識の事例(上・下)』(創元推理文庫)
5位 ウィルキー・コリンズ『ウィルキー・コリンズ短編選集』(彩流社)
6位 エリオット・チェイズ『天使は黒い翼をもつ』(扶桑社ミステリー)
7位 クリフォード・ウィッティング『知られたくなかった男』(論創海外ミステリ)
8位 エラリー・クイーン『ナポレオンの剃刀の冒険』(論創海外ミステリ)
9位 ロバート・ロプレスティ『休日はコーヒーショップで謎解きを』(創元推理文庫)
10位 L・J・ビーストン『ビーストン傑作集』(創土社)
1位『ザリガニの鳴くところ』は年末ギリギリに読了した一冊で、ミステリ要素は弱いけれどもそれを補って余りある魅力と感動がある。読後の満足感は圧倒的で、今年に関してはホロヴィッツよりも全然上だと思うのだがなぁ。
2位はクラシックミステリ枠(いつの間にそんな枠が?)から『ソーンダイク博士短篇全集I 歌う骨』。版元は異なるけれど、近年のホームズのライヴァルたち全短編邦訳化のムーヴメントの流れをくむ一冊である。思考機械や隅の老人もそうなんだが、本書も本職ではない方からの発信というのもまた素晴らしい。
3位は華文ミステリの新しい魅力を教えてくれた一冊。ここまでエンタメに突っ走ったミステリが中国本土で出ていたことに驚かされた。惜しむらくは三部作の一作目ということなので、内容を覚えているうちに早く次が出てほしいものだ。
4位は歴史ミステリの力作で、これだけやってくれればランクインさせるしかないのだが(笑)、もう少しエンターテインメントというものに歩み寄った方がよかったかなというのはある。ボリュームがあるだけに、著者にはリーダビリティをより意識してもらいたいところだ(何を偉そうに)。
5位はクラシック中のクラシック。十九世紀の作品だし、サラッとした短編ばかりなので、表面的にはまあまあ面白いといった感じなのだが、エンタメの極意みたいなものを感じられて忘れ難い一冊である。4位の人にはぜひ見習ってもらいたい。
6位はノワール枠から。ちょっとあざとい感じも受けるが、この完成度はすごい。こういうのを読むと、最近、積むだけになってしまったトンプスンもそろそろ再開しなくてはと思ってしまう。
7位は久々の英国のクラシックミステリの佳作。解説を担当したからいうわけではなく、本当におすすめである。ミスリードとラストの意外性は「そうきたか」という感じで、上質の読書時間を過ごすことができるはず。
8位はラジオドラマのシナリオ集だが、クイーンが直接手がけた中からセレクトされたものであり、本格ミステリファンを自認するなら必読レベル。原書では『死せる案山子の冒険』と合わせて一冊なので、そちらもぜひどうぞ。
9位は昨年の読み残し短編集。本格からサスペンスまでバラエティ豊かな内容で、オチもばっちり決まっている。安心しておすすめできる万人向けの良書。
10位は迷いに迷ったのだが、文庫化されて誰もが手軽に読めるようになってほしいという願いを込めてビーストンに。
以上、探偵小説三昧の2020年度極私的ベストテンである。
なお、本来なら文句なしの一位候補だったロス・マクドナルド『さむけ』だが、こちらは再読ゆえ対象外とした。もちろんすべてのミステリファン必読レベルの作品なので、未読の方はぜひ。
また、ベストテンには残念ながら入れなかったけれども、以下の作品も心に残ったものばかりなので、順位不問で挙げておこう。
ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(東京創元社)
アンソニー・ホロヴィッツ『その裁きは死』(創元推理文庫)
ニコラス・オールド『ロウランド・ハーンの不思議な事件』(ROM叢書)
ウォルター・モズリイ『流れは、いつか海へと』(ハヤカワミステリ)
ルーファス・キング『緯度殺人事件』(論創海外ミステリ)
マイクル・コナリー『レイトショー(上・下)』(講談社文庫)
ジョセフィン・テイ『美の秘密』(ハヤカワミステリ)
デイヴィッド・ゴードン『用心棒』(ハヤカワミステリ)
ユーディト・W・タシュラー『国語教師』(集英社)
泡坂妻夫『ヨギ ガンジーの妖術』(新潮文庫)
岩田準一『彼の偶像 岩田準一作品集』(盛林堂ミステリアス文庫)
さらにノンフィクションにもいいものが多かった。『探偵小説の黄金時代』や『筒井康隆、自作を語る』は言うまでもないが、『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』といったマイナーどころも要注目である。
また、ノンフィクション系では非出版流通というか、つまり同人の作品も増加しており、マニア諸氏のレベルの高さがうかがえる。こちらも準不問でどうぞ。
マーティン・エドワーズ『探偵小説の黄金時代』(国書刊行会)
筒井康隆『筒井康隆、自作を語る』(ハヤカワ文庫)
花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』(西日本新聞社)
木魚庵『金田一耕助語辞典』(誠文堂新光社)
東秀紀『アガサ・クリスティーの大英帝国 名作ミステリと「観光」の時代』(筑摩選書)
久我真樹『名探偵ポワロ』完全ガイド (星海社新書)
-----以下、同人系
小野純一/編『大阪圭吉自筆資料集成』(盛林堂ミステリアス文庫)
森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』(饒舌な中年たち)
kazuou『夢と眠りの物語ブックガイド』
ということで駆け足ではありましたが、以上をもって今年の「探偵小説三昧」の総括とさせていただきます。
本年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。
最近の読書のテーマとしては、ロスマク読破計画、昭和作家、同人系作品などがあるが、加えて意識的に海外作家の新刊も追ってみた。その結果が今年のランキングにもけっこう影響しているように思う。
また、血気盛んな現代ミステリが相手だと、どうしてもクラシックミステリは分が悪いけれど、クラシックの面白さをぜひもっと知っていただきたく、ちょっと評価を甘めにしてあるのはご容赦くだされ(苦笑)。
では2020年の極私的ベストテン、ご覧ください。
1位 ディーリア・オーエンス『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)
2位 R・オースティン・フリーマン『ソーンダイク博士短篇全集I 歌う骨』(国書刊行会)
3位 周浩暉『死亡通知書 暗黒者』(ハヤカワミステリ)
4位 イーアン・ペアーズ『指差す標識の事例(上・下)』(創元推理文庫)
5位 ウィルキー・コリンズ『ウィルキー・コリンズ短編選集』(彩流社)
6位 エリオット・チェイズ『天使は黒い翼をもつ』(扶桑社ミステリー)
7位 クリフォード・ウィッティング『知られたくなかった男』(論創海外ミステリ)
8位 エラリー・クイーン『ナポレオンの剃刀の冒険』(論創海外ミステリ)
9位 ロバート・ロプレスティ『休日はコーヒーショップで謎解きを』(創元推理文庫)
10位 L・J・ビーストン『ビーストン傑作集』(創土社)
1位『ザリガニの鳴くところ』は年末ギリギリに読了した一冊で、ミステリ要素は弱いけれどもそれを補って余りある魅力と感動がある。読後の満足感は圧倒的で、今年に関してはホロヴィッツよりも全然上だと思うのだがなぁ。
2位はクラシックミステリ枠(いつの間にそんな枠が?)から『ソーンダイク博士短篇全集I 歌う骨』。版元は異なるけれど、近年のホームズのライヴァルたち全短編邦訳化のムーヴメントの流れをくむ一冊である。思考機械や隅の老人もそうなんだが、本書も本職ではない方からの発信というのもまた素晴らしい。
3位は華文ミステリの新しい魅力を教えてくれた一冊。ここまでエンタメに突っ走ったミステリが中国本土で出ていたことに驚かされた。惜しむらくは三部作の一作目ということなので、内容を覚えているうちに早く次が出てほしいものだ。
4位は歴史ミステリの力作で、これだけやってくれればランクインさせるしかないのだが(笑)、もう少しエンターテインメントというものに歩み寄った方がよかったかなというのはある。ボリュームがあるだけに、著者にはリーダビリティをより意識してもらいたいところだ(何を偉そうに)。
5位はクラシック中のクラシック。十九世紀の作品だし、サラッとした短編ばかりなので、表面的にはまあまあ面白いといった感じなのだが、エンタメの極意みたいなものを感じられて忘れ難い一冊である。4位の人にはぜひ見習ってもらいたい。
6位はノワール枠から。ちょっとあざとい感じも受けるが、この完成度はすごい。こういうのを読むと、最近、積むだけになってしまったトンプスンもそろそろ再開しなくてはと思ってしまう。
7位は久々の英国のクラシックミステリの佳作。解説を担当したからいうわけではなく、本当におすすめである。ミスリードとラストの意外性は「そうきたか」という感じで、上質の読書時間を過ごすことができるはず。
8位はラジオドラマのシナリオ集だが、クイーンが直接手がけた中からセレクトされたものであり、本格ミステリファンを自認するなら必読レベル。原書では『死せる案山子の冒険』と合わせて一冊なので、そちらもぜひどうぞ。
9位は昨年の読み残し短編集。本格からサスペンスまでバラエティ豊かな内容で、オチもばっちり決まっている。安心しておすすめできる万人向けの良書。
10位は迷いに迷ったのだが、文庫化されて誰もが手軽に読めるようになってほしいという願いを込めてビーストンに。
以上、探偵小説三昧の2020年度極私的ベストテンである。
なお、本来なら文句なしの一位候補だったロス・マクドナルド『さむけ』だが、こちらは再読ゆえ対象外とした。もちろんすべてのミステリファン必読レベルの作品なので、未読の方はぜひ。
また、ベストテンには残念ながら入れなかったけれども、以下の作品も心に残ったものばかりなので、順位不問で挙げておこう。
ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』(東京創元社)
アンソニー・ホロヴィッツ『その裁きは死』(創元推理文庫)
ニコラス・オールド『ロウランド・ハーンの不思議な事件』(ROM叢書)
ウォルター・モズリイ『流れは、いつか海へと』(ハヤカワミステリ)
ルーファス・キング『緯度殺人事件』(論創海外ミステリ)
マイクル・コナリー『レイトショー(上・下)』(講談社文庫)
ジョセフィン・テイ『美の秘密』(ハヤカワミステリ)
デイヴィッド・ゴードン『用心棒』(ハヤカワミステリ)
ユーディト・W・タシュラー『国語教師』(集英社)
泡坂妻夫『ヨギ ガンジーの妖術』(新潮文庫)
岩田準一『彼の偶像 岩田準一作品集』(盛林堂ミステリアス文庫)
さらにノンフィクションにもいいものが多かった。『探偵小説の黄金時代』や『筒井康隆、自作を語る』は言うまでもないが、『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』といったマイナーどころも要注目である。
また、ノンフィクション系では非出版流通というか、つまり同人の作品も増加しており、マニア諸氏のレベルの高さがうかがえる。こちらも準不問でどうぞ。
マーティン・エドワーズ『探偵小説の黄金時代』(国書刊行会)
筒井康隆『筒井康隆、自作を語る』(ハヤカワ文庫)
花房観音『京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男』(西日本新聞社)
木魚庵『金田一耕助語辞典』(誠文堂新光社)
東秀紀『アガサ・クリスティーの大英帝国 名作ミステリと「観光」の時代』(筑摩選書)
久我真樹『名探偵ポワロ』完全ガイド (星海社新書)
-----以下、同人系
小野純一/編『大阪圭吉自筆資料集成』(盛林堂ミステリアス文庫)
森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』(饒舌な中年たち)
kazuou『夢と眠りの物語ブックガイド』
ということで駆け足ではありましたが、以上をもって今年の「探偵小説三昧」の総括とさせていただきます。
本年も大変お世話になりました。また、来年もどうぞよろしくお願いいたします。